妹がいなくなった

アズやっこ

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「ヘレン様は婚約者の方、貴女のお祖父様ね、二人とても仲が良くて令嬢達の憧れの存在だったの。寄り添い支え合う。愛情溢れ、お互いをとても大事に大切になさってるのが周りから見ても分かるくらいお互いを愛してらした。それにお二人共、情の深い優しい方々なの」

「はい」

「私も旦那様になる人とヘレン様と婚約者の方みたいな関係になりたいと思い描いていたわ。 でも実際は亡くなられた奥様をずっと愛してた方だった。でもね、それも一つの愛の形だと思ったの。 一途に人を思うって凄い事よ? 私と婚姻はしたけど、婚姻式もしなかった。 それだけ奥様との思い出を別の誰かで汚したくなかった。 自室から出る事は無く、自室に飾られてる奥様の肖像画と遺品の中で彼は奥様と生きていた」

「はい……」

「私も別に彼を愛してた訳でもないしね、同居人ぐらいに思ってたわ。食べる物も着る物も何不自由なく暮らさせて貰えたわ。欲しい物は買えたしね」

「はい」

「赤子のローラを初めはヘレン様の子の代わりと思って育てたら手がかかる事なんて気にならなかった。けどね、ローラが1歳、2歳と年を重ねるとね、だんだん私の本当の子に思えたの。 メイドに抱っこされ「かーたま」と泣きながら手を伸ばす姿を、そして私が抱き上げると泣き止む姿を愛しいと思う様になった。

いつしか、ヘレン様の子の代わりでは無くて、育てるだけのメイドや侍女としてでは無くて私の子としてローラを愛したわ。あの子の笑顔、泣き顔、怒った顔、すねた顔、寝顔、全てが愛おしく、可愛く思い私の愛情を注いだわ。 どれだけ見ていても全く飽きないの。毎日変わる表情、日々成長する姿、出来なくて泣きながら眠りについた日、出来る様になって喜びはしゃいだ日、私も一緒に喜んだわ。沢山褒めて抱き締めたわ。 木に登り降りれなくなって落ちた時は怒ったわ。心の臓が止まるかと思ったくらい焦ったし心配した。

ローラは幼い頃身体が弱くてよく熱を出したの。ぐったりと眠るローラを神が連れて行かないか心配で眠る事なんて出来なかった。私が代われるなら私が代わるからローラを連れて行かないでって祈ったわ。 それに熱で苦しむローラを見て、私が代わりに苦しみたかった。代われるものなら代わりたいって。

でもね、お父様や亡くなられた本当のお母様の事でローラは心が傷付いた。私が本当の母親では無い事、父親が自分を見ず愛していない事。だから私はその度に言い聞かせた。

「亡くなられた本当のお母様はローラを愛していたの。だから可愛い貴女を置いて旅立つのはどれだけ苦しく悲しかったか。貴女を愛し育てたかったのに出来なくなってしまって一番辛いのは本当のお母様よ。お母様はローラをお空から毎日見守り愛してくれてるの。だからお空は毎日無くならないでしょ?お母様が毎日愛してるローラを眺める為なのよ」

って。

「お父様もローラを愛しているの。でもね、お父様はまだ愛したお母様を忘れられないの。ローラを見ないのでは無くて、見れないの。愛する奥様を護れなかったご自分を責めているの。愛しい娘から母親を護れなかったご自分を責めているの。お父様のせいでは無くて流行り病のせいなのに、ご自分を責め続けてるの。でもね、ローラが毎日食べるご飯も毎日着る服も大好きな絵本も全部お父様が愛するローラの為に用意してくれてるのよ? ローラをまだ見つめる事は出来なくてもローラの成長をローラの事を陰ながら見つめ愛しているの」

って。

「お母様はね、本当のお母様とお父様の代わりに可愛いローラを育てる事をさせて貰えて一番幸せよ?お空にいる本当のお母様は手を伸ばしてもローラには触れられないわ。お父様も陰ながら見守り愛していてもローラを触れる事も見つめる事もご自分で許せれないの。二人に代わり私がローラを触れ抱き締め一緒に過ごす時を頂けたの。 ローラ、血の繋がりより私達は強い絆で結ばれてるのよ。貴女を育てる事で私を母親にしてくれたの。ありがとうローラ。愛してるわ私の可愛い娘」

私は何度もローラに聞かせたわ。ローラも成長し本当のお母様、お父様、そして私の思いを分かってくれた」

「はい」

「ふふっ。ブラウニー侯爵家は薔薇を扱ってるのは知ってる?」

「はい」

「アーサー君とローラの婚約が決まり、初顔合わせの時ね、アーサー君は赤い薔薇を一輪ローラに渡したの。アーサー君は庭に咲いてる花をただ持って来ただけなのにローラったら邸に戻って来てから大喜びで飛び跳ねてたわ。見て見てって。ふふっ」

「一番大切な花だと言ってました」

「そう」


 チャーリーのお祖母様は薔薇を見ながら何処か遠い所を見ている様なとても優しい目で愛しそうに薔薇を見ていました。


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