妹がいなくなった

アズやっこ

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 ブラウニー侯爵家に滞在して数日過ぎた。 ローラ母様に刺繍を教えて貰い、一緒にお茶をしたり、キティ姉様が遊びに来て一緒にお茶をしたり、ローラ母様のドレスを私に調整し直したドレスが届いたり。毎日のんびりと過ごしている。

 チャーリーも午前中は商会に顔を出し、昼から一緒に過ごす事が多く、刺繍糸を買いに行ったり、王都にある庭園を見に行ったり、この前は観劇を見に行った。

 その中でも一番嬉しい出来事があった…。


 その日チャーリーが珍しく商会を休み、チャーリーと一緒にアーサー父様とローラ母様が待つ書斎へ行った。 宰相様から自分だけ宰相様と呼ばれるのは悲しいと言われ、それ以来アーサー父様と呼ぶ事に。

 書斎に入り、アーサー父様とローラ母様の向かいのソファーにチャーリーと一緒に腰を下ろす。


「エミリーヌも一緒に立ち会って貰いたい」

「はい。アーサー父様」

「チャーリーのブラウニー侯爵家への養子が決まった」

「父上、本当ですか?ありがとうございます。ですが良く貴族が認めましたね?」

「確かに反対もあった。だが、陛下の一声で反論は無かった。 これからは直接お前に言ってくる者もいるだろう。それでもお前は堂々として居なさい」

「はい。陛下にも感謝しますとお伝え下さい」

「ああ。それでお前の籍を養子として侯爵家へ入れる。養子になる以上、ミリー商会も今後侯爵家の所有となる」

「はい。その方が商会にも良いと思います。商会で働いている者達は平民ばかりですから。これで少しは活動しやすくなると思います。ありがとうございます」

「ミリー商会の侯爵家所有になる書類だ。エミリーヌは元経営者だ。チャーリーもエミリーヌも一度目を通して欲しい」

「「はい」」


 私達は数枚の書類を見た。


「あの、アーサー父様」

「何だ?」

「私はもうミリー商会の経営者では無いのでチャーリーが認めたなら私は異論はありませんが、この条件だとブラウニー侯爵家の所有になってもブラウニー侯爵家には何も利益がありませんが」

「所有と言っても侯爵家とは別と思って貰えれば良い」

「ですがそれだと所有にする意味が無い様に思いますが」

「所有にする意味はある。ミリー商会は隣国に本店が支店がこの国にある。今後別の国へ支店を出せるだけの規模も名声もある。 ミリー商会を自分の家に、自分の懐に入れたいと思う貴族は多いだろう。隣国の貴族にしてもこの国の貴族にしてもだ。 エミリーヌが経営者だった時も経営者は平民だった」

「はい。ジム、家の執事に名前と身分を借りたので。隣国での成人の歳、16歳の時に私に名義を変えましたが、侯爵家と関係ない個人の資産なので家名は明記していません」

「そしてチャーリーは代表に過ぎない。 隣国の貴族にして見れば経営者と接触する事が出来ない以上、交渉も出来ない」

「そうですね」

「エミリーヌがチャーリーへミリー商会を譲渡した事でチャーリーが経営者となった。隣国の貴族にしてみれば今迄は代表だと思っていた者が経営者になれば交渉はやりやすい」

「確かに」

「チャーリーが私の勘当した息子だと言う事はもう既に隣国でも知れ渡っている」

「はい」

「隣国の貴族にしてみれば元侯爵令息で時期宰相になれた者なら今は平民でも身元ははっきりしている。例え国を出された理由が不貞であっても自国で不貞した訳ではない。 無名の商店を数年で規模を拡大し名声を残した実績だ。喉から手が出る程欲しいだろう」

「はい」

「この国の貴族も同じだ。 チャーリーが元ブラウニー侯爵令息と知っている。陛下がこの国への立ち入りを認めた以上、経営者になったチャーリーへ声をかけ交渉してくる者はいるだろう。貴族の男は愛人を持つ者もいる。不貞で婚約破棄はしたが、不貞ぐらい気にしない者が多い」

「そうですね」

「この国でも隣国でもミリー商会が懐に入るなら他家からの反論も気にしない。チャーリーから経営権を奪い、チャーリーをまた代表にすれば今後も拡大し続け名声が残せる」

「飼い殺しと言う事ですか?」

「そうだ。今は平民だ。平民が貴族に刃向かえるか?」

「無理です」

「無理矢理経営権を奪い取り、チャーリーを代表にして飼い殺しすれば良い。ミリー商会を自分の懐に入れれば、今後も規模を拡大し続け、名声も広まる。チャーリーがそれだけの手腕をして来た結果だが、チャーリーが経営者になった事で仇にもなる」

「はい」

「今回、陛下が国としてミリー商会を懐に入れる事は出来ない。隣国との関係もあるからだ」

「はい」

「他家に先を越されれば力を持ち過ぎる」

「はい」

「陛下にとっても、貴族の秩序を護る為にも、宰相である私が所有する事が一番望ましい。そしてチャーリーは私の息子だ。この国の貴族は、勘当したがチャーリーが私の息子と知っている」

「はい」

「チャーリーが貴族から圧力や脅しをかけられるだろうが、この国を、この国の貴族を恨んでいるチャーリーの説得は難しいだろう」

「チャーリーはこの国を恨んでるの?」

「いや、だけどもう帰る事は無いと思いこの国を出て行ったからね。それに、俺が婚約破棄され国外追放になった時、エミリーヌ以外誰も俺に手を差し伸べてくれた者はいないのは事実だ。 もしかしたら恨んでても可笑しくないだろ?」

「確かに」


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