完結した作品の番外編特集

アズやっこ

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半日だけの…。貴方が私を忘れても

もう一つの物語 前編

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朝、目が覚め俺は体を起こす。起こした目線の先、


「隣で寝ているのは妻のリリー」
「俺は19歳ではなく34歳」
「怪我で記憶を失くした」
「今日の記憶は今日しか覚えていない」
「昨日の記憶を忘れる」
「足は動かない」
「騎士には戻れない」
「車椅子生活」
「俺の妻はリリー」
「結婚して10年」
「俺の息子は8歳のロイス」
「俺の娘は5歳のロリーナ」
「リリーを愛してる」
「俺にとって無くてはならないもの」
「大切でとても大事なもの」
「愛する妻のリリーと愛しいロイスと愛しいロリーナ」
「リリーと夫婦の寝室で一緒に寝ている」
「家族で庭の散歩は日課」

「食事は2階」
「午後から母家へ行き侯爵家の仕事をする」
「エマとは20歳の時に別れた」
「エマは現在伯爵当主夫人」
「騎士はニック」

「今日はロイスとクッキーを買いに行く約束」


俺は毎日壁に貼られた紙を読む。


「ルイ様」

「おはよう。リリーだよな。リリーは俺の妻。ここは夫婦の寝室だよな」

「はい、そうです。おはようございますルイ様」


同じベッドの上、繋がれた手。

リリーに少し手伝ってもらい服を着替える。


「リリー手伝ってくれてありがとう。ロイスとロリーナは俺が起こしに行くよ。悪いが車椅子をベッドに寄せてくれるか」


車椅子を寄せてもらい俺は車椅子に乗った。扉には何の部屋か誰の部屋かが分かるように書かれている。

子供達が寝ている子供部屋に入り、子供達の寝顔を見る。

男の子は俺の息子で8歳のロイス。

寝ているロイスの頭を撫で頬を撫でる。


「ロイス、起きろ、朝だぞ」


目を擦りながら起き上がるロイス。


「父様、今日は、」

「クッキーを買いに行く約束だろ」

「うん」

「朝食を食べたら行くか?」

「うん」


笑顔のロイスの頭を撫で手を広げる。


「ロイスおいで」


ロイスが恥ずかしそうに俺の膝の上に座った。


「僕もう8歳だよ、恥ずかしよ」

「何歳になってもロイスは俺の愛しい息子には変わらないだろ。愛してるロイス」


俺はロイスを抱きしめた。

昨日の記憶はない。それでもロイスの温もり、抱き心地、それは身に付いたものなのか違和感はない。抱きしめるのが当然の事、そう思う。愛しい存在だと心が訴えてくる。


ロイスが服を着替える間に、

ロリーナ、俺の娘で5歳。


「ロリーナ、起きような」

「とうさま……だっこ…」

「おいでロリーナ」


布団から手を広げるロリーナを抱っこする。頭を撫で頬を撫でる。

ロリーナ可愛い

俺の子、可愛すぎる

ぎゅっと抱きしてればロリーナは俺の腕の中でまた眠ってしまった。


「愛してるよロリーナ」

「えへへっ…」


寝ているロリーナを起こさないように、落とさないように車椅子を片手で動かそうとしたら、


「父様、僕が押すね」

「ロイス…、ありがとう。ロイスが優しい子に育って父様嬉しいよ」


俺が車椅子生活になってから2階で食事を取る。


「ロリーナ、起きなさい。いつまで寝てるの」

「リリーそう怒るな、起こしたら可哀想だろ」

「ルイ様はいつも甘やかすんだから」

「そう、なのか?でも可愛い寝顔だと思わないか?ずっと見ていられる」

「朝食を食べたらお出かけするんでしょ。ロイスと先に食べて下さい」

「ああ。ロイス、父様と一緒に食べよう」


食事には札が置いてありどこに座れば良いか分かる。俺は自分の名前の札の前に座る。そして横の札はロイスの名前。

リリーがロリーナを抱っこし一生懸命起こしている隣で俺はロイスと並んで朝食を食べる。

朝食を食べ終わるとリリーとロリーナが食べ始めた。


「リリー、俺とロイスは出かけようと思うが良いか?」

「はい、気をつけて」

「ニック」


顔は分からないが名を呼べば来てくれる。そこで顔と名前を一致させる。毎日確認して皆に申し訳ないと思う。


「ニック、今からロイスとクッキーを買いに行くんだが、付いてきてくれるか?」

「はい」


騎士達に階段を下ろしてもらい外に出た。


「馬車で行きますか?」

「歩いて行ける距離か?」

「行けますが少し距離があります。歩いて30分くらいかと」

「30分か…うん、運動がてら歩こう。途中でニックに押してもらうかもしれないが良いか?」

「はい」


俺は自分で車椅子を動かす。どうしても自分で動かせない所はニックに押してもらう。ロイスはニックと手を繋いでいる。

途中、


「父様、僕疲れた」

「なら父様の膝に座るか?」

「いいの?」

「ニック、二人分になるが押してくれるか」

「任せて下さい」


ロイスが俺の膝の上に座った。


「それでそれで」

「ルイさんはものすごく厳しくてな、でもものすごく優しい人だ」


ロイスはニックに俺が忘れた記憶の部分を聞いている。俺も聞きながら、そんな事があったのか…、俺副隊長になったんだ、と他人事のように聞いている。


クッキー屋に着いて俺は入口で待つ。店内は狭く車椅子では動きにくい。


「父様、もう買っていい?」

「ああ」


ロイスはニックに教えてもらいながらお金を出し紙袋に入れられたクッキーを抱え幸せそうな顔をしている。


「父様、一枚だけ食べていい?」

「母様に内緒だぞ。男同士の約束だ」

「うん。男同士の約束ね。父様も食べる?」

「ああ、ロイス父様にも1枚くれるか?」

「父様、男同士の約束だね」

「ああ、約束だ。ロイス、ニックにも1枚あげてもいいか?」

「いいよ」


ニックはロイスからクッキーをもらい食べた。


「これでニックも共犯だ」


俺はニヤっと笑って言った。


「ルイさん、そういう所は昔から変わらないんですね。でもそういうルイさんだから俺はこの人にずっと付いていこうと思ってました。勿論騎士として尊敬していたからですが」

「ハハハッ、昔から俺は変わらないんだな」


3人で笑い、話しながら邸に戻った。




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