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「次は夫人だ。お主も正直に答えよ」
「私はエミリーヌを旦那様と私の子だと思っております」
「ほう。ならばお主は娘であるエミリーヌを虐げた理由を答えよ」
「それは…」
「答えよ」
「エミリーヌが産まれて直ぐに懐妊し、悪阻も酷く寝たきりでした。産まれたばかりのエミリーヌを育てる事が出来ず、悪阻が治まるとお腹が目立ち始め、抱き上げる事もお乳をあげる事も出来ず、乳母を雇いました。メイドやお義母様が私からエミリーヌを奪ったのです。虐げたのではなくて、奪われ育てれなかったのです」
「それでどうした」
「それで、産まれたサラフィスは奪われまいと私が育てました」
「それでどうした」
「それで、サラフィスには自分でお乳をあげ、抱きしめ、泣いたらあやし、私が全て一人で育てました」
「それでどうした」
「へ、陛下」
「お主はエミリーヌを奪われたと言うが、お主の身体を思い、前侯爵夫人やメイドは手助けをしたのではないのか」
「そうですが、私はエミリーヌも自分の手で育てたかったのです。私が腹を痛めて産んだ子です」
「ならばエミリーヌが少し成長してから子を作れば良かったであろう。お主は身体を繋げれば子が出来ると知っていたはずだ。子はお主の腹の中で育つ。腹が目立ち出し、腹の中の子が動き、お主は自身で感じていたはずだ。 このろくでなしが身体を求めてもお主が断れば良かっただけの事。 お主にとってエミリーヌは初めての子だ。初めて赤子を育てるのに身体を繋げて子が出来るかも知れぬと思わなかったのか」
「それは…」
「分かっていて何故、子を作った。何故、避妊しなかった。お主も此奴と同じで阿呆なのだな」
「なっ、」
「お主は自分で育てたかった、悪阻が酷く育てれなかった、しまいには奪われたと言い、さも自分は悪くないと言いたげだが、お主は腹を痛めて産んだエミリーヌを捨てたのだ」
「違います」
「腹に子がいたとしても、赤子と接する事は出来る。悪阻が酷く寝たきりの時は仕方ないにしろ、お乳をあげぬとも、抱き上げる事ができぬとも、あやし、話し掛け、寝かし付け、椅子に座った状態なら抱き締める事も出来る。
まだ赤子のエミリーヌを育てぬお主の代わりに前侯爵夫人とメイドは代わりに育てたのだ。奪ったのではない。お主が放棄したから代わりに育てたのだ。
赤子は一人では育たぬ。誰かの手が無ければ育たぬのだ。誰かがお乳を飲ませ、誰かがおしめを変え、誰かが抱きあやす。 赤子は話せぬ、だから泣いて訴えるのだ。私を見て、私を抱き締めてと。
お主は腹に子が出来た事を言い訳にして、エミリーヌと向き合わず、エミリーヌを捨てたのだ」
「違いま…」
「黙れ!」
「ひっ」
「認めよ、お主はエミリーヌを産み捨てたのだ。
サラフィスの時は自分で一人で育てたと言い、お主は自分の身を護っただけの事。 腹に子が居なければ自分は母親として子を育てる事が出来ると、自分自身に言い訳して、己を護っただけだ。
お主は母親ではない。子を産み捨てた非道な人間だ」
「違います。私は非道な人間ではありません。自分が腹を痛めて産んだ子を愛情を持って育てる事が出来る母親です。現にサラフィスを愛しております。 サラフィスは私が私の手で育てた子です。愛情をかけて育てた子です」
「エミリーヌもお主が腹を痛めて産んだ子ではないのか?」
「それは…」
「私は初めに言った事を覚えておるか?」
「え?」
「覚えておるか?」
「すみません」
「私は初めに、エミリーヌを虐げた理由を答えよと言った。誰がサラフィスの事を聞いた。サラフィスの事は関係ない」
「ですが、」
「サラフィスには良い母親かも知れぬが、私はエミリーヌを虐げた理由を聞いておるのだ」
「それは…」
「エミリーヌにとっては母親ではなく、非道な人間だ。お主は此奴よりも罪は重い」
「な、何故…」
「赤子は女性の腹からしか産まれぬ。そして腹の中で育てたのはお主だ。愛する人との子を宿し、腹の中で動く我が子を愛おしく思わなかったのか。
私もそうだが、男は子が産まれてこの手で抱いてようやく実感する。愛しいと、私の子だと。父として愛しい我が子を何を犠牲にしても護り抜くと。
だが女性は違う。子が腹に宿り、腹の中で子が動き、常に腹の中の子と一緒におる。王妃が大きくなる腹を撫でていた時の顔は既に母の顔であった。子を産む時、叫ぶ程痛く辛く長くかかるお産であったが、王妃は言った。
どれだけ痛くても辛くても愛しいこの子の為の痛さは耐えられると。お腹の中で育てるのもとても幸せであったが、今は早く抱き締めたいと、早く会いたいと。
お主もそう思わなかったのか」
「うぅぅ、うぅぅ……」
「此奴が阿呆でも、お主だけでもエミリーヌを護れば良かったのだ。前侯爵も夫人もエミリーヌの誕生を待ち望み、喜んだ。お主がエミリーヌを護るならば前侯爵はお主を護ったであろう。この愚息を追い出してもな」
「うぅぅ、うぅぅ……」
「だがお主はこの阿呆と同じ様にエミリーヌを捨てたのだ」
