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コンコン
「入って」
ガインと男の子が入ってきた。
「この子で最後です」
「分かったわ。ありがとう。さぁ座って」
男の子は椅子に座った。
「孤児院と名前を教えるくれる?」
「セイリーン孤児院でマーク」
「マークは、なんでもいいから働きたいってどう言う事?」
「俺には妹と弟がいる」
「同じ孤児院に?」
「ああ」
「とりあえずお金を稼ぎたいって事かな?」
「ああ。出来れば孤児院の近くで働きたい。働く場所に文句を言うつもりはない」
「そうか。でもどうして?」
「妹と弟と離れたくないからだ。できれば稼いだ金で腹いっぱい食わせてやりたいし、いい服も着せてやりたい。卒院したら一緒に暮らしたい」
「兄として?」
「当たり前だ。父さんと母さんと一番下の妹と母さんの腹の中のいた子も流行り病で死んだ。俺は母さんから頼まれた。妹と弟を頼むって」
「そうか。家族を失って辛かったね」
「妹と弟は生きてる」
「そうだね。でもよく頑張ったよ。今まで妹と弟を護ってきたんだろ?」
「俺達は途中から院に入ったからな」
「途中から入る子なんて珍しくないだろう?」
「それでも始めからいる奴とは違う」
「違う?」
「孤児院にだって力の優劣はある」
「そうか。話を変えるよ?いい?」
「ああ」
「妹と弟と離れずお金を稼ぎたいんだったね」
「ああ」
「まずその事は考えないで、マークの好きな事は何かある?」
「好きな事…」
「何でもいいよ」
「考えた事がない」
「長男だもんね」
「ああ。母さんの手伝いや兄妹の面倒ならしてきたけど、好きな事は考えた事がない」
「分かった。 ガイン、済まないが一度マークを食堂に連れて行ってくれないか。それから前侯爵を呼んできてほしい」
「分かりました」
ガインはマークを連れて部屋を出て行った。
「チャーリーどうしたの?」
「俺だけでは無理だ」
「どう言う事?」
「俺達貴族はさ、ある意味将来が決められてるんだよ。当主になる者とそれ以外は騎士や文官、エリーの家みたいに姉妹の家に婿に入るとかさ」
「そうね」
「女性は嫁に嫁ぐだろ?」
「うん」
「平民も親の家業を継いだりする。例えば親が食堂を経営してたら子が跡を継いだりね。庭師も大抵は息子が跡を継いだりする。御者もだ」
「確かに」
「領地にいる平民だってそうだろ?親が働いてる所を見て育つから自ずと自分も働くと思ってる」
「そうね」
「マークは兄妹達の面倒や母親の手伝いをしてきたけど平民には当たり前の事だ」
「そうね」
「マークの父親が何の職に就いていたかは分からないけどマークも父親の跡を継ぐつもりだったと思うんだよね」
「うん」
「けど両親が亡くなり、長男として妹と弟を護る為に自分の事を後回しにしてるだろうし、母親に頼まれたのもあるだろうけど、長男として妹と弟の面倒は自分がみないとと思ってる」
「そうね」
「稼ぎたいだけなら職はあると思うけど、孤児院育ちの子に働ける環境はまだこの国に出来上がってない。だから今回俺達が動いている訳だけど」
「そうね。孤児院の子達だけじゃなくて卒院した子達も本来なら手助けしないといけない。けど孤児院育ちではない子だって全員が働く場所がある訳じゃないもの」
「そうなんだ。あれこれ手を出すのは簡単だけど中途半端になる。それに俺達は孤児院の子達の学力や職に就ける手助けをすると決めた」
「ええ」
「今年卒院する子達に関しては俺達が面倒を見るしかないと思ってる」
「ええ」
「それでも本来あるべき形は職に就く時の後見人になるだけだ。学力や職に就く為の下準備は必要だしやるべき事だけど、後は本人のやる気次第なんだよ。厳しい事を言うようだけど」
