妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
172 / 187

171

しおりを挟む
 約束の日、私は午前中に使いを出し、昼からセイリーン孤児院へお邪魔する事を伝え、今は孤児院へ向かう馬車の中。


「グレンとこうして乗るのも久しぶりね?」

「当たり前だろ?普段なら俺も騎乗する。だけど今から向かう孤児院は平民が住む所にあるんだ。何かあったらお前を護らないといけないからな」

「兄さんが馬車に乗ってる所、初めて見ましたよ」

「ガインも鍛えるか?お前が剣の腕をあげて強くなれば俺も馬車に乗らなくて済む」

「俺に期待するのは止めて下さい。今以上剣の腕があがる事はありません」


 馬車の中は私とグレン、それからガインが乗ってる。


「ガインは私の補佐として頭を使うんだから、身体を使うのはグレンで良いのよ」

「はぁぁ、俺は馬車は嫌いだ。馬に乗ってる方が性に合ってる」

「もうグレン、仕方ないでしょ。諦めて」

「諦めてるからこうして乗ってるだろ?」

「それもそうね」


 私は馬車の外を覗き、


「ねえグレン」

「何だ」

「あの子達どう?」

「まあ頑張ってるぞ?」

「そう」

「馬に乗るのも何とか慣れたしな」

「そう」


 今日は騎士になりたい子達も一緒に連れて来ている。騎乗する騎士の前に跨がり馬に乗っている。


「それでどうするつもり?」

「彼奴等か?」

「うん」

「一応騎士団には話し付けてきた。騎士見習いとして試験を受けさせて貰うように」

「それで?」

「試験は受けさせて貰える事になった」

「そう」

「受かるかは別だからな」

「それはあの子達次第でしょ?後数ヶ月でどれだけ努力するか」

「まあな」

「それでも見込みは?」

「まあ大丈夫じゃねえ?」

「そう、なら良かった」

「そろそろ着くぞ」


 馬車の速度が落ち、孤児院の門を入る。

 馬車が止まり、外から扉を開けて貰い、ガインが先に降りて孤児院の中に入って行った。私はグレンに手を借りて馬車を降りる。

 ガインとシスター一人が来て、グレンは私の後ろに控える。案内されシスター長の部屋に通された。

 中にはシスター長が居て、


「ようこそお出で下さいました」

「こちらこそ急に申し訳ありません」

「いえ、それより今日はどの様なご要件でしょう」

「はい、お願いと報告、それから少し子供達と話をさせて頂きたいと思っています」

「分かりました。ではお話をお聞かせ下さい」


 私は進められた椅子に座り、


「シスター長、まず一つ目、セシルですが、私が後見人になります。その上でお願いがあります」

「はい」

「セシルをこちらの孤児院で働かさせて頂きたいのです。シスターと言う訳ではなく、あくまでも手伝いとしてです」

「私もセシルは孤児院から出すつもりはありませんでした」

「それではご了承頂けたと言う事でよろしいですか?」

「はい。セシルには私達の手伝いを今迄通りして貰います」

「ではお願いします。セシルの給金は私の方で用意します」

「分かりました。お願いします」

「では2つ目、マークとマークの妹さんと弟さんを我がキャメル侯爵家の領民として受け入れます。よろしいでしょうか」

「はい、それもマークから聞いております。こちらとしては何も言う事はありません」

「分かりました。領地の準備が整い次第私共で引き取らさせて頂きます」

「はい、お願いします」

「では3つ目、今回卒院する子達の中で私共が手を出さない子達も勿論おります」

「はい」

「シスター長からすれば納得がいかない事もお有りでしょうが、我々も慈善事業ではありません。先日の話し合いの中でやる気が見られない子達には本人にも伝えてありますが、我々は手を貸さないと決めました。その点はご納得頂きます」

「はい、それは仕方のない事です」

「ありがとうございます」

「では4つ目、こちらから書簡が届いてお知りだと思いますが、来年度より勉強を教える者と剣を教える者が入ります。ですが我々が目指す所は本来の孤児院の形です。本来孤児院ではシスター長始めシスター達と年長者が下の子達に本を読んだり文字を教えたり、刺繍を教えたり剣を教えたりしていました」

「はい」

「ですがシスターの皆様の仕事が多く、また年長者の子達が勉学が出来ない。その為下の子達に教える事が出来ず、また下の子達も年長者になっても教える事が出来ない」

「はい、情けない事です」

「ですから数年他に教える者を我々が雇います。数年の内に本来の形になる様にしたいと思っております。ですが、教える者を頼りにされては困ります。あくまでも補強としてです。数年後には撤退させて頂きます」

「はい」

「ではご理解頂けましたか?」

「はい、分かりました」

「では5つ目、平民の子達が通う無料の学校へ必ず通わせて下さい。これからは通うまでに文字の読み書きは出来る様になります。確かに孤児院育ちとからかわれたり嫌がらせをされるでしょう。ですが、手に職を付けて働き場所を見つけるには学校へ通うのが必須です」

「分かりました」

「では6つ目、孤児院で育つここの子達には自分で働きお金を稼ぐしかない事を教えて下さい」

「はい」

「ですが自分で働きお金を稼ぐ、これは孤児院で育った子達だけではありません。我々貴族も同じです。シスター長、貴女もですよね?生活の為に働き稼ぐ、これは人として産まれた宿命です」

「はい」

「その事を子供達に教えて下さい」

「分かりました」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?

早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。 物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。 度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。 「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」 そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。 全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

処理中です...