私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
33 / 33

33 愛

しおりを挟む

「おとうさまだいすき」

「父様も大好きだよ」


娘を抱きしめる一人の父親。


ごく普通の父親と娘の姿…



父親と母親、そして子供。仲の良い家族。

子供が庭を走り回り、それを愛おしそうに妻の肩を抱き寄せ見つめる夫婦。

嘘偽りない家族の時間…。



ようやく得た私の幸せ…

ここまで何年かかったのだろう…



「ハンナどうした」

「前にね思ったの。前の夫の事を愛していなくても子供さえ出来ればって。その子を支えに生きていこうって。どんな我慢も耐えられるって。

私は自分の為に子供が欲しかった。

でも子供は私の所有物じゃないわ。私が産み育てても子供には子供の意思がある。

私はお母様のようにならないって思ってたはずなのに私もお母様と同じだったの。お母様はお父様を繋ぎ止める駒が欲しかった。私は自分の味方が欲しい、ただそれだけで子供が欲しかった。

だから今思えば出来なくて良かったわ。私のように不幸になる子を増やすだけだもの」

「今は?」

「今も本当を言うと分からないの。夫婦になったから子供が欲しいのか、家族は親と子供それが当たり前だと思っているのか、やっぱり自分の為に欲しいのか、ガラン様に家族の幸せを知ってほしいと思っているのか…。

でもこれだけははっきり言えるわ。あの子の為にどんな事でも我慢出来るし耐えられるわ。それにあの子を守る為ならこの身を呈してもいい。あの子が生きているのならそれでいい、そう思うの。

それに私だけはあの子の味方になる、そう思っているわ。

子供が出来て嬉しかった。貴方の子供が産めて本当に幸せよ。でも貴方との愛の証が欲しかったのも事実なの」

「それは俺も思う。ハンナとの愛の証が出来て嬉しかった。これで本当に家族になれた、そう思った。

家族と呼べる人達は大勢いるが、俺は俺の家族が欲しかった。同じ家で暮らし同じご飯を食べる。起きたらそこにいて寝るまで一緒に過ごす。楽しい事も嬉しい事も悲しい事も辛い事も寂しい思いも共有し同じ時を刻む家族が俺は欲しかった」