「そんな事ないわ。邸に迎える事は出来るけど全員って訳にはいかないわ。職の世話をしてもやる気がなければ辞めちゃうでしょ?そしたら後見人になった私達の信用も無くなるわ。 学ぶ事も手に職を付ける事も本人次第。そして私達はやる気があり諦めない子にだけ後見人になれば良いと思うの」
「俺もそう思う。篩にかけるなんて言い方は悪いけど、それでも後見人を必要とする子だけを手助けするべきだと思うんだ」
「私もそれで良いと思う」
「エリー」
チャーリーが手を広げ、
「抱き締めさせて」
私も手を広げチャーリーに抱き付いた。チャーリーは私の肩に顔を埋め、
「本当なら全員に手を差し伸べたい」
「うん」
「それでも実際は無理だ」
「当たり前よ」
「俺を冷たい男だと思わない?」
「どうして?」
「助けると言っても助けれるのはほんの一部分だ。後は目を瞑るしかない」
「全員を助けるなんて神にならないと無理よ。学ぶ準備は誰でも出来るわ。それでも今まで誰もしなかった。それをチャーリーはしてきたでしょ?」
「隣国のごく一部だけどね」
「それでもチャーリーに助けられた子は多いわ。そして今回はこの国の子達が助けられるの。でもね、やる気がない子は学べるとしても学ばないわ。それは環境じゃなくてその子の問題よ?」
「そうだね」
「その全てを背負う必要はないの。 それに貴族でも平民でも一緒でしょ?自分の将来が不安だから努力する。努力する姿を知ってるから手を貸そうと思う。けど努力せず何もしない子に手を貸そうと思う人はいないわ」
「そうだね」
「全員を助けれないからとチャーリーが全てを背負わないで」
「分かってる」
チャーリーが力強く抱き締めた。
全ての人を救うなんて神でも無理よ。神も導き与える事は出来てもその後は個人次第…。
私はチャーリーに自分の唇を重ねた。チャーリーの憂いが少しでも無くなる様にと願いを込めて…。
「入って」
ガインと男の子が入ってきた。
「この子で最後です」
「分かったわ。ありがとう。さぁ座って」
男の子は椅子に座った。
「孤児院と名前を教えるくれる?」
「セイリーン孤児院でマーク」
「マークは、なんでもいいから働きたいってどう言う事?」
「俺には妹と弟がいる」
「同じ孤児院に?」
「ああ」
「とりあえずお金を稼ぎたいって事かな?」
「ああ。出来れば孤児院の近くで働きたい。働く場所に文句を言うつもりはない」
「そうか。でもどうして?」
「妹と弟と離れたくないからだ。できれば稼いだ金で腹いっぱい食わせてやりたいし、いい服も着せてやりたい。卒院したら一緒に暮らしたい」
「兄として?」
「当たり前だ。父さんと母さんと一番下の妹と母さんの腹の中のいた子も流行り病で死んだ。俺は母さんから頼まれた。妹と弟を頼むって」
「そうか。家族を失って辛かったね」
「妹と弟は生きてる」
「そうだね。でもよく頑張ったよ。今まで妹と弟を護ってきたんだろ?」
「俺達は途中から院に入ったからな」
「途中から入る子なんて珍しくないだろう?」
「それでも始めからいる奴とは違う」
「違う?」
「孤児院にだって力の優劣はある」
「そうか。話を変えるよ?いい?」
「ああ」
「妹と弟と離れずお金を稼ぎたいんだったね」
「ああ」
「まずその事は考えないで、マークの好きな事は何かある?」
「好きな事…」
「何でもいいよ」
「考えた事がない」
「長男だもんね」
「ああ。母さんの手伝いや兄妹の面倒ならしてきたけど、好きな事は考えた事がない」
「分かった。 ガイン、済まないが一度マークを食堂に連れて行ってくれないか。それから前侯爵を呼んできてほしい」
「分かりました」
ガインはマークを連れて部屋を出て行った。
「チャーリーどうしたの?」
「俺だけでは無理だ」
「どう言う事?」
