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暫くして馬車はブラウニー侯爵家に着いた。 私は馬車から降り、玄関で待っていたローラ母様に抱き締められた。
「お帰り、エミリーヌちゃん」
「はい……」
「顔を母様に見せて?」
ローラ母様が少し離れ、
「まあまあ、私の可愛い娘の目がこんなに赤くなって……。それに……」
ローラ母様は私の頬を優しく包み、
「痛かったでしょ?」
「はい……」
「頬も心も痛かったでしょ?」
「はい……」
「辛かったでしょ?」
「はい……」
「良く今迄頑張ったわ」
「はい……」
「私の娘は頑張り屋さんね?」
「そう…でしょうか……」
「そうよ。今迄まで一人で全部を背負って来た」
「はい……」
「周りに手助けを求める事もせずに一人で耐えてきた」
「はい……」
「これからはチャーリーがエミリーヌちゃんを助けるわ」
「はい……」
「私も助けるわ」
「はい……」
「もう一人で頑張らなくて良いの」
「はい……」
「これからは頼りなさい」
「はい……」
「本当に私の娘は世界一よ?」
「え?」
「世界一可愛い」
「え?」
「世界一可愛くて頑張り屋さん」
「は、はい」
「エミリーヌ、愛してるわ。私の可愛い娘、愛してるわ」
ローラ母様は私の額に口付けした。
「さあ中に入ってまずは頬を冷やしましょう」
「はい」
「チャーリーは仕事に行きなさい?」
「今日は休みを貰いました」
「何を言ってるの?貴方経営者でしょ?それもなりたての。まずは毎日顔を出すの。従業員の顔を毎日見て会話をして信頼を築くの。分かってる?」
「母上に言われなくても分かってます。それにやってます」
「なら毎日顔を出さないと。ほら、行きなさい」
「エミリーヌが心配なので嫌です」
「エミリーヌちゃんには私が側に居るから大丈夫。ほらさっさと行きなさい」
チャーリーは追い出される様に渋々出て行った。
ローラ母様に手を引かれ、ローラ母様の私室へ入り、
「エミリーヌちゃん、少し横になりなさい。頬を冷やすわよ?」
「ですが……」
「ほらほら…」
私はローラ母様の私室にあるベッドへ寝かされ、
「少し冷たいわよ?」
「はい」
ベッドの縁に腰掛けたローラ母様はメイドから受け取った冷やしたタオルを頬にあててくれた。
「こんなに腫れて…痛かったわね」
「はい」
「よく我慢したわ」
「はい」
「目を瞑って?」
「え?」
「目を温めましょ」
メイドから温かいタオルを受け取り目の上に被せた。
「熱くない?大丈夫?」
「はい」
「少し目を瞑りなさい」
「はい」
「今から少し私の話をするわね」
「はい」
「私の母はね、後妻なの。本当の母は私を産んで亡くなったそうなの。出産後流行り病にかかってね。赤子の私を一人で育てれない父が赤子の私を育てさせる為だけに母と婚姻したの。父は亡くなった母を愛していた。父は亡くなるまで結局亡くなった母だけを愛した。娘の私を愛していたのかさえも分からないわ。家に居ても自分の部屋から出て来なかったしね。 一度父の部屋を覗いた時、亡くなった母の肖像画が何枚も飾ってあったわ。亡くなった母の遺品も全部父が自分の部屋で保管してた。ドレスや宝石とかね。
私を赤子から育ててくれた母はね、没落寸前の男爵家の娘だった。資金援助の代わりに娘を伯爵の父に嫁がせたの。結局母は生涯自分の子を産めなかったわ。
それでも母は赤子の私を愛し育ててくれた。不憫に思ったのか同情したのか分からないけど、それでも私を愛してくれた。私は幼い頃身体が弱くてね、良く熱を出す子供だったの。熱を出せば付きっきりで面倒を見てくれたわ。汗を拭いて着替えさせて、絵本を読んで私が寝ても側で見守ってくれていた。私がいつ目を覚ましても母はこうやってベッドに腰掛けて優しい顔で私の頭を撫でていた」
ローラ母様の優しい手が私の頭を撫でる。
「赤子を育てるならメイドで良かったの。それを父は母の人生を奪った、私を育てさせる為に。
母には甘やかされる事もあったけど叱られる事もあったわ。何か出来た時は沢山褒めてくれたの。 とても優しい心を持った女性で私の憧れよ。
父は女性として母を愛せなかったけど、子として私を愛せなかったけど、それでも、母や私を虐げ蔑ろにはしなかった。充分な食事に洋服、欲しい物も買ってくれたわ。 ただ父の中に亡くなった母しか居ないって言うだけ。邸に一緒に暮らしていても会わないだけ。
父親の愛情を欲しがらなかったのはその分母が二人分、違うわね、亡くなった母の分も私を愛してくれたから。亡くなった母を父を嫌わなかったのは母が二人を悪く言う事なく二人の愛情を私に諭し教えたから。 今思えば父は心を病んでいたのね、きっと。
自分の子供では無くても愛せるし、自分の子供でも愛せない。 エミリーヌ、貴女のご両親は貴女を愛せなかった。でもね、愛情は誰から貰っても良いの。血の繋がらない母から私が貰った様に、旦那様が注いでくれた様に。 血の繋がりや形を気にしなくて良いの。 私はこれから貴女をとことん甘やかして愛すわ」
