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小部屋の奥に入ると、隣の部屋の声が聞こえる。
「どうしてわたくしが……」
エステル様の声がはっきりと聞こえる。
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
「セシム様、どうされましたの?」
「え?エステル?どうして君がここに居るんだ?」
「わたくしはおじ様にこの部屋に居るようにと言われましたのよ? セシム様はどうしてこちらに?」
「私も陛下の使いの者が来てね」
「そうでしたのね」
「エステル、私と君の関係は誰にも話してないね?」
「勿論ですわ。誰かにお話すれば、セシム様の命だけでなく、わたくしの命と子の命も始末されるのですもの」
「ああ、そうだ。前にも話したが、私の母上は愛人だ。私は愛人の子だが、父上の跡を継ぐのは私だ。 父上の正妻には娘しか居ないからね、私を始末したいんだよ。だから私は隣国からこの国へ見つからないように来たんだ。 だけど私はエステルに会ってしまった。こんなに可愛いくて、それでいて芯がしっかりしていて、誰に対しても己を曲げない強さがある。私の理想の女性だよ。女神だ。 愛してるよエステル」
「わたくしも愛しておりますわ、セシム様」
「私達の子は元気に育ってるかな?」
「はい、順調だと言われましたわ」
「あぁ、愛しい我が子よ、早く父様に会いに来てくれ」
「ふふっ、セシム様、まだ宿ったばかりですわ」
「そうだが、待ち遠しいのだ」
「この子が産まれれば、セシム様も跡継ぎとして認められますわね。大公様もお喜びになりますわ」
「あぁ、父上もやっと私と母上と一緒に暮らせれるよ。ありがとうエステル、愛しい人」
チュ、チュ、チュ、
「あぁぁん、せ、セシム様…」
「綺麗だ、エステル」
「あぁぁん」
「エステルの身体はいつ見ても美しい」
「だ、だめ…セシム様…」
チュ、チュ、
「セシム様、だ、だめ、ですわ…。誰かに見られますわ」
「あぁ、すまない。エステルの肌を見るとどうしても抑えきれなくなるのだ」
「わたくしもですわ。セシム様の逞しい胸に抱かれたいですわ」
「明日、いつもの場所で会えるか?」
「えぇ、勿論ですわ」
「この続きは明日、明日は我慢しないよ。いいかい?」
「我慢なさらないで。子がいるので優しくして下さいませ」
「あぁ、気をつけよう。だが、エステルが美しいのがいけないのだぞ? どうしても抑えきれなくてむさぼりついてしまう。私は獣のようだ」
「まあ。セシム様は獣ではありませんわ。わたくしを愛して下さる殿方ですわよ?」
「あぁ、愛しいエステル、愛してる」
「わたくしも愛しておりますわ」
「早く一緒に暮らしたいよ」
「わたくしもですわ」
「このまま攫って行こうかな」
「セシム様に攫われるのなら嬉しいですわ」
エステル様とセシム様という殿方との会話を静かに聞いていて、陛下が初めに声を出すなと言った意味が分かった。
エステル様のご両親にしてみれば娘の腹の子が夫の子ではない事を聞かされ、更には声だけで何をしようとしていたか想像も出来る。
チャーリーやアーサー父様、ローラ母様にしてみれば、あれだけ自分や息子を家畜だの、獣だの、罵っておきながら、やってる事は同じ事。婚約中か婚姻中の違いだけだ。
思わず声を出したくなる。文句の一つも言いたくなる。 皆、それぞれ後ろには騎士が付いていて、一言発するものなら口を乱暴に塞がれると思う。それ程隣の部屋と近いという事だと思う。 自分の息づかいさえ気になるくらいこちら側は緊張感が漂い静まりかえっている。
陛下が一人静かに部屋を出て行った。着衣の擦れる音さえ、よく聞こえる。
コンコン
「待たせて悪かった」
「おじ様」
「陛下」
「君が大公の息子か?」
「陛下には知られていましたか」
「大公は息災か?」
「はい、元気にしております」
「使いの者の話だと酒場に居たそうだが」
「はい、酒場では様々な情報が飛び交います。この国の事から隣国の事まで。噂話から真実まで様々です。平民にとって貴族の話で盛り上がるのが何よりも酒の肴ですので」
「だから身なりもその様な身なりなのだな」
「はい、場に溶け込まなければ何も情報は得られません。このような身なりで申し訳ありません。本来なら身なりを整えてから来るべきでしたが、陛下の使いの者が急かすので」
「それはすまぬな」
「いえ。それで私を呼び出し何かご用でもおありでしたか」
「嫌、大公の息子がこの国に居ると聞いてな。それなら是非にも会ってみたいと思ったのだ。大公がまだ王弟殿下の時に数回会った事があるからな」
「そうでしたか」
「お主は母親似か?」
「はい、私は母上に似ました。父上に似たのは性格の方です」
「ならばお主も賢いのだな」
「父上を目指して精進しております」
「そうか。たが、私の知る所では大公の子は娘だったはずだが」
「私は愛人の子ですので、公には知られておりません」
「そうか。だが、大公は奥方以外に現を抜かす者ではないはずだが」
「父上も所詮男と言う事なのでしょう」
「そうか。 大公と私の妹は婚約する予定だった。だが、大公が一人の令嬢以外奥方にする事はないと早々に王族から抜け大公になった。その者が奥方以外の女性に心が移るとは思えんのだがな」
