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孤児院を一周りし、私達は孤児院を出た。
馬車の中、グレンが突然、
「そう言えばさ」
「何?」
「小耳に挟んだ話だけどさ」
「だから何」
「お前の元婚約者」
「ジェフ様?」
「そう、あのクズ男がさ」
「クズ男、まあそうね」
「最近浮浪者が集まる所で見かけたって話だぞ」
「そう」
「気にならねえの」
「気にならないわね」
「俺は笑ってやりたいけどな」
「グレン」
「お前を罵った奴だ、俺は許す気はないからな」
「だからって」
「嘲笑ったっていいだろ?」
「グレン」
「あれだけ啖呵きっておいて結局落ちぶれたんだぞ?」
「そうだけど。どうせグレンの事だから確認済みなんでしょ?」
「まあな」
「本人だった?」
「ボロボロだけど本人だな。久々に昔のチャーリーを思い出したよ」
「そう」
「あの時のチャーリーは酷かったからな」
「そうね。自業自得とはいえあれはやりすぎだったわ」
「まあ相手が悪かったからな」
「相手が悪いって!まあそうね、相手が悪かった。それでもやりすぎよ」
「だから今があるんだろ?」
「そうだけど…」
「今はお前の婚約者だ」
「そうよ」
「で、どうする?」
「はぁぁ、見に行きましょ」
馬車を少し遠回りさせて平民街の外れ、浮浪者が集まる所を横切った。浮浪者は馬車が通る度に物乞いをする為、馬車から出る事は出来ない。
「あそこだ」
グレンの指差す方を窓から見つめる。その先にジェフ様らしき人が壁にもたれて座っている。
「ここからだとよく見えないわね」
馬車を遠くに止め、歩いて行く。ガインに使いを出し、パンを大量に買ってきて貰い、浮浪者達に配る。
私は一人分のパンと飲み物を手にし、ジェフ様に近付く。勿論グレンを後ろに付けて。
今日は孤児院へ行く為にシンプルなワンピース姿だった。どこからどう見ても貴族には見えない。
一歩一歩近付くと遠目では分かりにくかったジェフ様の姿を確認できた。服はボロボロ、あんなに見目を気にしてたはずなのに髪はボロボロ、それに死んだ様な目…。
虚ろな瞳をしているジェフ様に声をかける。
「久しぶりね、ジェフ様」
ジェフ様はゆっくりと上を向く。
「エミリーヌか」
「滑稽ね」
「俺の姿を見て嘲笑いにわざわざ来たのか」
「そうよ。散々罵った女に嘲笑われるのはどんな気分?」
ジェフ様は私を睨みつける。
「ああそう、これをどうぞ?」
私はジェフ様の前にパンと飲み物を置いた。
「俺に施しか?」
「ええそうよ。浮浪者へ施すのは貴族の役目でしょ?」
「お前!」
「ねえジェフ様、平民になったからってどうして働かないの?貴族の矜持?そんなの今の姿になるくらいなら捨てられたでしょ? 平民よりも文字が読めて書けて、それなのに働かず落ちぶれて。そんなにサラが好きだった?」
「俺だって始めからサラが好きだった訳じゃない。俺とお前は親が勝手に決めた婚約だった。それでも俺は!」
「俺は何?」
「俺はお前と…」
「私と?」
「俺はお前と婚約者になりたかった」
「婚約者だったじゃない」
「俺達が婚約者?違うだろ!」
「婚約者だったでしょ?」
「お前は俺を見ようともしなかった。初めて会った時からお前は俺が見えてなかったじゃないか!」
「私がジェフ様を見てなかった?」
「ああ。お前は空虚にどこかを見ていた。俺は親に決められた婚約だったけど、初めてお前に会うまでは少しづつ仲良くなろう、どこかへ出掛けよう、俺の色の物を贈ろう、お互いを知ってお互い好きになれたら良いなって思ってたんだ。それをお前が全て壊した」
「それは、」
「お前は俺が会いに行けば仕事だと俺に目も合わせなかった」
「それはごめんなさい。お父様の代わりに私が仕事してたから私も余裕が無かったの」
「そんなの俺は聞いてない」
「そうね、言ってないもの。だから私に何も贈ってくれなかったの?だから何処かへ出掛けようと誘ってくれなかったの?」
「そうだ」
「もし私が貴方に本当の事を言ったら信じてくれた?」
「何?」
「私ね、あの家で死んだように生きてたの。ただお金を作り出す人形の様に、ただただ働いてお金を作り出してた。それしか私にはあの家にいる価値がないから。食事も最低限にしか与えられず、服も与え貰えなかった。きっとジェフ様に会った時の私は何も見てなかった。ジェフ様が言う様に…」
「は?」
「ね?信じて貰えないでしょ?お父様もお母様もサラには何でも欲しい物を買い与えたわ。食事もいつも3人で食べてた。私は使用人達に交じってパンとスープだけ」
「そんな訳、」
「でもこれが真実なの。でもね、もしジェフ様が私の為に花一輪でもくれたら私はジェフ様を好きになったわ。だって私には私だけに贈られる物なんて無かったもの。その一輪を大事に大事にしたわ。そして贈ってくれたジェフ様を大事にしたわ」
「本当なのか?その、親に…」
「本当よ」
「今は大丈夫なのか?」
「今は大丈夫。だってお父様もお母様も陛下から断罪されたもの。庇護下で護る子供を何年にも渡り蔑ろにした罪で」
