今日も幼馴染みの幸せを願う

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
1 / 3

前編

しおりを挟む

今日は私の幼馴染みの話をしよう。


僕はフレドリック、僕の幼馴染みのキャロラインとは家が隣同士。それに僕の母様とキャロルの父親はいとこなんだ。

だから小さい頃から毎日一緒に遊んだ。キャロルはよく笑う元気な女の子なんだ。一緒に走り回りお菓子だってたくさん食べるし疲れたら一緒に昼寝もする。


僕は今日も今か今かとキャロルを庭で待ってる。だって一人で遊んだって楽しくないんだ。5歳年上の兄様は『もう庭で遊ぶ年じゃない』って遊んでくれないし、母様は僕が遊んでいるのをただ眺めているだけ。父様はお仕事に行っちゃう。

同じ年のキャロルは僕と一緒に遊んでくれる。それに兄様とかけっこしても負けるけどキャロルとなら僕が勝てる。

『女の子は泣き虫だから男の子が守ってあげないといけないのよ』

母様はいつも僕に言うけど、5歳の僕にはまだ分からない。遊ぶ時はいつも全力で、それに負けたくない。僕は一番が良いんだ。


庭でキャロルを待ってるとおじさんの怒鳴り声が聞こえた。それからキャロルの泣き声。

おじさんは時々怒鳴り散らす。そうすると決まってキャロルの泣き声付きだ。『あ~今日は遊べないや』って寂しい気持ちになる。


「すみません、今日はお嬢様の体調が思わしくないのでお部屋でお眠りになられるそうです」


ほらね。キャロルの家のメイドが伝えに来た。

一人で庭で遊んでも楽しくない。でも兄様のように勉強も嫌だ。だから僕は母様に内緒でキャロルの家に行くんだ。おじさんは怒鳴り散らすと部屋に籠もる。その日は部屋から出てこない。


「キャロル」

「フレッド…」


目を真っ赤にしてベッドの上でうつ伏せになってるキャロル。僕は家からお菓子をたくさん持ってきて一緒に食べるんだ。

こんな日は僕はお調子者になってキャロルを笑わかせる。リスの真似をしたり口いっぱいにお菓子を入れて詰まらせたり、『もう』って呆れながらも笑ってくれるキャロルの姿を見て安心する。

キャロルは笑顔の似合う女の子なんだ。だからいつも笑っていてほしい。泣き顔なんて見たくない。

キャロルをいつも泣かすおじさんが僕は大嫌いだ。



そんなキャロルが段々笑わなくなった。キャロルから笑顔が消えた。僕の大好きな笑顔が消えた。僕が何をしても笑わなくなった。

僕だって8歳になればおじさんの怒鳴り散らす言葉の意味はもう分かった。

『お前がどうしてのうのうと生きてる。お前がキャシーの代わりに死ねば良かったんだ。キャサリンを返せ、今すぐ俺にキャシーを返せ!』

『ごめんなさいお父様、ごめんなさい、ごめんなさい…』

自分の娘に言う言葉じゃない。

キャロルの母親はキャロルを産んで死んだ。

『ジムとキャシーはお互いが大好きだったの。キャシーのご両親はジムとの結婚を認めなかったわ。家柄の違いもあった。ジムは家と一緒で子爵家、キャシーは侯爵家だったしね。それにキャシーは寝込む程の病弱ではなかったけど強くもなかった。キャシーのご両親はキャシーを誰にも嫁がせず侯爵家で一生暮らさせるつもりだったの。

でもジムと離されたキャシーは段々体調が悪くなった。キャシーはジムと一緒にいるから元気だったの。ジムの愛がキャシーの体と心の元気の源だったのよ。

ご両親だってキャシーに元気でいてほしい。誰も子の幸せを奪いたい訳じゃないわ。ただ心配だっただけ。格下の子爵家に嫁がせる事が心配だっただけなの。だからジムに『子爵で一番の財力になってから出直せ』と言ったらしいわ。

ジムはそれから我武者羅に、キャシーと結婚する為に努力した。寝る間を惜しんでね。領地の見直し、特産物の開発、自国だけではなく他国にも目を向けた。商会を経営し子爵だけでなく伯爵の財力も上回った。

結婚して1年、キャシーに子が宿ったの。だけど残念な事に流れてしまった。塞ぎ込むキャシーを救ったのはジムの愛だったわ。本当に二人は仲の良すぎる夫婦だった。ジムは愛妻家、それが似合う人よ。

妻を愛しすぎる故にキャシーの死を未だに受け止められないの。だからってキャロルに当たり散らしていい訳じゃないわ。キャシーとの愛の結晶を、キャシーが命懸けで産んだキャロルを、ジムが愛せない訳がないもの…』

母様がジェームスおじさんに何度も話してるのは知ってた。だから母様はキャロルを僕と一緒に育てた。僕とキャロルは母様の乳を飲み育った。

赤子の頃はこの家で一緒に。

『私も悪かったの。キャロルが産まれたばかりの時はジムに余裕がなかった。キャシーが亡くなりジムは抜け殻のようになっていたから。このままではキャシーが命懸けで残したキャロルが死んでしまうと思って私がジムから取り上げたの…』

でも母様が乳を飲ませなかったら、赤子の世話をしなかったら、キャロルは死んでいた。

1歳になり少しづつキャロルをおじさんと会わせた。昼間だけ一緒に過ごすようになった。勿論手伝いのメイドもいる。どうしても乳が必要な時だけ母様が隣に行きキャロルに乳を飲ます。

そうやって僕の幼馴染みのキャロルは育った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

山あり谷あり…やっぱ平坦なのがいいよね

鳥類
恋愛
ある日突然前世の記憶が蘇った。まるでそれを覆っていたシャボン玉が割れて溢れ出たように。 思い出したことで気づいたのは、今自分がいる世界がとある乙女ゲームの世界という事。 自分は攻略対象の王太子。目の前にいるのは婚約者の悪役令嬢。 …そもそも、悪役令嬢って…俺が心変わりしなきゃ『悪役』にならないよな? 気付けば攻略対象になっていたとある王太子さまが、自分の婚約者を悪役令嬢にしないためにヒロインさんにご退場いただく話です。 ヒロインは残念女子。ざまぁはありますが弱めです。 ドラマティックな展開はありません。 山も谷も盛り上がりも無くてもいい、大切な人と一日一日を過ごしたい王子さまの奮闘記(?) サラッとお読みいただけたらありがたいです。

旦那様、愛人を頂いてもいいですか?

ひろか
恋愛
婚約者となった男には愛人がいる。 わたしとの婚約後、男は愛人との関係を清算しだしたのだが……

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

処理中です...