ローラ母様は横になる私の横に寝転がり、トントンと布団の上から優しく叩いた。
「お帰り、エミリーヌちゃん」
「はい……」
「顔を母様に見せて?」
ローラ母様が少し離れ、
「まあまあ、私の可愛い娘の目がこんなに赤くなって……。それに……」
ローラ母様は私の頬を優しく包み、
「痛かったでしょ?」
「はい……」
「頬も心も痛かったでしょ?」
「はい……」
「辛かったでしょ?」
「はい……」
「良く今迄頑張ったわ」
「はい……」
「私の娘は頑張り屋さんね?」
「そう…でしょうか……」
「そうよ。今迄まで一人で全部を背負って来た」
「はい……」
「周りに手助けを求める事もせずに一人で耐えてきた」
「はい……」
「これからはチャーリーがエミリーヌちゃんを助けるわ」
「はい……」
「私も助けるわ」
「はい……」
「もう一人で頑張らなくて良いの」
「はい……」
「これからは頼りなさい」
「はい……」
「本当に私の娘は世界一よ?」
「え?」
「世界一可愛い」
「え?」
「世界一可愛くて頑張り屋さん」
「は、はい」
「エミリーヌ、愛してるわ。私の可愛い娘、愛してるわ」
ローラ母様は私の額に口付けした。
「さあ中に入ってまずは頬を冷やしましょう」
「はい」
「チャーリーは仕事に行きなさい?」
「今日は休みを貰いました」
「何を言ってるの?貴方経営者でしょ?それもなりたての。まずは毎日顔を出すの。従業員の顔を毎日見て会話をして信頼を築くの。分かってる?」
「母上に言われなくても分かってます。それにやってます」
「なら毎日顔を出さないと。ほら、行きなさい」
「エミリーヌが心配なので嫌です」
「エミリーヌちゃんには私が側に居るから大丈夫。ほらさっさと行きなさい」
チャーリーは追い出される様に渋々出て行った。
ローラ母様に手を引かれ、ローラ母様の私室へ入り、
「エミリーヌちゃん、少し横になりなさい。頬を冷やすわよ?」
「ですが……」
「ほらほら…」
私はローラ母様の私室にあるベッドへ寝かされ、
「少し冷たいわよ?」
「はい」
ベッドの縁に腰掛けたローラ母様はメイドから受け取った冷やしたタオルを頬にあててくれた。
「こんなに腫れて…痛かったわね」
「はい」
「よく我慢したわ」
「はい」
「目を瞑って?」
「え?」
「目を温めましょ」
メイドから温かいタオルを受け取り目の上に被せた。
「熱くない?大丈夫?」
「はい」
「少し目を瞑りなさい」
「はい」
「今から少し私の話をするわね」
「はい」
「私の母はね、後妻なの。本当の母は私を産んで亡くなったそうなの。出産後流行り病にかかってね。赤子の私を一人で育てれない父が赤子の私を育てさせる為だけに母と婚姻したの。父は亡くなった母を愛していた。父は亡くなるまで結局亡くなった母だけを愛した。娘の私を愛していたのかさえも分からないわ。家に居ても自分の部屋から出て来なかったしね。 一度父の部屋を覗いた時、亡くなった母の肖像画が何枚も飾ってあったわ。亡くなった母の遺品も全部父が自分の部屋で保管してた。ドレスや宝石とかね。
私を赤子から育ててくれた母はね、没落寸前の男爵家の娘だった。資金援助の代わりに娘を伯爵の父に嫁がせたの。結局母は生涯自分の子を産めなかったわ。
それでも母は赤子の私を愛し育ててくれた。不憫に思ったのか同情したのか分からないけど、それでも私を愛してくれた。私は幼い頃身体が弱くてね、良く熱を出す子供だったの。熱を出せば付きっきりで面倒を見てくれたわ。汗を拭いて着替えさせて、絵本を読んで私が寝ても側で見守ってくれていた。私がいつ目を覚ましても母はこうやってベッドに腰掛けて優しい顔で私の頭を撫でていた」
ローラ母様の優しい手が私の頭を撫でる。
「赤子を育てるならメイドで良かったの。それを父は母の人生を奪った、私を育てさせる為に。
母には甘やかされる事もあったけど叱られる事もあったわ。何か出来た時は沢山褒めてくれたの。 とても優しい心を持った女性で私の憧れよ。
父は女性として母を愛せなかったけど、子として私を愛せなかったけど、それでも、母や私を虐げ蔑ろにはしなかった。充分な食事に洋服、欲しい物も買ってくれたわ。 ただ父の中に亡くなった母しか居ないって言うだけ。邸に一緒に暮らしていても会わないだけ。
父親の愛情を欲しがらなかったのはその分母が二人分、違うわね、亡くなった母の分も私を愛してくれたから。亡くなった母を父を嫌わなかったのは母が二人を悪く言う事なく二人の愛情を私に諭し教えたから。 今思えば父は心を病んでいたのね、きっと。
自分の子供では無くても愛せるし、自分の子供でも愛せない。 エミリーヌ、貴女のご両親は貴女を愛せなかった。でもね、愛情は誰から貰っても良いの。血の繋がらない母から私が貰った様に、旦那様が注いでくれた様に。 血の繋がりや形を気にしなくて良いの。 私はこれから貴女をとことん甘やかして愛すわ」
ローラ母様は横になる私の横に寝転がり、トントンと布団の上から優しく叩いた。
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