妹がいなくなった

アズやっこ

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 私はチャーリーの手を引き、お店を出て来た。

 チャーリーの後ろにどこに居たのか突然人が立っていて、チャーリーはその者に「つけろ」と言い、その者は姿を消した。


「チャーリー、誰なの?」

「俺が雇ってる情報屋。信頼出来る者でね。隣国からの付き合いなんだ」

「そうなの…」

「国が変われば貴族の情報なんて手に入らないしね。情報がなければ交渉も懐に入り込む事も出来ない」

「そうね…」

「今は俺に付いてこの国へ来たんだよ」

「ふ~ん。それよりもよ。何あれ」

「エリー、ここはまずい。場所を変えよう」

「そうね」

「刺繍糸を見に行く?と言いたい所だけど、今はそれどころじゃないって顔だね?」

「それどころじゃないでしょ?」

「やっぱり?なら人気の無い所だけど其処へ行こう」

「そうね」


 馬車に乗り、小高い丘に来た。確かに人気は無い。だって何もないんだもの。綺麗な景色も無い。見渡す限り木しか無い、殺風景な丘。


「こんな場所があったんだ」

「ああ。俺が一人になりたい時に良く来てた場所なんだ。考えたい時や物思いにふけりたい時とかね」

「そうなのね」

「それで?」

「そうよ!あの女って馬鹿なの? 間仕切りで顔は見えなくても話す内容は近くの人達には丸聞こえよ?それなのに…」

「顔が見えないと話も聞こえないって思ってる人だからね」

「それって馬鹿って言ってるものよ?」

「そう?」

「それよりも! 神に祈るだけで子を贈られるって子供騙しよ? 大人に通用すると本気で思ってるの? それに自分だって不貞してるじゃない」

「まあ、あっちは愛人だからね、その辺はさあ…」

「だけど旦那様と一度も身体を繋げてないのに、愛人?」

「一応は婚姻して届けも出して受理されてるから」

「そうだけど…。旦那様のご病気って心の病でしょ?老い先短いみたいな事言ってたじゃない」

「それだって、心の病の人が自分で自分を傷付ける事はある。死ぬ事だってあるだろう」

「それに、誰か知らないけど高貴な殿方?何か怪しくない?」

「確かに怪しいよね?自分の子が出来るのを待ってるみたいだ」

「でしょ?それに破瓜の付いたシーツなんて持ち帰る?」

「俺なら部屋に飾りたい。だけどエリーの目に入らない所に飾って一人で眺めたいけどな~」

「え?何で?」

「だって破瓜って女性にとって一回しかない印だろ?その一回が自分で、それに俺に身体を委ねてくれた証じゃないか。俺に取っては宝物以上だね。家宝でも良いくらいだ」

「馬鹿なの?」

「俺だけのロマンだよ」

「止めてね?」

「エリーが見ない所なら良いだろ?」

「大事に取ってあるのなんて嫌よ」

「エリーが嫌がる事はしたくない」

「良かった」

「けど、これは俺も譲れない」

「え~?」

「譲れない」

「もう! なら元恋人のも取ってあるの?」

「彼女は初めてじゃ無かったから」

「そうなの?」

「平民は割とその辺りは貴族よりも寛大かもね? 余り気にしない。 気が合ったから、優しくされたから、寂しいから、理由は様々だけど、一夜限りの相手でも平気なんだ」

「そうなの?」

「俺の事だって愛していたからって訳じゃないと思う。貴族の愛人になる為に愛してるフリをして身体を繋げただけ。婚約者より自分を愛してくれてたら愛人になれるしね。愛人になれば働かなくても楽な生活が出来るから」

「チャーリー、そんな事言わないで。チャーリーを利用してるみたいな言い方。 元恋人の気持ちは分からないけど、チャーリーはとても素敵な人よ?」

「ありがとう。恋人を愛して身体を繋げてた事実は変わらない。俺が彼女を愛した事も。彼女の気持ちがどうであれね。それに今は関係ない人だ。 俺が愛してるのはエリーだけだから」

「うん。それに私は元恋人を愛してた気持ちまで否定されたくない。だってその思いもチャーリーの一部よ?今愛してないなら気にならない」

「俺はエミリーヌだけだ。愛してるのはエミリーヌだけ」

「分かってるし知ってる。私もチャーリーを愛してる」


 私達は抱き合いお互いの唇を重ね口付けした。





 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 


 とある日の会話

「さあ、エミリーヌ寝ようか」

「うん」

「こっちおいで?」

「うん」

「抱き締めて良い?」

「うん。また夜中唸されてたら起こしてね?」

「ああ。エミリーヌも夜中目を覚ましたら俺を起こすんだよ?」

「分かった」

「エミリーヌ、愛してる」

「私も愛してる」


 朝早く目が覚め、


「チャーリー、チャーリー」

「ん?エミ………………」


 私は眠るチャーリーの胸の中に潜り込み抱きついた。チャーリーの心の臓の音、寝息の音を聞いて少し安心した。


「チャーリー、好きよ。いつもありがとう。チャーリーの温もりがとても安らぎをくれる。チャーリー、チャー、チャリ、リー、やっぱりチャーリーが一番しっくりくるわね」

「エミリーヌ、何を言ってるの?」

「起きてたの?」

「エミリーヌがゴソゴソと俺の中に入って来た時にね。それで何を言ってたの?」

「憧れてたの」

「何を?」

「学園に通ってた時にね、婚約者同士って愛称で呼び合うでしょ?」

「そうだね」

「だから私も呼びたいなと思ったんだけど、チャーリーってチャーリーが一番しっくりくるなと思って」

「俺は友達からもチャーリーだったからね」

「そうなんだ」

「俺もエミリーヌを愛称で呼んで良い?」

「うん」

「エミーはグレンさんだし、エミリーはエディーナ譲だし、ミリーは商会を思い出す… リーヌ、う~ん、エリーは?誰か呼んでる?」

「エリーは誰にも呼ばれた事がない」

「ならエリーって呼んで良い?」

「うん。なんかより一層近付いた気がする」

「エリー、好きだ。いつも俺の側に居てくれてありがとう。これからも側に居てね?」

「うん。チャーリーも側に居てね?」


 私達はお互いの唇を重ね、口付けした。


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