「そうか」
馬車の中、グレンが突然、
「そう言えばさ」
「何?」
「小耳に挟んだ話だけどさ」
「だから何」
「お前の元婚約者」
「ジェフ様?」
「そう、あのクズ男がさ」
「クズ男、まあそうね」
「最近浮浪者が集まる所で見かけたって話だぞ」
「そう」
「気にならねえの」
「気にならないわね」
「俺は笑ってやりたいけどな」
「グレン」
「お前を罵った奴だ、俺は許す気はないからな」
「だからって」
「嘲笑ったっていいだろ?」
「グレン」
「あれだけ啖呵きっておいて結局落ちぶれたんだぞ?」
「そうだけど。どうせグレンの事だから確認済みなんでしょ?」
「まあな」
「本人だった?」
「ボロボロだけど本人だな。久々に昔のチャーリーを思い出したよ」
「そう」
「あの時のチャーリーは酷かったからな」
「そうね。自業自得とはいえあれはやりすぎだったわ」
「まあ相手が悪かったからな」
「相手が悪いって!まあそうね、相手が悪かった。それでもやりすぎよ」
「だから今があるんだろ?」
「そうだけど…」
「今はお前の婚約者だ」
「そうよ」
「で、どうする?」
「はぁぁ、見に行きましょ」
馬車を少し遠回りさせて平民街の外れ、浮浪者が集まる所を横切った。浮浪者は馬車が通る度に物乞いをする為、馬車から出る事は出来ない。
「あそこだ」
グレンの指差す方を窓から見つめる。その先にジェフ様らしき人が壁にもたれて座っている。
「ここからだとよく見えないわね」
馬車を遠くに止め、歩いて行く。ガインに使いを出し、パンを大量に買ってきて貰い、浮浪者達に配る。
私は一人分のパンと飲み物を手にし、ジェフ様に近付く。勿論グレンを後ろに付けて。
今日は孤児院へ行く為にシンプルなワンピース姿だった。どこからどう見ても貴族には見えない。
一歩一歩近付くと遠目では分かりにくかったジェフ様の姿を確認できた。服はボロボロ、あんなに見目を気にしてたはずなのに髪はボロボロ、それに死んだ様な目…。
虚ろな瞳をしているジェフ様に声をかける。
「久しぶりね、ジェフ様」
ジェフ様はゆっくりと上を向く。
「エミリーヌか」
「滑稽ね」
「俺の姿を見て嘲笑いにわざわざ来たのか」
「そうよ。散々罵った女に嘲笑われるのはどんな気分?」
ジェフ様は私を睨みつける。
「ああそう、これをどうぞ?」
私はジェフ様の前にパンと飲み物を置いた。
「俺に施しか?」
「ええそうよ。浮浪者へ施すのは貴族の役目でしょ?」
「お前!」
「ねえジェフ様、平民になったからってどうして働かないの?貴族の矜持?そんなの今の姿になるくらいなら捨てられたでしょ? 平民よりも文字が読めて書けて、それなのに働かず落ちぶれて。そんなにサラが好きだった?」
「俺だって始めからサラが好きだった訳じゃない。俺とお前は親が勝手に決めた婚約だった。それでも俺は!」
「俺は何?」
「俺はお前と…」
「私と?」
「俺はお前と婚約者になりたかった」
「婚約者だったじゃない」
「俺達が婚約者?違うだろ!」
「婚約者だったでしょ?」
「お前は俺を見ようともしなかった。初めて会った時からお前は俺が見えてなかったじゃないか!」
「私がジェフ様を見てなかった?」
「ああ。お前は空虚にどこかを見ていた。俺は親に決められた婚約だったけど、初めてお前に会うまでは少しづつ仲良くなろう、どこかへ出掛けよう、俺の色の物を贈ろう、お互いを知ってお互い好きになれたら良いなって思ってたんだ。それをお前が全て壊した」
「それは、」
「お前は俺が会いに行けば仕事だと俺に目も合わせなかった」
「それはごめんなさい。お父様の代わりに私が仕事してたから私も余裕が無かったの」
「そんなの俺は聞いてない」
「そうね、言ってないもの。だから私に何も贈ってくれなかったの?だから何処かへ出掛けようと誘ってくれなかったの?」
「そうだ」
「もし私が貴方に本当の事を言ったら信じてくれた?」
「何?」
「私ね、あの家で死んだように生きてたの。ただお金を作り出す人形の様に、ただただ働いてお金を作り出してた。それしか私にはあの家にいる価値がないから。食事も最低限にしか与えられず、服も与え貰えなかった。きっとジェフ様に会った時の私は何も見てなかった。ジェフ様が言う様に…」
「は?」
「ね?信じて貰えないでしょ?お父様もお母様もサラには何でも欲しい物を買い与えたわ。食事もいつも3人で食べてた。私は使用人達に交じってパンとスープだけ」
「そんな訳、」
「でもこれが真実なの。でもね、もしジェフ様が私の為に花一輪でもくれたら私はジェフ様を好きになったわ。だって私には私だけに贈られる物なんて無かったもの。その一輪を大事に大事にしたわ。そして贈ってくれたジェフ様を大事にしたわ」
「本当なのか?その、親に…」
「本当よ」
「今は大丈夫なのか?」
「今は大丈夫。だってお父様もお母様も陛下から断罪されたもの。庇護下で護る子供を何年にも渡り蔑ろにした罪で」
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