妹がいなくなった

アズやっこ

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「私からもよろしいでしょうか」

「エミリーヌか、良いぞ」

「ありがとうございます」


 私は一歩前に出て、


「エステル様、私の愛しいチャーリーを長年に渡り傷つけ、アーサー父様やローラ母様を侮辱し傷つけた事、私も一生許しません。

正直、貴女はどうなろうと気にもなりませんが、子を作った以上、貴女には子に責任があります。子を犠牲にするのだけはおやめ下さい。子を蔑ろにし育児を放棄するのなら、貴女は人ではありません。醜い心を持った悪魔です。

それでも子を育てれないと言うのなら、私が面倒を見て立派に育てます。愛情は子を思う心の深さで決まります。血の繋がりよりも思う心の深さの方が大事なのです。それをお忘れなく。 お元気で」


 チャーリーは私を後ろから抱き締めた。


「私からは貴女が罪を認め、悔い改めてから言いたいと思います。言いたい事は山程ある、だから生き続けて下さい」

「それだけで良いの?今しか無いわよ?」

「良いんだ。お互い生き続けていればいつか言える時がくるさ」

「そう…」


 私はチャーリーを抱き締めた。

 エステル様のお母様が一歩前に出た。


「エステル、貴女が認めようと認め無かろうと、もう貴女は罪人です。そしてこの部屋は貴族の牢屋部屋…。貴女は平民になったのにも関わらず、最後まで貴族の牢屋部屋で過ごせた事を感謝しなさい。陛下の御慈悲を忘れてはなりません」


 エステル様のお母様が私の前に来て、


「キャメル侯爵、私は母として未熟でした。娘可愛さに諭し教えてこなかった。先程、エミリーヌ様が子を面倒見るとおっしゃいましたが、お言葉感謝致します。 ですが、私が育てます。今度は諭し教えて立派な子に育てます。 お気持ちとても感謝致します」

「いえ、私も出過ぎた真似をしました」

「いえ、私も元王女の立場を忘れていました。本来ならもう捨てた命でしたのに。元王女として今後はこの国の民の力になりたいと思います。孤児院の件、私も参加させて頂けないでしょうか。勉学を教える事も刺繍を教える事も出来ますのよ」


 私はチャーリーと目を合わせて、


「よろしいのですか?」

「チャーリー君が嫌で無ければ」

「少ない給金しか出せません。それでもよろしいでしょうか」

「給金は入りません。この国の民の力になる為です」

「ではお願いします。人手は多い方が有り難い。感謝します」

「精一杯勤めさせて頂きますわ」

「はい、お願いします」

「皆、エステルに話し終わったか? では明後日エステルは修道院へ送る。厳しい監視下に置かれるがそれも自分で招いた結果だ、仕方あるまい。

本日は遅くまですまぬな」


 陛下と王妃様が部屋を出て行き、アーサー父様の後ろを私達は付いて行った。牢屋部屋の中、エステル様のご両親は最後の別れをするのだと思う。部屋の扉が閉まると同時に女性の泣き声が聞こえてきた。

 私はチャーリーに抱き寄せられ、部屋を後にした。 アーサー父様やローラ母様はこれをチャーリーの時に経験したのだと思うといたたまれない気持ちになる。胸が苦しくはち切れそうだった。


 馬車に乗り込みブラウニー侯爵家へ向かう車内は誰一人声を発する事は無かった。各々思う気持ちはあると思う。チャーリーとエステル様の婚約破棄の時が全ての始まりで、それからブラウニー侯爵家は辛く悲しい日々だったと思う。深く深く沈みゆく底なし沼の様な、光が差し込まない闇の様な…。それでも夫婦二人で乗り越えて来たのだと思うといたたまれない気持ちになる。

 私はチャーリーの能力を埋もれさせるのが勿体ないと思って手を差し伸べただけで、隣国で成功したのはチャーリーの努力結果。 エステル様も自分の罪を見つめ直し悔い改めてほしいと心から願う。そしてチャーリーの今迄言えなかった心の内の言葉を話す機会が来る日を願う。


 ブラウニー侯爵家へ着き、アーサー父様とローラ母様は二人の自室に戻って行った。きっと傷ついたローラ母様を労り愛を囁やき側に寄り添うのだと思う。

 私はメイドに手伝って貰い湯浴みを済ませた。今日は余りにも色々な事がありすぎて疲れてしまった。 チャーリーの待つ部屋に入り、ベッドで横たわるチャーリーの横に倒れ込んだ。


「エリー?大丈夫?」

「………疲れた……」

「そうだね、俺も流石に疲れたよ」

「ねぇ、どうしてチャーリーは文句の一つも言わなかったの?一番言いたかったのはチャーリーでしょ?」

「まあ、そうなんだけど…。言いたい事は沢山あるのは事実だけど、もう良いんだ」

「どうして?」

「うん、今は愛しいエリーが側に居る。それに婚約破棄になってようやく楽になれる、開放されると思ったのも事実だしね。婚約者として最低だろ?」

「でも、それは…」

「分かってる。彼女の愚行や暴言が引き金だとしても、婚約者として最後まで彼女に誠実でなければいけなかった。不貞をした俺があの時は悪かったんだ。不貞と分かりながら止めれなかったのは、俺の弱さだ。開放されたいと願いながらも宰相としての立場も捨てたくない、俺の心の弱さだ。俺も欲にまみれ、己可愛さに醜い心を持った者なんだよ」

「そんなの、皆誰しも持ってるわよ。私だって自分が可愛いわ」

「だからかな、あの場で彼女を責めるのは違うと思った。それに開放されて俺は良かったと思ってる。エリーと出会えた。あのまま結婚してたらエリーと出会えず、今も彼女の横で自分を偽り心を殺して過ごしていると思う。それだと俺は死んでる様なものだ。俺は今の生きてると実感出来てる方が良い」

「うん、そうよね」


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