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「お主は王女教育で何を習ったのだ。我々一族が王族として君臨できておるのは何故だ」
「それは…」
「この国が出来て三百年余り。初代の王が何を望み、誰に感謝し、この国を民を護ったか、お主は王女教育で習ったはずだ、違うか」
「そうです」
「約三百年前、この国は隣国が治める地であった。我々一族は辺境伯として他国からこの地を護ってきた。だが、その時の王は人を人として見ない愚王だった。貴族であろうと意見を言えば処刑され、王のみが人であり、他は奴隷の様に扱い、見下し足蹴にした。平民は痩せ細り、死んだ者は家畜の餌にされた。見目が良い女性は王の快楽の道具になり、子が出来れば殺した。幼い少女であっても無理矢理身体をこじ開け快楽の道具にした。
土地は荒れ、民は死んでいく。巻き上げる税で自分だけ贅沢な暮らしをし、快楽に溺れ、自分の事しか考えない自分勝手な王だった。
我々一族は辺境伯としてこれ以上見て見ぬ振りをする事が出来なくなり、辺境伯を支持する貴族と共に王へ謀反を興した反逆者だ。 愚王から王政を奪い、国を奪った。その時愚王の一族も皆処刑し、新たな王として我々一族と同じ志を持った辺境伯が王になり、国を二分して隣国を新たな王が、この国を我々一族が王になり、国と民を護り導く事になった。
初代の王の志は、この国に住まう民皆の幸せを願い、民皆が痩せ細り死ぬ事が無いように望み、人としての尊厳を護り、他国から己の剣で民皆を護る、だった。
荒れた土地を一から作り直し、地盤を平民に任せ、平民を護る様にと貴族に託した。
貴族の子の成人を遅くしたのも子が独り立ちしても路頭に迷う事が無いように庇護下で護り、教育する為だ。子の将来を王が案じたからだ。
我々王族は初代の王の志を受け継ぎ、この国を支え護ってくれている民皆に感謝をし、敬意を払い、そして王として導いて行く。
そう習わなかったか?」
「習いました」
「お主の娘はどうだ? 自分勝手な愚王と変わらぬではないか、違うか」
「確かに少し我儘な所があります。婚約者に対し非道な仕打ちをしました。それは認めます。ですが、エステルも子供だったのです。子供が受けた傷を護るのが親です」
「それが一方的な暴言と有無を言わさない決断か?」
「それは…」
「お主が親と言うのなら、子の間違いを諭し導くのも親だ。 お主は元王女で公爵夫人だ。貴族の女性や子供の手本となり導き手助け出来ると思っていたし、信じていた。お主も厳しい王女教育を受けてきた。私が国を民を、お主が貴族を、二人で護り支えあえると私は信じていた」
「お兄様…」
「妹よ、慈悲は一度だけだ」
「お兄様、お願いします。どうか、どうか…」
「教育し直せと申したはずだ。私の申し出を聞かず者の言葉は信用出来ぬ」
「お兄様、御慈悲を、どうか御慈悲を…」
「慈悲な、ではこの国の為に、お主の娘にはサウザード国へ嫁いで貰おう」
「お兄様、それはなりません」
「何故だ」
「娘は婚姻しております」
「離縁すれば良い。お主の娘の愚行に耐えられず心を病んだ夫か? 私が生活出来るまで面倒を見る」
「ですが、何故、サウザード国など野蛮な国なのです」
「野蛮な国だからだ。武力で成り上がった王だ、他国にも武力で戦を度々仕掛けておる。その度、その国の王女を娶っておる」
「エステルは王女ではありません」
「エステル本人が王族だと、高貴な血筋だと申しておるではないか」
「ですが王族ではありません」
「王族ではないと、貴族なのだと、諭し教えてこなかったお主の責任だ。 私には王子しかおらぬ。だからこの国に戦を仕掛けてこないだけだ。 いつこの国が欲しいと戦を仕掛けてくるかも知れん。その前にエステルを王族として嫁がせこの国を護りたい」
「それはなりません」
「第八側妃にはなるが、この国を護り国と国を繋げる架け橋になれるのだ」
「娘を犠牲には出来ません」
「犠牲とな」
「はい。王女教育で初めに習うのは王女として他国へ嫁ぎ、国と国を繋ぐ架け橋になる事。そして嫁いだ国と我が国が戦になればこの身を挺して我が国を護れと教えられます」
「そうだ。お主は父上が他国へ嫁がせるのを反対し早々に公爵家と婚約をさせた。伯母上は王女として他国へ嫁ぎ、非道な扱いを受けただけでなく、我が国を護る為に己の命を差し出した。だから父上は娘のお主をこの国で護りたかった」
「はい、分かっております」
「お主は父上の愛情に包まれ護られ、王女としては運が良かった」
「はい」
「この国だけでなく、他国でも王女とは国の犠牲だ。嫁いだ先で幸せに暮らせた者もいる。だが伯母上の様に非道な扱いを受ける者もいる。己の命を、身を挺して祖国を護った王女が幾人おる」
「分かっております」
「ではお主に決めて貰おう。お主の娘、エステルを王族として嫁がせるか、平民にするか、どっちに致す」
「それは…」
「決めれぬか?」
「貴族の娘に他国の王族へ嫁がせるだけの教育はしておりません」
「なら平民か」
「平民にする程でしょうか。以前は子供だったのです」
「教育し直しても考えが変わらぬ者だぞ? 何度教育し直しても同じだ。 本日の愚行はどう説明する。もう子供ではないぞ?」
「エステルは心が未熟なのです」
「未熟と分かっていたなら何故、常に側に居て諭し教えなかった! 本日の愚行も止められたはずだ。お主達はエステルを一人の成人した大人として扱っていた、違うか!」
