妹がいなくなった

アズやっこ

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「まずは紙とペン、後は教材を急ぎで手に入れます。問題は今年孤児院を出る子達をどうするかですね。学校へも通って居ない、読み書きも出来ない、その子達をどうするか」

「そうね。孤児院を出て職に付けなかったり、付いても嫌な思いをするから辞めてしまうものね。今から読み書きを教えた所で職に付ける技量も無ければ同じ事よね」

「そうなんだよ。後数ヶ月では何の身にも付かないだろうし」

「まずは正確な人数を調べないと。五箇所の孤児院で今年出る子達の人数と来年出る子達の人数。お祖父様に頼んでジムの息子を呼び戻すわ」

「良いのか?」

「ジムの息子は時期侯爵家の執事になるのよ?執事見習いとしてミリー商会に係わっても良いと思うの」

「ならそっちは任せた。男女の人数が分かり次第対策をしよう」

「そうね」

「ふふっ。二人は本当に息があってるのね。お互い何を考え、何を思ってるのか、何が言いたいのか分かってるわ。お互いを信用して信頼しているのね。 まるで同士の様よ。 ほんの数十年前までは女性は男性に逆らえ無かったわ。口を出す事も口答えする事も、自分の意見を言う事さえ出来なかった。どんなに望まない婚姻でも、旦那様が愛人を何人持とうとも耐えて耐えて耐え続けていた。

お父様が女性でも爵位を継げれる様に変えてから少しづつ女性の発言力も許される様になっては来たけれど、それでもまだ立場は弱いわ。

貴方達を見ていると、お父様が目指した男女の本来の姿なのだと思わせて貰えるわ」

「そう言って頂けると嬉しいです。エミリーヌは初めて会った時から厳しい事も言いますが、それでも人を思う気持ちは綺麗で温かい。 俺はエミリーヌに一生掛かっても返せない恩があります。エミリーヌは懐に入れた者を大事に大切にし、こちらが返した思い以上の思いでまた返してくれます。本来なら受け取るだけで良いはずなのに。 俺もエミリーヌに救われた一人ですが、エミリーヌに救われた者は多い。 俺はエミリーヌを愛し、慈しみ、側に寄り添い支え、俺の愛情でエミリーヌを癒やしてあげたい」

「そう、貴方なら出来るわ」

「これで最後です。俺は前に向かってエミリーヌと進みたい。だから言わせて下さい。

エステル譲を愛せなくて傷つけてすみませんでした」

「愛せなくて当然よ。それでも最後まで婚約者として娘に接してくれてありがとう。チャーリー君だったからこそ、長年耐えられたと思ってるわ。 あんな娘に誠実でいてくれてありがとう。貴方を傷つけてごめんなさい」

「ありがとうございます。お互い最後にしましょう。もう過去に縛られたくない。それに今から俺達は同士です。孤児院の子達を護る同士です。また新たな関係になりましょう」

「ありがとう。二人には感謝してるの、ありがとう」

「では二人共、和解したと言う事でこれからは仲良くしましょうね。それにこの国の民の事を一番知ってるのはアイリーン様だわ。私は自領の民しか分からないけど、アイリーン様はこの国の民の事を分かってる。とても心強い方が味方になって貰えて良かったわね、チャーリー」

「本当だよ。俺も貴族の事は分かるけど平民となると自信はない。それに隣国の平民とこの国の平民は文化も違うし、この国に合ったやり方を指導して貰えると思うと今から楽しみだよ」

「私も微力ながら頑張らさせて貰うわ」


 アイリーン様が帰り、部屋に戻った私とチャーリーは、


「アイリーン様、とてもしっかりとしたお方だったのね。娘があれだったから、アイリーン様も我儘な方だと思っていたわ」

「元王女だけあって、話せば分かる人だと思うよ。ただ、一人娘で甘やかしていたのかも知れないけど、娘が修道院に送られてようやく目が覚めたんだと思う。王女教育は厳しいらしいし、国の全体を把握する力も持ってると思う。夫となる王を手助けしないといけないからね」

「そうね」

「でも、全体像はまだ見えないけど、それでも一歩進み出した」

「そうね。まだまだ考えないといけない事は多いけど、とりあえずは進み出したわ」

「ああ」



 数日後、アーサー父様に王宮に来るようにと言われ、私はチャーリーと向かった。


「エリー、浮かない顔してるけどどうしたの?」

「うん…。急に王宮に呼ばれたから……」

「エリーの事は俺が護るから安心して?」

「うん…」

「側に居て離さないから」

「うん…」


 馬車が王宮に着き、チャーリーの手が私の手を握る。それだけで安心する。

 チャーリーに手を引かれ、アーサー父様の私室へ来た。中に入るとアーサー父様は難しい顔をしていた。


「父上、そんな難しい顔して何かありましたか?」

「いや、うん。やっぱりエミリーヌの意見も聞こうと思ってな」

「エリーの意見ですか?」

「そうだ。今日、エミリーヌのご両親が陛下の元へ来る。陛下はエミリーヌを同席させるつもりは無いそうだ。貴族として陛下自ら裁きを下す。 私もエミリーヌを同席させたくない。もう傷ついてほしくないと個人的には思ってる。ローラも同じ思いだ。

だがな、エミリーヌの知らぬ所で裁きを決めて良いのか、その事を悩んでいる」

「アーサー父様…」

「エミリーヌはもう私の可愛い娘だ。私とローラの愛しい娘だ」

「はい」

「傷つく姿も傷つけてられる姿も見たくない。だが、最後に文句の一つも言えないのはこの先エミリーヌにとって良いのか悪いのか、私は決められない」

「はい」

「ゆっくり考えてエミリーヌが決めなさい。会うも会わないもエミリーヌが決めた事を私もローラも尊重する」

「分かりました」


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