妹がいなくなった

アズやっこ

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「ではそれをエステルは信じたのだな」

「おそらく」

「大公の息子と偽り騙して、隣国へ知られぬと思ったのか」

「おそらく」

「大公の耳に入れば外交問題になる」

「はい、ですが大公閣下のお耳にはまだ入っておりません」

「何故言い切れる」

「そこは用意周到です。エステル様にしか言っておりません。そしてエステル様も殿方とは言っていますが、誰とは誰にも話していません。男の数人の友人は知っていますが、平民のそれも孤児院育ちの平民の言う事を誰が信じましょう」

「そうだな。それで今、男は何処に居るか分かるか」

「酒場か長屋でしょう」

「そうか。悪いがその男をここへ連れて来て欲しい。頼めるか」

「はい、陛下。仰せの通りに」

「頼む」


 情報屋のフルド様は部屋を出て行った。


「何か用意させよう」

「お兄様、エステルに会わせて下さいませ」

「それは出来ぬ。エステルは別室で隔離しておる。今は誰にも会わせる事は出来ぬ」

「そんなのあんまりですわ」


 エステル様のお母様が泣き崩れ、隣で公爵様、もう子爵様かしら、が、支えている。


「陛下、私とエミリーヌに部屋を貸して頂けませんか。エミリーヌもこの場に留まるのは少し荷が重い。時間も少しかかるようなので別室で少し気を楽にしてやりたいのです」

「分かった、用意させよう」

「ありがとうございます」

「宰相、夫人はどうだ?」

「私共も一度、席を外させて頂きます。私の私室におりますので何かありましたらお知らせ下さい」

「お主達親子は揃いも揃って、似た者同士の様だな。 おいおい、そう睨むな。私も王妃と一度下がろう」


 陛下と王妃様が部屋を出て行き、アーサー父様とローラ母様も続いて出て行った。私達はメイドに連れられ別室に入り、メイドはお茶と軽食の準備をして出て行った。


「エリー、おいで」


 私はチャーリーの膝の上に座り、


「疲れただろ?」

「そうね」

「お腹空いてない?軽食でも食べようか」

「食べたいわよ?でも、」

「どうしたの?」

「コルセットがきつくて…。コルセットなんてはめた事ないから苦しくて…」

「あ~、少し緩めて貰おうか」

「緩めても大丈夫なの?」

「多少着崩れても夜会じゃないんだ、大丈夫だよ」

「それなら少し緩めたい」

「分かった」


 チャーリーは側に置いてあった鈴を鳴らした。直ぐにさっき案内してもらったメイドが来て、


「悪いが、少しコルセットを緩めて貰えるだろうか」

「畏まりました」


 私は別室へ連れて行かれ、コルセットを緩めて貰い、チャーリーの待つ部屋に戻って来た。


「ありがとう」

「いえ、御用が御座いましたらまたお呼び下さい」


 メイドが部屋を出て行き、


「エリー、おいで」


 私はチャーリーの膝の上に座り、軽食で用意されたサンドイッチを食べた。私用に一口大の大きさに切られてあり、チャーリー用は普通の大きさに切られていて量も多かった。 サンドイッチを食べ、ハーブティーを飲んで一段落し、


「エリー、さっきはありがとう」

「さっき?」

「元婚約者に言ってくれただろ?」

「チャーリーが止めたのにごめんなさい。ローラ母様にも我慢しなさいと言われていたのに……」

「母上も嬉しかったはずだよ。俺も嬉しかった。俺の代わりに言ってくれて、俺を護ってくれて嬉しかった。ありがとう」

「だって我慢ができなかったの。私は今迄も我慢できなかった。だけど本人目の前にする機会も無かったし…。だからチャーリーを平気で傷つける人を許せなかった」

「ああ、エリーの愛が俺は嬉しかった」


 私はチャーリーの頬を撫で、


「傷ついたでしょ?」

「言われなれてるとは言いたくないけど、今迄散々言われてきたからね」

「それでも傷ついてるわ」

「そうだね、本当は傷ついた。何年たっても言われ続けるんだなって。その度に不甲斐ない自分に呆れるよ」

「そんなチャーリーも愛しいわよ?」

「エリー、俺は傷ついた。癒やしてほしいな」


 私はチャーリーに抱きつき、背中を撫でた。


「傷ついた心が癒やされます様に…」

「エリー、ありがとう。口付けしてくれたらもっと癒やされるよ?」


 私はチャーリーから離れ、


「もう!ここ王宮よ?分かってる?」

「でも誰も居ない。駄目?」


 私はチャーリーの唇に自分の唇を重ねた。離れようとするとチャーリーの唇が重ねられ、何度も口付けをした。

 暫くゆっくりしていたらメイドが呼びに来た。


「お部屋の移動をお願い致します」


 私達はメイドの後に付いて行き、さっきとは違う部屋に通された。

 少ししてからアーサー父様とローラ母様が、その後ろからエステル様のご両親が入り、暫くして陛下と王妃様が入って来た。

 ただ、この部屋、座る椅子が無くて、私達は全員立ったままだった。


「これから私が良いと言うまで一言も声を出さないと約束してほしい。もし、思わず声が出た場合、騎士により口を塞がせてもらう。 女性には悪いがもし嫌だと思うなら別室で待機してもらう事も出来るがどうだ?」


 王妃様が頷き、ローラ母様も頷いたので、私も頷いた。


「妹よ、お主には辛い事を聞く事になるかもしれん。無理はするな」


 エステル様のお母様も頷き、私達は部屋の奥の小部屋まで進んだ。


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