妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
120 / 187

119

しおりを挟む
「エステルをつまみ出せ。監視も怠るな」


 騎士がエステル様を担ぎ上げ部屋を出て行った。


「真実が分かりお主はどうするつもりだ」

「真実を知られようがもう遅い。腹には俺の子がいる。破瓜の跡の証拠が見たいなら見せるが」

「嫌、それには及ばぬ」

「それは有り難い。それなら俺が大事に保管するさ。何かあった時の証拠としてな」

「お主には残念な話だが、エステルは数日後には平民になる。また、エステルの親は公爵から子爵になる」

「はあ?嘘だろ。エステルはあんたの姪だろ」

「そうだな。だが私もエステルに見切りをつけた。何も変わらぬ者に容赦はしない」

「嘘だろ…。なら俺はエステルの親から金を巻き上げるさ」

「父として子はどうする」

「子?そんなのエステルが面倒見るだろ。俺の知った事じゃねえな」

「お主、子はお主の道具では無いのだぞ」

「子は親の道具だ」

「お主!」

「陛下は何も知らねえな」

「何がだ」

「俺は孤児院育ちだって言っただろ」

「ああ」

「俺も親に捨てられた子だ」

「そうだが」

「自分は捨てられたのに自分は捨てるなって?」

「それでも父であろう」

「父か…。俺等孤児院で育つ者の大半が親に捨てられた者達だ。親が死んで孤児院に来る奴が何人いると思う。俺等の母親は殆どが平民のメイドだ。貴族の邸で働くメイドだ。父親はその邸の主人だ。 俺にだって何処の誰か知らねえけど貴族の血が流れてる。 そして主人に無理矢理、強姦され、子が出来れば邸をクビにする。働けず働く場所を失い、俺の母親は俺を産んで孤児院に俺を捨てた。俺は母親が誰かも知らねえ。 それなのに父として子の面倒を見ろって?なら俺の父親は俺の面倒を見たのか! 自分の欲を吐き出す為だけにメイドを襲い、子が出来れば捨て、その中で産まれた俺に子?父?ふざけるな!」

「すまない。孤児院に充分な支援をしていると思っていた。だが支援も大事だが、お主達の心を癒やす事も必要だったのだな。すまない、私の見落としだった。謝り済む話ではないが、これからは支援だけでなく心にも寄り添う支援もしよう」

「支援は充分だった。服も食べ物も、全員与えられ、飢えた子は誰一人としていなかった。それは感謝してる」

「陛下、私もよろしいでしょうか」

「チャーリー何だ」

「ありがとうございます。私もこの国へ帰って来てから何度か孤児院に出向きますが、支援は充分に行き届いていました。ですが一つ気になる事がありました」

「それは何だ」

「隣国の孤児院もそうですが、孤児院育ちの者は職に付きにくい。この国では12歳から無料で学校へ通い勉学が学べます。孤児院の子達も例外ではありません。ですが、孤児院で育つ子達は直ぐに通わなくなる。何故だと思いますか?」

「分からぬ。すまぬが教えてくれ」

「まず字が書けません。読む事は何とか出来ても書く事は誰かが教えないと出来ません。それに教材一つ無いのにどう学びます?孤児院では紙とペンも貴重な物です。一人づつに与えられる訳ではありません。 そして無料の学校では字の読み書きを教えると言っても、平民は親に習ってから学校へ入ります。ある程度読み書きが出来てる子達に一通り教えるだけで、一人づつ教えるのではないのです。それに無料の学校では読み書きよりも職につく為の技術を学ぶ方に力を入れてます」

「確かにそうだ」

「孤児院の子達は読み書きでつまずき、技術を学ぶ前に行かなくなります。

そして平民の中での格差です。貴族でも格差はあります。公爵と男爵では立ち位置も違います。それと同じです。 平民の中でも商店を営む家は上ですが、孤児院の子達は下です。その格差で無料の学校に通えなくなります。貴族より平民の方がその風当たりは強い。 孤児院の子達が自分より劣れば何もされませんが、優れていたら潰されます。平民は自由奔放に見えますが、貴族の様な秩序は存在しません。己を護るのは己のみ、なのです」

「そうか」

「私も時期宰相として様々学びましたが、孤児院は女性の分野と我々男性は勝手に思っていました。確かに王妃様初め、貴族の令嬢が孤児院に寄付をしたり、数ヶ月に一度行われるバザーの為に孤児院の子達にお菓子作りを教えたり、刺繍を教えたりしていますが、それでも数ヶ月に一度しかないのです。バザーの収益を寄付する為なので仕方のない事です。それでも教えてくれた令嬢には感謝しかありません」

「そうだな、私も充分な支援を予算として賄うが、孤児院の訪問は王妃に任せきりだった」

「はい。私も隣国へ行き初めて孤児院の中に入りました。ですが、孤児院の子達は教えれば、きちんと学べば不自由なく職に付ける訳ではないのです。平民な中でも孤児院の子達を雇う人は少ないのです。孤児院育ちの子達が盗みをしましたか?それでも孤児院出と言うだけで何か盗むのではないかと疑いの目で見られその中で働きます。孤児院育ちの子達は我々と同じ人です。ですが、人のやりたがらない事しか職に付けない。人として扱われる事はありません」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...