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「皆誰しも誰かに意見を聞く事はある。自分の思考よりも聞いた方が良いと思えば誰かの意見を通すだろ?」
「はい。自分では考えつかない事ならなおの事、自分の思考よりもそちらを優先すると思います」
「誰しも誰かに意見を聞くという事はする。意見を聞く事が悪い事でもない。だがそれは自分の思考を持つ者ならばだ」
「はい」
「全てを委ね、全てを決めて貰うのではない」
「はい」
「孤児は当たり前だが親がいない。普通なら親に護られ善悪を経験しながら覚えていく。子供の善悪はお手伝いをして褒められるは善だ。嘘をつくは悪だ。褒められ叱られそうして学んでいく」
「そうですね」
「孤児院でも褒められる事はあるだろうが、それでもお手伝いをしても、小さい子の面倒を見ても、それが当たり前だ。孤児院は集団で生活するからな」
「はい」
「だが喧嘩をすれば叱られる。叱るのが悪いのではない。喧嘩で相手に怪我を負わせない為にも争うよりも話し合えと諭すだろう。だが褒められる事が少ない子達にとって叱られるばかりでは捻くれていくだろう」
「はい」
「孤児院は子供の世界だが、ある意味弱肉強食の世界だ。腹が満たされなければ弱い者から奪えばいい。大人になれば体一つとっても劣らないが、子供の内は違う。年齢差は体格差だ。力、知恵、どれをとっても年上には敵わない。ではどう生き残るか、強い者に護られればいい。強い者に護られ己を護る。強い者が例え間違っていても右と言えば右だし左と言えば左だ。強い者に従い己の思考は持たない。そうしなければ生き残っていけない」
「はい」
「だが何が正しくて何が悪いのか、その判断は強い者が決める。強い者の側にいれば、強い者に従えば己を護って貰える。
孤児は親に捨てられた日から己で己を護らないと生きていけない。幼い頃は年上の者にお菓子やおかずを取られただろう。だが力で敵わない相手に歯向かっても無駄だといつかは悟る。そして自分が年上になれば同じ事を繰り返す。甘いお菓子が何個も食べられる訳ではない、腹が満たされる程のおかずが出る訳ではない、自分もやられたからやっていいでは無いが、弱い者から奪うと思っても仕方ない事だ」
「そうですね」
「弱い者からしてみれば強い者に従い、強い者の言う事を聞いていれば護って貰える。自分で決めなくても全て決めて貰え、それに従えばいいだけだからな。孤児院という狭い空間の中では、強い者は自分を捨てた親よりも親らしく、護り先を決めてくれる。そうして依存していく」
「はい」
「厄介な問題だが無くなる事はないだろう」
「確かに無くなる事はないと思います」
「孤児院の弊害、その一言で終わってしまうがな」
「はい。ですが国から十分な支援もありますよね?」
「確かに国からも支援金は出るが、寄付金やバザーの収益が半分を占める」
「なら寄付金を募るとか」
「一時的であれば出す所はあるだろうが、5箇所ある孤児院に均等に毎月寄付し、それを一生涯し続け、後継者もし続けないと意味は無い。孤児院の子が減るのであればまだしも、もし増えたらどうなる。流行り病が毎年流行して孤児になる子が増えたらどうする」
「そうですね。それは無理です」
「儂でも無理だ、手は出せん」
「はい」
「今は小麦が主流のこの国だが小麦以外の物が他国から流れてきてそちらが主流になれば小麦の需要はなくなる。その時我々が護る第一優先は孤児院の子達ではなく領民の生活だ」
「当たり前です」
「ならその時孤児院の子達を捨てるのか?」
「そう、です、が…」
「寄付を募るより今ある予算でやる以上仕方がない」
「はい」
「孤児院も問題だが、この国は他国に比べ医師が少ない」
「それは思います」
「治療院が少なく診療代が高い」
「はい」
「流行り病で亡くなる者が減れば孤児院の子達も多少は減るのだが」
「はい」
「だがこの国には医師を育てる学校がない。他国へ行って学ぶしか方法がない。他国へ行くという事は資金が無ければ出来ない」
「はい」
「貴族ならまだしも平民では無理だ。貴族で医師になった者は王宮か貴族の専属医師になる。治療院をやる者が少ないのもその為だ」
「はい」
「薬が高いのもその為だが」
「はい」
「この国はまだまだ手を付けなくてはいけない所だらけだ」
「はい、そう思います」
「すまない、話をそらした」
「いえ」
「さて、どうするかだな」
「はい」
「根気よく諭すにしてもどう諭すか」
「話をして少しづつ諭していく、その方法しかないのでしょうか」
「こちらの話を聞けば、だな」
「そうですね」
「それにあの子一人にかかりつけになれる者もいない」
「はい」
「一人に任せてその者に依存すれば意味も無い」
「だと数人でという事ですか?」
「それが好ましいが全員が同じ事を言わなければ意味が無い」
「そうですね。同じ事を言っていても言い方一つでどちらとも取れる事だと自分の良い方に解釈してしまいます」
「そうなんだ。皆が皆同じ考えではないからな。そうすれば混乱し、より自分の良い方へ解釈してしまう」
「暫く皆と隔離してみますか?」
「それも考えたが、まだ子供のあの子の心を考えると踏み切れんな」
「そうですね」
「だがこのまま別の部屋に待たせていても仕方ない、もう一度話を聞いてみるか」
「はい」
「はい。自分では考えつかない事ならなおの事、自分の思考よりもそちらを優先すると思います」
「誰しも誰かに意見を聞くという事はする。意見を聞く事が悪い事でもない。だがそれは自分の思考を持つ者ならばだ」
「はい」
「全てを委ね、全てを決めて貰うのではない」
「はい」
「孤児は当たり前だが親がいない。普通なら親に護られ善悪を経験しながら覚えていく。子供の善悪はお手伝いをして褒められるは善だ。嘘をつくは悪だ。褒められ叱られそうして学んでいく」
「そうですね」
「孤児院でも褒められる事はあるだろうが、それでもお手伝いをしても、小さい子の面倒を見ても、それが当たり前だ。孤児院は集団で生活するからな」
「はい」
「だが喧嘩をすれば叱られる。叱るのが悪いのではない。喧嘩で相手に怪我を負わせない為にも争うよりも話し合えと諭すだろう。だが褒められる事が少ない子達にとって叱られるばかりでは捻くれていくだろう」
「はい」
「孤児院は子供の世界だが、ある意味弱肉強食の世界だ。腹が満たされなければ弱い者から奪えばいい。大人になれば体一つとっても劣らないが、子供の内は違う。年齢差は体格差だ。力、知恵、どれをとっても年上には敵わない。ではどう生き残るか、強い者に護られればいい。強い者に護られ己を護る。強い者が例え間違っていても右と言えば右だし左と言えば左だ。強い者に従い己の思考は持たない。そうしなければ生き残っていけない」
「はい」
「だが何が正しくて何が悪いのか、その判断は強い者が決める。強い者の側にいれば、強い者に従えば己を護って貰える。
孤児は親に捨てられた日から己で己を護らないと生きていけない。幼い頃は年上の者にお菓子やおかずを取られただろう。だが力で敵わない相手に歯向かっても無駄だといつかは悟る。そして自分が年上になれば同じ事を繰り返す。甘いお菓子が何個も食べられる訳ではない、腹が満たされる程のおかずが出る訳ではない、自分もやられたからやっていいでは無いが、弱い者から奪うと思っても仕方ない事だ」
「そうですね」
「弱い者からしてみれば強い者に従い、強い者の言う事を聞いていれば護って貰える。自分で決めなくても全て決めて貰え、それに従えばいいだけだからな。孤児院という狭い空間の中では、強い者は自分を捨てた親よりも親らしく、護り先を決めてくれる。そうして依存していく」
「はい」
「厄介な問題だが無くなる事はないだろう」
「確かに無くなる事はないと思います」
「孤児院の弊害、その一言で終わってしまうがな」
「はい。ですが国から十分な支援もありますよね?」
「確かに国からも支援金は出るが、寄付金やバザーの収益が半分を占める」
「なら寄付金を募るとか」
「一時的であれば出す所はあるだろうが、5箇所ある孤児院に均等に毎月寄付し、それを一生涯し続け、後継者もし続けないと意味は無い。孤児院の子が減るのであればまだしも、もし増えたらどうなる。流行り病が毎年流行して孤児になる子が増えたらどうする」
「そうですね。それは無理です」
「儂でも無理だ、手は出せん」
「はい」
「今は小麦が主流のこの国だが小麦以外の物が他国から流れてきてそちらが主流になれば小麦の需要はなくなる。その時我々が護る第一優先は孤児院の子達ではなく領民の生活だ」
「当たり前です」
「ならその時孤児院の子達を捨てるのか?」
「そう、です、が…」
「寄付を募るより今ある予算でやる以上仕方がない」
「はい」
「孤児院も問題だが、この国は他国に比べ医師が少ない」
「それは思います」
「治療院が少なく診療代が高い」
「はい」
「流行り病で亡くなる者が減れば孤児院の子達も多少は減るのだが」
「はい」
「だがこの国には医師を育てる学校がない。他国へ行って学ぶしか方法がない。他国へ行くという事は資金が無ければ出来ない」
「はい」
「貴族ならまだしも平民では無理だ。貴族で医師になった者は王宮か貴族の専属医師になる。治療院をやる者が少ないのもその為だ」
「はい」
「薬が高いのもその為だが」
「はい」
「この国はまだまだ手を付けなくてはいけない所だらけだ」
「はい、そう思います」
「すまない、話をそらした」
「いえ」
「さて、どうするかだな」
「はい」
「根気よく諭すにしてもどう諭すか」
「話をして少しづつ諭していく、その方法しかないのでしょうか」
「こちらの話を聞けば、だな」
「そうですね」
「それにあの子一人にかかりつけになれる者もいない」
「はい」
「一人に任せてその者に依存すれば意味も無い」
「だと数人でという事ですか?」
「それが好ましいが全員が同じ事を言わなければ意味が無い」
「そうですね。同じ事を言っていても言い方一つでどちらとも取れる事だと自分の良い方に解釈してしまいます」
「そうなんだ。皆が皆同じ考えではないからな。そうすれば混乱し、より自分の良い方へ解釈してしまう」
「暫く皆と隔離してみますか?」
「それも考えたが、まだ子供のあの子の心を考えると踏み切れんな」
「そうですね」
「だがこのまま別の部屋に待たせていても仕方ない、もう一度話を聞いてみるか」
「はい」
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