24 / 33
24 マダム
しおりを挟む後日、お礼を兼ねてガラン様に手料理を振る舞った。少し良いお肉を焼き、少し高いお酒を用意した。
「酒か…」
「お嫌いでした?」
「いや、昔酒に細工をされてな。飲み慣れていないから細工をされてもこんな味かとしか思わないからな」
「私が何か細工をすると思います?」
「それもそうだな」
確かにガラン様はここではお水ばかり。お酒を用意しても飲んだ事はない。私も前にお客さんに勧められてお酒を飲んだ事があるけど味がついていて何か細工されていても分からないかもしれない。
私はお酒が弱いからほとんど飲まないし、お酒の味も分からない。もし私が飲むお酒に何か細工をされても私もこんな味なのねと気付かないかもしれない。
それが毒でも媚薬でも…。
毒なら死ぬかもしれない。媚薬なら醜態をさらす事になるかもしれない。私は醜態をさらそうが別に傷は付かない。でもガラン様なら将軍の地位が揺らぐ事になるかもしれない。
将軍はガラン様自身が努力で得た地位。ガラン様はいらないと言うかもしれないけど、でもそれは国王がガラン様の強さを認めた証。この国一番の剣士だと認めた証。
お酒が進み、
「俺はさ、別に強くない。国王の目に止まったのは事実だけどな」
「酔ってます?」
「いや、ただ今なら酔っ払いの戯言になるだろ?戯言なら本音を言っても本音とは取らない」
確かにお酒の席で何かを言っても酔っ払いの戯言、そう思うかもしれない。お客さんにも『そんな事言ったか?』と言った事を忘れる人もいる。
でもガラン様を失脚させたい人からは言質を与える事になる。ガラン様はそんな失態をしないと思うけど。
「将軍だ、国一番強い騎士だともてはやされているが、俺より強い騎士は他にもいる。その人達ではなく俺が将軍と呼ばれ今の地位にはいるが…、だからこそ俺は強くなければならない。この地位を授けた国王の為にも、俺を育てた爺さんの為にも、俺は強くなり力をつけないといけなかった。
守られてばかりでは駄目なんだ。
だから俺は誰も俺に手出しができないように実力をつけた。戦だろうと賊だろうと、この国を守る為に、俺の名を轟かせた。ようやく将軍の身分に見合うようになったんだ」
ガラン様は何か考え事をしているのか目を瞑った。
目を開けた時、私と目が合った。
「うん、よし。ハンナ、少し留守にする。当分ここには来れないだろう」
「分かりました」
「一度王都に行ってくる」
「王都ですか?分かりました、お気をつけて」
それからガラン様はここには顔を出さなくなった。
それからマダムにだけはクラリス商会の奥様が私のお母様だと伝えた。マダムはとても驚いていた。『そんな人には見えなかった』と。
「ハンナ、私達娼婦はほとんどが親に売られ捨てられた。女に産まれたばかりに売られたんだ。誰も女に産んでくれなんて頼んでないのにね。男を知らない14歳の時に私はここに売られたよ。その時幼い妹だけは売らないでくれと親に頼み毎月お金も送った。お金を稼ぐ為なら嫌な男にでも体を差し出したさ。それに娼婦は買ってもらってなんぼだからね、どんな客でも相手したよ。妹を守る為なら何でも出来た。
でも私の親はまだ女の体に出来上がっていない妹まで売ったんだ。まだ妹は8歳だったよ。子供の体が好きな若造に妹は殺されたんだ。
私の父親は騙されやすい人だった。儲け話なんて大抵がお金を奪われさよならだ。それでもまだ土地があった時は良かった。売れる物が無くなり今度は子供を売った。普通なら一度騙されれば分かるだろうにあの男は今度こそはとまた騙された。馬鹿なくせに、いや、馬鹿だからいいカモにされたんだ。母親は父親に逆らえない人だったからね、それからは子を産めば売れる。それに私からも金を巻き上げられる。あの人達は私に寄生する蛆虫だ。自分で蒔いた種は自分で返せって言うんだよ。
私はね、どんな理由だろうと子を捨てる親が大嫌いなんだよ。子は親の道具じゃない。自分の子供だからといいように扱っていい訳がない。
今がどんなに良い人でも子を捨てた人を私は許さない。クラリス商会とはもう取引はしないよ。商会は何もクラリス商会だけじゃないしね。
あんたも辛かっただろ。気付いてあげられなくて悪かったね」
「マダムが謝る必要はありません。私も早く伝えれば良かったんですが…」
「言えないさ」
マダムは私を抱きしめた。
「ハンナもここにいる子達も私の娘だ。先代のマダムも私達娼婦を大切にしてくれた。私達をいつも守ってくれた。私はマダムが母親だと思ってるよ。だからマダムの跡を受け継いだ。ここを守る為に、娼婦を守る為に。
乱暴に娼婦を扱う客はここの客にはなれない。そういう情報は他の娼館と共有するからね。お互いが納得し楽しむなら別だよ。そういう趣向の客はいるからね。まあその分落とす金も跳ね上がるからね。私はそういう客で稼がせてもらったしね。
ただ、ガランだけはすまないね。あの子は特別なんだ。あの子は私にとって赤子の時から知ってる息子のようで弟のようなんだ。爺さんが死んで帰る場所がないあの子の帰る家にしたいんだ」
それは何となく分かっていた。マダムがガラン様を見つめる目はいつも優しいから。
84
お気に入りに追加
989
あなたにおすすめの小説
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。


(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。

(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私
青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。
中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。

(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!
青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。
お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。
だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!
これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる