妹がいなくなった

１５４

　チャーリーの小馬鹿にした言い方が気に触ったみたいで…。


「何なのよ！この男！　皆も何か言いなさいよ！」

「セナンちゃんが一番可愛いよ、ね？」

「「「うん」」」

「そうでしょ？この人って見る目がないのよ」

「本当だよ、ね？」

「「「うん」」」

「皆だって愛人になりたいわよね？」

「「「「う、うん」」」」

「ほら？皆愛人になりたいの」

「だから頑張ってって言ってる。なりたいならなれば良い。君等の人生だ、好きな様に生きれば良い」

「何なのよ！」

「一応話を聞きたかっただけだ」

「ふ～ん。お兄さんも愛人欲しい人？」

「俺はいらない。もし愛人を持ったとして君みたいな傲慢な女は嫌だ」

「はあぁぁぁ？」

「美しさって見目だけの話じゃない。所作、言葉遣い、にじみ出る優しさ、己の芯を持つ、他にもあるけど、それ等を持ってて凛とした姿が美しいんだ。そして自分にだけ見せる表情が可愛いと思う。自然と愛しい、愛してるって感情が生まれる。

愛人は火遊びだよ。それ以上にはならない」

「それはお兄さんだけでしょ？」

「そうかもね。だから俺は愛人はいらない」

「あっそ」

「俺達貴族はさ、確かに政略結婚が多い。親に決められた相手に納得できない時はある。頭では家と家の繋がりや資金援助だと分かっていても、心では自分が好きになった人が良いと思う。けど貴族として決められた結婚は義務だ。　それが貴族として生きる者の当然の事で、諦めだ。

それでも親に決められた伴侶とできれば愛を育み愛し合いたいと思う。その為の努力もする。物を贈る、デートをする、お互い同じ時間を共有して少しづつ歩みよりお互いを知り、認め、仲を深めていく。共有した時間でお互い愛を育み結婚し夫婦になる。　同じ夫婦になるなら形だけの夫婦よりも愛し合う夫婦になりたいと頭と心で思う。　一目惚れだけじゃない、少しづつ育む思いも恋になり愛になる。

だけど、相手の心や思いは相手の物だ。望まない相手だから、格下だから、心に愛する人がいるから、どれだけ片方が歩み寄っても、仲を育もうと思っても、相手が拒めばそれまでだ。　努力をしても、同じ時間をどれだけ共有しても埋まらない思いは虚しくなりいずれ溝になる。いつしか諦め、形だけの関係になる。

貴族だから、義務だからと言っても頭と心は違う。納得はしても不服だと思う。仕方ないと思う一方で、どうして、何故…と。　自分の気持ちをどこに持っていけば良いか、生涯形だけの関係に耐えられるのか、愛して欲しい、愛したい、愛の溢れる夫婦になりたい、愛する人との子が欲しい、幸せな家族になりたい…。そう望んだ分だけ絶望した」

「お兄さん、何ロマンチストみたいな事言ってんの？馬鹿みたい」

「ハハハッ、馬鹿みたいか、そうだな馬鹿みたいだな。だけど相手も貴族だ、形だけの夫婦が虚しいと思ってくれると信じてた。例え始まりは政略結婚だとしても一緒に時を過ごし愛し合い結婚する、それが理想であり叶う思いだと俺は信じてた。

現実はどれだけ時を過ごしても、どれだけ努力しても相手の心は拒絶しかなかった。

拒絶を繰り返され、それを心と目で見て見ぬ振りをして、それでも義務を果たす為に心に蓋をして自分を偽り、笑顔を顔に貼り付けた。

何年も拒絶と偽りを繰り返す内に心は無くなる。自分は何故ここに居るのか、自分は何に縋り付いているのか、自分は何故生きているのか…」


　私はチャーリーの肩に手を置いた。

　チャーリーと目が合う。

　肩に置いた私の手を握るチャーリーの手。

　大丈夫とチャーリーの目が言う。


「心を無くした者にとって少しの優しさは、ここに生きてると思わせてくれる実感になる。いつしか心の拠り所になり自分を支えてくれ、生きる意味になる。

心の安らぎや温もり、愛しいと思う気持ち、生きる希望、その全てを与えてくれた平民の女性を恋人にし愛人にする。そしてその対価として養うと言う名のお金を渡す。

君達が愛人になりたいと思い、貴族の男性が平民の女性に心の安らぎを求め愛人にする、それは現実だ。重要と供給があるからこそ今後も無くならないだろう。

だけど君達平民は好きな人と結婚できるだろ？確かに贅沢はできないかも知れない。それでも好きな人と夫婦になり子を作り家族になる、何故、人として生きる者の当たり前の気持ちを大事にしない。好きな人と結婚するというとても幸せな事を誇りに思わない。

我々貴族は確かに君達平民より美味しい食事に、宝石を纏い綺麗な服を着飾る。君達から見れば憧れ、羨ましいと思うだろう。だけどその分責任が付いてまわる。政略結婚もその一つだ。自領の平民を飢えさせず安定した生活を補償しないといけない。自領を豊かにして平民の生きる希望を見出さないといけない。それは簡単な事じゃない。　我々貴族も日々働き努力して他家と繋がりお金を稼ぐ。　例え形だけの夫婦になっても離縁は許されない。愛人の存在が分かれば自分の心より家を大事にしないといけない。

それが幸せか？それが羨ましいか？

心を優先できる君達平民の方がよっぽど幸せで我々貴族が羨ましいと思うのか。

君達は好きと言う当たり前の気持ちを手に取る事ができる。それをもっと大事にするべきだ。

もう一度考えるんだ。好き人と築く家庭か、愛人として隠れてこそこそと暮らす生活か、どちらが良いか。もう一度良く考えるんだ」