「どうしてわたくしが……」
エステル様の声がはっきりと聞こえる。
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
「セシム様、どうされましたの?」
「え?エステル?どうして君がここに居るんだ?」
「わたくしはおじ様にこの部屋に居るようにと言われましたのよ? セシム様はどうしてこちらに?」
「私も陛下の使いの者が来てね」
「そうでしたのね」
「エステル、私と君の関係は誰にも話してないね?」
「勿論ですわ。誰かにお話すれば、セシム様の命だけでなく、わたくしの命と子の命も始末されるのですもの」
「ああ、そうだ。前にも話したが、私の母上は愛人だ。私は愛人の子だが、父上の跡を継ぐのは私だ。 父上の正妻には娘しか居ないからね、私を始末したいんだよ。だから私は隣国からこの国へ見つからないように来たんだ。 だけど私はエステルに会ってしまった。こんなに可愛いくて、それでいて芯がしっかりしていて、誰に対しても己を曲げない強さがある。私の理想の女性だよ。女神だ。 愛してるよエステル」
「わたくしも愛しておりますわ、セシム様」
「私達の子は元気に育ってるかな?」
「はい、順調だと言われましたわ」
「あぁ、愛しい我が子よ、早く父様に会いに来てくれ」
「ふふっ、セシム様、まだ宿ったばかりですわ」
「そうだが、待ち遠しいのだ」
「この子が産まれれば、セシム様も跡継ぎとして認められますわね。大公様もお喜びになりますわ」
「あぁ、父上もやっと私と母上と一緒に暮らせれるよ。ありがとうエステル、愛しい人」
チュ、チュ、チュ、
「あぁぁん、せ、セシム様…」
「綺麗だ、エステル」
「あぁぁん」
「エステルの身体はいつ見ても美しい」
「だ、だめ…セシム様…」
チュ、チュ、
「セシム様、だ、だめ、ですわ…。誰かに見られますわ」
「あぁ、すまない。エステルの肌を見るとどうしても抑えきれなくなるのだ」
「わたくしもですわ。セシム様の逞しい胸に抱かれたいですわ」
「明日、いつもの場所で会えるか?」
「えぇ、勿論ですわ」
「この続きは明日、明日は我慢しないよ。いいかい?」
「我慢なさらないで。子がいるので優しくして下さいませ」
「あぁ、気をつけよう。だが、エステルが美しいのがいけないのだぞ? どうしても抑えきれなくてむさぼりついてしまう。私は獣のようだ」
「まあ。セシム様は獣ではありませんわ。わたくしを愛して下さる殿方ですわよ?」
「あぁ、愛しいエステル、愛してる」
「わたくしも愛しておりますわ」
「早く一緒に暮らしたいよ」
「わたくしもですわ」
「このまま攫って行こうかな」
「セシム様に攫われるのなら嬉しいですわ」
エステル様とセシム様という殿方との会話を静かに聞いていて、陛下が初めに声を出すなと言った意味が分かった。
エステル様のご両親にしてみれば娘の腹の子が夫の子ではない事を聞かされ、更には声だけで何をしようとしていたか想像も出来る。
チャーリーやアーサー父様、ローラ母様にしてみれば、あれだけ自分や息子を家畜だの、獣だの、罵っておきながら、やってる事は同じ事。婚約中か婚姻中の違いだけだ。
思わず声を出したくなる。文句の一つも言いたくなる。 皆、それぞれ後ろには騎士が付いていて、一言発するものなら口を乱暴に塞がれると思う。それ程隣の部屋と近いという事だと思う。 自分の息づかいさえ気になるくらいこちら側は緊張感が漂い静まりかえっている。
陛下が一人静かに部屋を出て行った。着衣の擦れる音さえ、よく聞こえる。
コンコン
「待たせて悪かった」
「おじ様」
「陛下」
「君が大公の息子か?」
「陛下には知られていましたか」
「大公は息災か?」
「はい、元気にしております」
「使いの者の話だと酒場に居たそうだが」
「はい、酒場では様々な情報が飛び交います。この国の事から隣国の事まで。噂話から真実まで様々です。平民にとって貴族の話で盛り上がるのが何よりも酒の肴ですので」
「だから身なりもその様な身なりなのだな」
「はい、場に溶け込まなければ何も情報は得られません。このような身なりで申し訳ありません。本来なら身なりを整えてから来るべきでしたが、陛下の使いの者が急かすので」
「それはすまぬな」
「いえ。それで私を呼び出し何かご用でもおありでしたか」
「嫌、大公の息子がこの国に居ると聞いてな。それなら是非にも会ってみたいと思ったのだ。大公がまだ王弟殿下の時に数回会った事があるからな」
「そうでしたか」
「お主は母親似か?」
「はい、私は母上に似ました。父上に似たのは性格の方です」
「ならばお主も賢いのだな」
「父上を目指して精進しております」
「そうか。たが、私の知る所では大公の子は娘だったはずだが」
「私は愛人の子ですので、公には知られておりません」
「そうか。だが、大公は奥方以外に現を抜かす者ではないはずだが」
「父上も所詮男と言う事なのでしょう」
「そうか。 大公と私の妹は婚約する予定だった。だが、大公が一人の令嬢以外奥方にする事はないと早々に王族から抜け大公になった。その者が奥方以外の女性に心が移るとは思えんのだがな」
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