「私はエミリーヌを旦那様と私の子だと思っております」
「ほう。ならばお主は娘であるエミリーヌを虐げた理由を答えよ」
「それは…」
「答えよ」
「エミリーヌが産まれて直ぐに懐妊し、悪阻も酷く寝たきりでした。産まれたばかりのエミリーヌを育てる事が出来ず、悪阻が治まるとお腹が目立ち始め、抱き上げる事もお乳をあげる事も出来ず、乳母を雇いました。メイドやお義母様が私からエミリーヌを奪ったのです。虐げたのではなくて、奪われ育てれなかったのです」
「それでどうした」
「それで、産まれたサラフィスは奪われまいと私が育てました」
「それでどうした」
「それで、サラフィスには自分でお乳をあげ、抱きしめ、泣いたらあやし、私が全て一人で育てました」
「それでどうした」
「へ、陛下」
「お主はエミリーヌを奪われたと言うが、お主の身体を思い、前侯爵夫人やメイドは手助けをしたのではないのか」
「そうですが、私はエミリーヌも自分の手で育てたかったのです。私が腹を痛めて産んだ子です」
「ならばエミリーヌが少し成長してから子を作れば良かったであろう。お主は身体を繋げれば子が出来ると知っていたはずだ。子はお主の腹の中で育つ。腹が目立ち出し、腹の中の子が動き、お主は自身で感じていたはずだ。 このろくでなしが身体を求めてもお主が断れば良かっただけの事。 お主にとってエミリーヌは初めての子だ。初めて赤子を育てるのに身体を繋げて子が出来るかも知れぬと思わなかったのか」
「それは…」
「分かっていて何故、子を作った。何故、避妊しなかった。お主も此奴と同じで阿呆なのだな」
「なっ、」
「お主は自分で育てたかった、悪阻が酷く育てれなかった、しまいには奪われたと言い、さも自分は悪くないと言いたげだが、お主は腹を痛めて産んだエミリーヌを捨てたのだ」
「違います」
「腹に子がいたとしても、赤子と接する事は出来る。悪阻が酷く寝たきりの時は仕方ないにしろ、お乳をあげぬとも、抱き上げる事ができぬとも、あやし、話し掛け、寝かし付け、椅子に座った状態なら抱き締める事も出来る。
まだ赤子のエミリーヌを育てぬお主の代わりに前侯爵夫人とメイドは代わりに育てたのだ。奪ったのではない。お主が放棄したから代わりに育てたのだ。
赤子は一人では育たぬ。誰かの手が無ければ育たぬのだ。誰かがお乳を飲ませ、誰かがおしめを変え、誰かが抱きあやす。 赤子は話せぬ、だから泣いて訴えるのだ。私を見て、私を抱き締めてと。
お主は腹に子が出来た事を言い訳にして、エミリーヌと向き合わず、エミリーヌを捨てたのだ」
「違いま…」
「黙れ!」
「ひっ」
「認めよ、お主はエミリーヌを産み捨てたのだ。
サラフィスの時は自分で一人で育てたと言い、お主は自分の身を護っただけの事。 腹に子が居なければ自分は母親として子を育てる事が出来ると、自分自身に言い訳して、己を護っただけだ。
お主は母親ではない。子を産み捨てた非道な人間だ」
「違います。私は非道な人間ではありません。自分が腹を痛めて産んだ子を愛情を持って育てる事が出来る母親です。現にサラフィスを愛しております。 サラフィスは私が私の手で育てた子です。愛情をかけて育てた子です」
「エミリーヌもお主が腹を痛めて産んだ子ではないのか?」
「それは…」
「私は初めに言った事を覚えておるか?」
「え?」
「覚えておるか?」
「すみません」
「私は初めに、エミリーヌを虐げた理由を答えよと言った。誰がサラフィスの事を聞いた。サラフィスの事は関係ない」
「ですが、」
「サラフィスには良い母親かも知れぬが、私はエミリーヌを虐げた理由を聞いておるのだ」
「それは…」
「エミリーヌにとっては母親ではなく、非道な人間だ。お主は此奴よりも罪は重い」
「な、何故…」
「赤子は女性の腹からしか産まれぬ。そして腹の中で育てたのはお主だ。愛する人との子を宿し、腹の中で動く我が子を愛おしく思わなかったのか。
私もそうだが、男は子が産まれてこの手で抱いてようやく実感する。愛しいと、私の子だと。父として愛しい我が子を何を犠牲にしても護り抜くと。
だが女性は違う。子が腹に宿り、腹の中で子が動き、常に腹の中の子と一緒におる。王妃が大きくなる腹を撫でていた時の顔は既に母の顔であった。子を産む時、叫ぶ程痛く辛く長くかかるお産であったが、王妃は言った。
どれだけ痛くても辛くても愛しいこの子の為の痛さは耐えられると。お腹の中で育てるのもとても幸せであったが、今は早く抱き締めたいと、早く会いたいと。
お主もそう思わなかったのか」
「うぅぅ、うぅぅ……」
「此奴が阿呆でも、お主だけでもエミリーヌを護れば良かったのだ。前侯爵も夫人もエミリーヌの誕生を待ち望み、喜んだ。お主がエミリーヌを護るならば前侯爵はお主を護ったであろう。この愚息を追い出してもな」
「うぅぅ、うぅぅ……」
「だがお主はこの阿呆と同じ様にエミリーヌを捨てたのだ」
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