妹がいなくなった

アズやっこ

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「お主は誰だ」

「ですから大公の息子だと」

「もう一度聞く。お主は誰だ」

「私は隠し子です」

「そうか、残念だ。お主の口から真実を聞きたかったのだがな。入れ」


 陛下の声が聞こえ、騎士の一人が扉を開け、私達は隣の部屋に案内された。

 同じく隣の部屋の扉からフルド様が入って来ていた。


「フルドよ、この男の真の姿を教えてくれ」

「はい、陛下。 この者はセイリーン孤児院の出の者です。名前はそのまま、セシムです」

「名は偽っていないのか」

「はい」

「セシムよ、どうして身分を偽り、エステルを騙したのだ。正直に申せ」

「バレたのなら仕方ねえ。エステルを騙したのは生涯楽して暮らす為だ。貴族の愛人になり子が出来れば俺の面倒を見て貰えるからな。平民の女は愛人になって働かずして暮らしている。子が出来れば捨てられる事はない。平民の女は身体で貴族の男を誘うんだ。それなら平民の男が貴族の女を身体から落としてもいいだろ」

「お主はエステルを慕っておるのか?」

「慕う?あ~、愛してるかって事か?」

「そうだ」

「愛人になるのに愛が必要か?」

「必要ではないのか?」

「陛下は愛する人しか行為をしないのか?」

「当たり前だ。私は愛する王妃だけだ」

「それはすごいな。陛下も男なら分かると思うけど、愛がなくても行為はできる。自分の欲を出す為、気が合ったから、なんとなく雰囲気で、酒を飲んで人肌が恋しくなったから、俺等はそれだけで行為ができる。平民は貴族程、窮屈じゃないしな」

「確かに我々王族だけでなく貴族もお主等に比べれば窮屈かも知れん。だが、皆がお主と同じ考えでは国は民は護れん」

「それはあんたが陛下だからだ。俺達平民が何を護ると言うんだ。俺等は自分だけ護れればいいんだよ。他人なんか知ったことじゃねえ。俺は俺の生活の為にこの容姿を使っただけだ。文句を言われる筋合いはねえ」

「褒められた事ではないが、お主が生活する為に容姿を使い、エステルの愛人になるべく騙したと言うんだな」

「エステルを騙すのは簡単だった。平民の酒の肴は貴族の噂話だ。元王女を母に持つ公爵令嬢。本来なら雲の上の人だ。だけどな、噂話はそういう奴程流れるんだよ。善人みたいな人の噂話は話のたねにもならない。どちらかと言うと悪人の方がより皆が面白がり話が盛り上がる。

陛下知ってるか。貴族の家で働く者、街で働く者全てが平民だ。貴族の家で働く者は口が堅いが、街で働く者は噂話として話を広める。皆、話をしたくて仕方ないんだ。よく来る客なら顔と名前は直ぐに覚える。そこで毎度出る女がエステルだ。

高飛車で傲慢、人を見下し、婚約者すら奴隷の様に扱い、俺達平民は家畜だとな。今日はどこどこの店で婚約者に悪態をついていたとか、従業員に罵声を浴びせてたとか、日常茶飯事で話が聞こえてくる。そこで必ず言う事が、高貴な血筋の自分には高貴な殿方が相応しい、ただの貴族は平民と変わらないってな。貴族は賢い奴が多いと思っていたけど、頭の悪い奴もいるもんだと驚いたよ。

俺達だって公爵が雲の上の人だと知っている。だけどな、貴族だって俺達からしてみれば雲の上の人なんだよ、そこに違いはない。

たまたま隣国から来ていた商人と酒場で盛り上がり隣国の大公の娘に頼まれてこの国に来たと言っていた。大公が王弟だと言う事も聞いた。俺はこれだと思ったよ。大公の息子としてエステルに近づこうってな。この女が隣国の王族の事を知る訳ないしな。この女は自分がこの国の姫だと気取ってるが、そこを上手く転がせば簡単に転がせれる。皆から愛され敬われる者だと思ってる奴程、偽物の身分と偽物の言葉で簡単に騙せれるんだ」

「せ、セシム様?嘘、ですわよね」

「俺はお前が家畜と罵る平民だよ。それも平民の中でも下の孤児院育ちだ」

「わたくしを騙したのですか」

「お前は貴族の女にしては簡単な女だった。言葉匠に言えば簡単に俺に抱かれ、子が欲しいと言えば毎日俺に抱かれに通って来た。俺に抱かれた証拠を残す為に子を作ったけど、思い掛けずお前の破瓜の跡を残す事が出来た。お前、旦那にも抱かれてなかったんだな。俺にはちょうど良かったけどな。 お前の初めてを俺が奪った、そしてお前の腹の子は俺の子だ」

「う、嘘よ。嘘よ、嘘よ、嘘よーーー」

「嘘じゃねえな。身分を偽装してお前に近づき、偽りの愛を囁いてお前を抱いた。子が出来たら愛人になって身分を明かすつもりだった。その時何を言っても子は俺の子だ。お前が俺を捨てても、公爵が俺の面倒をみてくれるだろうしな。俺が噂を流せばお前は貴族の中で今の立場を失う。夫以外の男に抱かれ子を作った、そして夫とは初夜もしてない、その夫もお前のせいで心を病んで公爵家で監禁されてるってな。お前が何でも話てくれて助かったよ。最悪脅して金を引き出せる、それも一生な」

「い、いやーーーーーーーーーー、嘘だと、嘘だと言ってーーーーー」


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