「俺達貴族はさ、ある意味将来が決められてるんだよ。当主になる者とそれ以外は騎士や文官、エリーの家みたいに姉妹の家に婿に入るとかさ」
「そうね」
「女性は嫁に嫁ぐだろ?」
「うん」
「平民も親の家業を継いだりする。例えば親が食堂を経営してたら子が跡を継いだりね。庭師も大抵は息子が跡を継いだりする。御者もだ」
「確かに」
「領地にいる平民だってそうだろ?親が働いてる所を見て育つから自ずと自分も働くと思ってる」
「そうね」
「マークは兄妹達の面倒や母親の手伝いをしてきたけど平民には当たり前の事だ」
「そうね」
「マークの父親が何の職に就いていたかは分からないけどマークも父親の跡を継ぐつもりだったと思うんだよね」
「うん」
「けど両親が亡くなり、長男として妹と弟を護る為に自分の事を後回しにしてるだろうし、母親に頼まれたのもあるだろうけど、長男として妹と弟の面倒は自分がみないとと思ってる」
「そうね」
「稼ぎたいだけなら職はあると思うけど、孤児院育ちの子に働ける環境はまだこの国に出来上がってない。だから今回俺達が動いている訳だけど」
「そうね。孤児院の子達だけじゃなくて卒院した子達も本来なら手助けしないといけない。けど孤児院育ちではない子だって全員が働く場所がある訳じゃないもの」
「そうなんだ。あれこれ手を出すのは簡単だけど中途半端になる。それに俺達は孤児院の子達の学力や職に就ける手助けをすると決めた」
「ええ」
「今年卒院する子達に関しては俺達が面倒を見るしかないと思ってる」
「ええ」
「それでも本来あるべき形は職に就く時の後見人になるだけだ。学力や職に就く為の下準備は必要だしやるべき事だけど、後は本人のやる気次第なんだよ。厳しい事を言うようだけど」
「そんな事ないわ。邸に迎える事は出来るけど全員って訳にはいかないわ。職の世話をしてもやる気がなければ辞めちゃうでしょ?そしたら後見人になった私達の信用も無くなるわ。 学ぶ事も手に職を付ける事も本人次第。そして私達はやる気があり諦めない子にだけ後見人になれば良いと思うの」
「俺もそう思う。篩にかけるなんて言い方は悪いけど、それでも後見人を必要とする子だけを手助けするべきだと思うんだ」
「私もそれで良いと思う」
「エリー」
チャーリーが手を広げ、
「抱き締めさせて」
私も手を広げチャーリーに抱き付いた。チャーリーは私の肩に顔を埋め、
「本当なら全員に手を差し伸べたい」
「うん」
「それでも実際は無理だ」
「当たり前よ」
「俺を冷たい男だと思わない?」
「どうして?」
「助けると言っても助けれるのはほんの一部分だ。後は目を瞑るしかない」
「全員を助けるなんて神にならないと無理よ。学ぶ準備は誰でも出来るわ。それでも今まで誰もしなかった。それをチャーリーはしてきたでしょ?」
「隣国のごく一部だけどね」
「それでもチャーリーに助けられた子は多いわ。そして今回はこの国の子達が助けられるの。でもね、やる気がない子は学べるとしても学ばないわ。それは環境じゃなくてその子の問題よ?」
「そうだね」
「その全てを背負う必要はないの。 それに貴族でも平民でも一緒でしょ?自分の将来が不安だから努力する。努力する姿を知ってるから手を貸そうと思う。けど努力せず何もしない子に手を貸そうと思う人はいないわ」
「そうだね」
「全員を助けれないからとチャーリーが全てを背負わないで」
「分かってる」
チャーリーが力強く抱き締めた。
全ての人を救うなんて神でも無理よ。神も導き与える事は出来てもその後は個人次第…。
私はチャーリーに自分の唇を重ねた。チャーリーの憂いが少しでも無くなる様にと願いを込めて…。
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