「それは…」
「この国が出来て三百年余り。初代の王が何を望み、誰に感謝し、この国を民を護ったか、お主は王女教育で習ったはずだ、違うか」
「そうです」
「約三百年前、この国は隣国が治める地であった。我々一族は辺境伯として他国からこの地を護ってきた。だが、その時の王は人を人として見ない愚王だった。貴族であろうと意見を言えば処刑され、王のみが人であり、他は奴隷の様に扱い、見下し足蹴にした。平民は痩せ細り、死んだ者は家畜の餌にされた。見目が良い女性は王の快楽の道具になり、子が出来れば殺した。幼い少女であっても無理矢理身体をこじ開け快楽の道具にした。
土地は荒れ、民は死んでいく。巻き上げる税で自分だけ贅沢な暮らしをし、快楽に溺れ、自分の事しか考えない自分勝手な王だった。
我々一族は辺境伯としてこれ以上見て見ぬ振りをする事が出来なくなり、辺境伯を支持する貴族と共に王へ謀反を興した反逆者だ。 愚王から王政を奪い、国を奪った。その時愚王の一族も皆処刑し、新たな王として我々一族と同じ志を持った辺境伯が王になり、国を二分して隣国を新たな王が、この国を我々一族が王になり、国と民を護り導く事になった。
初代の王の志は、この国に住まう民皆の幸せを願い、民皆が痩せ細り死ぬ事が無いように望み、人としての尊厳を護り、他国から己の剣で民皆を護る、だった。
荒れた土地を一から作り直し、地盤を平民に任せ、平民を護る様にと貴族に託した。
貴族の子の成人を遅くしたのも子が独り立ちしても路頭に迷う事が無いように庇護下で護り、教育する為だ。子の将来を王が案じたからだ。
我々王族は初代の王の志を受け継ぎ、この国を支え護ってくれている民皆に感謝をし、敬意を払い、そして王として導いて行く。
そう習わなかったか?」
「習いました」
「お主の娘はどうだ? 自分勝手な愚王と変わらぬではないか、違うか」
「確かに少し我儘な所があります。婚約者に対し非道な仕打ちをしました。それは認めます。ですが、エステルも子供だったのです。子供が受けた傷を護るのが親です」
「それが一方的な暴言と有無を言わさない決断か?」
「それは…」
「お主が親と言うのなら、子の間違いを諭し導くのも親だ。 お主は元王女で公爵夫人だ。貴族の女性や子供の手本となり導き手助け出来ると思っていたし、信じていた。お主も厳しい王女教育を受けてきた。私が国を民を、お主が貴族を、二人で護り支えあえると私は信じていた」
「お兄様…」
「妹よ、慈悲は一度だけだ」
「お兄様、お願いします。どうか、どうか…」
「教育し直せと申したはずだ。私の申し出を聞かず者の言葉は信用出来ぬ」
「お兄様、御慈悲を、どうか御慈悲を…」
「慈悲な、ではこの国の為に、お主の娘にはサウザード国へ嫁いで貰おう」
「お兄様、それはなりません」
「何故だ」
「娘は婚姻しております」
「離縁すれば良い。お主の娘の愚行に耐えられず心を病んだ夫か? 私が生活出来るまで面倒を見る」
「ですが、何故、サウザード国など野蛮な国なのです」
「野蛮な国だからだ。武力で成り上がった王だ、他国にも武力で戦を度々仕掛けておる。その度、その国の王女を娶っておる」
「エステルは王女ではありません」
「エステル本人が王族だと、高貴な血筋だと申しておるではないか」
「ですが王族ではありません」
「王族ではないと、貴族なのだと、諭し教えてこなかったお主の責任だ。 私には王子しかおらぬ。だからこの国に戦を仕掛けてこないだけだ。 いつこの国が欲しいと戦を仕掛けてくるかも知れん。その前にエステルを王族として嫁がせこの国を護りたい」
「それはなりません」
「第八側妃にはなるが、この国を護り国と国を繋げる架け橋になれるのだ」
「娘を犠牲には出来ません」
「犠牲とな」
「はい。王女教育で初めに習うのは王女として他国へ嫁ぎ、国と国を繋ぐ架け橋になる事。そして嫁いだ国と我が国が戦になればこの身を挺して我が国を護れと教えられます」
「そうだ。お主は父上が他国へ嫁がせるのを反対し早々に公爵家と婚約をさせた。伯母上は王女として他国へ嫁ぎ、非道な扱いを受けただけでなく、我が国を護る為に己の命を差し出した。だから父上は娘のお主をこの国で護りたかった」
「はい、分かっております」
「お主は父上の愛情に包まれ護られ、王女としては運が良かった」
「はい」
「この国だけでなく、他国でも王女とは国の犠牲だ。嫁いだ先で幸せに暮らせた者もいる。だが伯母上の様に非道な扱いを受ける者もいる。己の命を、身を挺して祖国を護った王女が幾人おる」
「分かっております」
「ではお主に決めて貰おう。お主の娘、エステルを王族として嫁がせるか、平民にするか、どっちに致す」
「それは…」
「決めれぬか?」
「貴族の娘に他国の王族へ嫁がせるだけの教育はしておりません」
「なら平民か」
「平民にする程でしょうか。以前は子供だったのです」
「教育し直しても考えが変わらぬ者だぞ? 何度教育し直しても同じだ。 本日の愚行はどう説明する。もう子供ではないぞ?」
「エステルは心が未熟なのです」
「未熟と分かっていたなら何故、常に側に居て諭し教えなかった! 本日の愚行も止められたはずだ。お主達はエステルを一人の成人した大人として扱っていた、違うか!」
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