妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
133 / 187

132

しおりを挟む
「次は夫人だ。お主も正直に答えよ」

「私はエミリーヌを旦那様と私の子だと思っております」

「ほう。ならばお主は娘であるエミリーヌを虐げた理由を答えよ」

「それは…」

「答えよ」

「エミリーヌが産まれて直ぐに懐妊し、悪阻も酷く寝たきりでした。産まれたばかりのエミリーヌを育てる事が出来ず、悪阻が治まるとお腹が目立ち始め、抱き上げる事もお乳をあげる事も出来ず、乳母を雇いました。メイドやお義母様が私からエミリーヌを奪ったのです。虐げたのではなくて、奪われ育てれなかったのです」

「それでどうした」

「それで、産まれたサラフィスは奪われまいと私が育てました」

「それでどうした」

「それで、サラフィスには自分でお乳をあげ、抱きしめ、泣いたらあやし、私が全て一人で育てました」

「それでどうした」

「へ、陛下」

「お主はエミリーヌを奪われたと言うが、お主の身体を思い、前侯爵夫人やメイドは手助けをしたのではないのか」

「そうですが、私はエミリーヌも自分の手で育てたかったのです。私が腹を痛めて産んだ子です」

「ならばエミリーヌが少し成長してから子を作れば良かったであろう。お主は身体を繋げれば子が出来ると知っていたはずだ。子はお主の腹の中で育つ。腹が目立ち出し、腹の中の子が動き、お主は自身で感じていたはずだ。 このろくでなしが身体を求めてもお主が断れば良かっただけの事。 お主にとってエミリーヌは初めての子だ。初めて赤子を育てるのに身体を繋げて子が出来るかも知れぬと思わなかったのか」

「それは…」

「分かっていて何故、子を作った。何故、避妊しなかった。お主も此奴と同じで阿呆なのだな」

「なっ、」

「お主は自分で育てたかった、悪阻が酷く育てれなかった、しまいには奪われたと言い、さも自分は悪くないと言いたげだが、お主は腹を痛めて産んだエミリーヌを捨てたのだ」

「違います」

「腹に子がいたとしても、赤子と接する事は出来る。悪阻が酷く寝たきりの時は仕方ないにしろ、お乳をあげぬとも、抱き上げる事ができぬとも、あやし、話し掛け、寝かし付け、椅子に座った状態なら抱き締める事も出来る。

まだ赤子のエミリーヌを育てぬお主の代わりに前侯爵夫人とメイドは代わりに育てたのだ。奪ったのではない。お主が放棄したから代わりに育てたのだ。

赤子は一人では育たぬ。誰かの手が無ければ育たぬのだ。誰かがお乳を飲ませ、誰かがおしめを変え、誰かが抱きあやす。 赤子は話せぬ、だから泣いて訴えるのだ。私を見て、私を抱き締めてと。

お主は腹に子が出来た事を言い訳にして、エミリーヌと向き合わず、エミリーヌを捨てたのだ」

「違いま…」

「黙れ!」

「ひっ」

「認めよ、お主はエミリーヌを産み捨てたのだ。

サラフィスの時は自分で一人で育てたと言い、お主は自分の身を護っただけの事。 腹に子が居なければ自分は母親として子を育てる事が出来ると、自分自身に言い訳して、己を護っただけだ。

お主は母親ではない。子を産み捨てた非道な人間だ」

「違います。私は非道な人間ではありません。自分が腹を痛めて産んだ子を愛情を持って育てる事が出来る母親です。現にサラフィスを愛しております。 サラフィスは私が私の手で育てた子です。愛情をかけて育てた子です」

「エミリーヌもお主が腹を痛めて産んだ子ではないのか?」

「それは…」

「私は初めに言った事を覚えておるか?」

「え?」

「覚えておるか?」

「すみません」

「私は初めに、エミリーヌを虐げた理由を答えよと言った。誰がサラフィスの事を聞いた。サラフィスの事は関係ない」

「ですが、」

「サラフィスには良い母親かも知れぬが、私はエミリーヌを虐げた理由を聞いておるのだ」

「それは…」

「エミリーヌにとっては母親ではなく、非道な人間だ。お主は此奴よりも罪は重い」

「な、何故…」

「赤子は女性の腹からしか産まれぬ。そして腹の中で育てたのはお主だ。愛する人との子を宿し、腹の中で動く我が子を愛おしく思わなかったのか。

私もそうだが、男は子が産まれてこの手で抱いてようやく実感する。愛しいと、私の子だと。父として愛しい我が子を何を犠牲にしても護り抜くと。

だが女性は違う。子が腹に宿り、腹の中で子が動き、常に腹の中の子と一緒におる。王妃が大きくなる腹を撫でていた時の顔は既に母の顔であった。子を産む時、叫ぶ程痛く辛く長くかかるお産であったが、王妃は言った。

どれだけ痛くても辛くても愛しいこの子の為の痛さは耐えられると。お腹の中で育てるのもとても幸せであったが、今は早く抱き締めたいと、早く会いたいと。

お主もそう思わなかったのか」

「うぅぅ、うぅぅ……」

「此奴が阿呆でも、お主だけでもエミリーヌを護れば良かったのだ。前侯爵も夫人もエミリーヌの誕生を待ち望み、喜んだ。お主がエミリーヌを護るならば前侯爵はお主を護ったであろう。この愚息を追い出してもな」

「うぅぅ、うぅぅ……」

「だがお主はこの阿呆と同じ様にエミリーヌを捨てたのだ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。 ※誤字脱字、名前間違い、よくやらかします。ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))9万字弱です。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

処理中です...