そうよね、ガラン様は家族で過ごす事は出来なかった。お父様もお母様も死を覚悟しガラン様だけを生かした。

それを思えば私は5歳まで家族というものを知っている。だからこそ絶望も大きかった。

知らなかった家族の温もり、それをガラン様に知ってもらえて本当に幸せ。


ガラン様を私が幸せにしたい、その思いは今も変わらない。

何気ない日常が、子供と遊ぶガラン様が、幸せそうな顔をしていると私まで幸せになれる。

私達家族の形は私達で作っていけばいい。そして願わくばこの幸せが続く努力をしたい。


あの日、初めてガラン様と会った日、あの日から私とガラン様の縁が繋がった。

そして私達の愛娘との縁も繋がった。


切れる縁があれば繋ぐ縁がある。

私はもう切れた縁を繋ごうとは思わない。切れた縁の人達が今どうなっていようが気にもならない。

私の手からこぼれ落ちていった人達は私の手から離れた。

不幸だと嘆き諦めた。

離れていった人達を思い続け最後は私は私を離した。

そんな私に手を差し伸べて救い上げてくれた人達に今は感謝しかない。

生きていて良かった。自分を取り戻せて良かった。だからこそ新たに繋がった縁を大事にしたい。

目に見えない縁…

でもそれは必然的に引き寄せられ繋がった。その節節でガラン様がいた。

私の縁を繋ぎ合わせた人…

胸元に光る一粒の光、切れる事のない鎖を私に繋いだ。

ガラン様は愛が重たいと言っていたけどそれは違う。ガラン様は愛が深い人。

自分の幸せよりも相手の幸せを願う愛情深い人。だから私はガラン様に届くように愛を伝える。


「ガラン様と出会えて私は幸せです」

「俺もハンナと出会えて幸せだ」

「ガラン様と夫婦になり家族になれて本当に私は幸せ者です」

「それを言うなら俺の方だ」


私の肩を抱くガラン様にもたれかかる。


「おとうさま、おかあさま、しあわせってなに?」

「こういう事よ」


私は愛娘のシャーナを抱き上げ抱きしめた。そしてガラン様は私とシャーナを抱きしめた。


「おかあさまくるしいよ」

「でもくっついていると嬉しいでしょ?」

「うん」


笑顔で頷くシャーナ。


「シャーナもしあわせ。おとうさまとおかあさまとくっつくのうれしいもん」


この先、この子の縁が誰と繋がり、誰と恋をするか、それはまだ分からない。それでも私のように裏切られる人生は歩んでほしくない。


「シャーナってびじんさん?」

「急にどうしたの?」

「このまえおじちゃまがいってたの。シャーナはははおやににてびじんさんになるなって。それでね、あいつにになくてほんとうによかったってないてたの」

「何だと、あいつはいつも一言多いんだ」

「おとうさま、でもね、シャーナのかみをなでていたときのおじちゃまのめはとってもやさしくてうれしそうだったよ」


国王陛下は年に数回お忍びでこの家に遊びに来る。

それにシャーナの髪の色はガラン様と同じ。瞳の色もガラン様と同じ。顔は私に似てるけど。

傍から見れば姪を可愛がるおじ。

でももうそろそろ教えないといけない。おじちゃまはこの国の王だと。


「おじちゃまはシャーナがおおきくなってもくらしやすいくににしないとなっていってた。でもおじちゃまならできるよね?

だってこのくにはおじちゃまとおとうさまがまもってるんだもん」


親が思うより子は周りをよく見ている。

そして伸び伸びと元気に成長している。

ガラン様と私の愛を受け取りこれからも成長する。

愛してるわシャーナ

私とガラン様の可愛い愛娘


「シャーナね、おとうさまとおかあさまがだいすきよ」




            完結




しおりを挟む
感想 44

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(44件)

kokekokko
2023.01.04 kokekokko

とても素敵なお話でした。多くの方と同じく最初は、どこまで不幸が続くのかとおもいつつ、でもきっと!と読み続けていましたが、読んていてよかったと思いました。こほれおちるものは、全てが悪いものではなく、空っぽに見えた手のひらにも新しく注がれるものがある。でも一定量しか持てないから、やはりこぼれ落ち、でもそれを選べるときも来る。そんな気持ちになりました。完結おめでとうございます。お疲れ様でした。

2023.01.04 アズやっこ

kokekokko様

コメントありがとうございます。

始まりから辛い展開が続き本当にハッピーエンドになるの?と思われたと思います。
ハンナの世界は狭く、そして広い世界に目を向けた時、そこにはハンナを心配し愛してくれる人達が大勢いました。

手からこぼれ落ちたものは拾えないし戻す事もできません。それでもまた新たに手に乗せる事はできます。

ハンナは今度こそ縁を大事にしようと向き合い幸せになりました。

完結までお付き合い頂き本当にありがとうございます。今年もコツコツと作品を投稿していくので、またkokekokko様の目に止まる事を願っています。

解除
ノコノコ
2023.01.03 ノコノコ

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

作品の完結おめでとうございます。
ハンナの伯父様家族、ガランの兄である王様達が皆良い人で、何も持っていなかった二人が沢山の人から愛され、家族を持ててハッピーエンド良かったです。

2023.01.04 アズやっこ

ノコノコ様

コメントありがとうございます。

始まりは辛い展開でしたが、ハンナにもガランにも心配してくれる人達が周りにはいました。不幸な生い立ちの二人が夫婦になり親になり家族になる、そんな幸せをお届けできればと。

完結までお付き合い頂き本当にありがとうございます。

あけましておめでとうございます。今年もコツコツと作品を投稿していくので、また違う作品もノコノコ様の目に止まる事を願っています。

解除
えすく
2023.01.03 えすく

あけましておめでとうございます!

ガラン殿×ハンナさんのお2人が幸せそうで何よりです!!
シャーナという天使までも😊

色々あった先に幸せな家族になれたのは良かったです。

ありがとうございます!!(*'▽'*)♪

2023.01.04 アズやっこ

えすく様

コメントありがとうございます。

ハンナだけでなくガランにも幸せになってほしい。そして二人の幸せな姿をお届けできました。

完結までお付き合い頂き本当にありがとうございます。

あけましておめでとうございます。今年も拙い文章ですがコツコツと作品を投稿していきます。またえすく様の目に止まる事を願っています。

解除

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

(完)悪女の姉から解放された私は・・・・・・(全3話)

青空一夏
恋愛
お姉様は私から恋人を奪う悪女。だから私はお姉様から解放されたい。ショートショート。3話完結。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私

青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。 中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。 お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。 だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!  これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。