妹がいなくなった

アズやっこ

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 書斎の部屋の外、グレンに抱き締められ、部屋の中の会話を聞く。

 お祖父様の怒鳴り声、お父様の怒鳴り声、お母様の悲鳴に近い声。

 震える私をグレンがギュッと抱き締める。

 グレンの温もりが私の心を少し軽くする。


「お前は自分の娘に何をした」

 お祖父様の怒鳴り声…。

「エミリーヌは娘ではありません!」

 お父様の怒鳴り声…。

(私はお父様の娘ではないの?)

「エミリーはお前の娘だ。自分の子供の頬を叩いたのか!」

(うっ)

「仕方ないではありませんか。あいつの顔を見ているとムシャクシャして胸くそ悪いんですから」

(何で?私が何をしたの? お父様が私をそう思う程私は何をしたの?)

「何だと!お前と言う奴は!」

「それに俺の子供は娘はサラフィスだけです」

(お父様にとってやっぱり大事なのはサラだけなのね。私の事は子供とも娘とも思ってないのね)

「何を言うか。エミリーもお前の娘だ」

(お祖父様、もう良いの。もう…良いの……)

「では父上、俺の娘だと何故思うんです?婚姻してから出来た子供はサラフィスだけです。あの子は俺の子供か分からないじゃないですか」

(え?私、お父様の子供じゃないの?なら私は誰の子なの?)

「エミリーヌもあなたの子です。あなたが大丈夫と言ったから」

(お母様? やっぱり私はお父様の子供だったの?)

「俺と身体を繋げた後に他の男と繋げていたかもしれないだろうが」

(え?)

「私はそんなふしだらではありません。あなたが大丈夫と言うから、お願いと言うから。 私は婚姻するまで嫌と言いました。あなたが無理矢理繋げたんではないですか。エミリーヌはあなたの子です」

(お父様が無理矢理身体を繋げて出来た子だからお母様は私が嫌いなの?)

「それでも俺には分からないではないか」

「あなたと同じ髪の色で瞳の色なのですよ。あなたの子です」

(確かに私、お父様と同じピンクがかったブロンドの髪にブルーの瞳…)

「俺の子供だとしても、それでも婚姻前に出来た忌み子だ」

(忌み子?確か忌み子って、望んでない子って事? 婚姻する前に宿った子だから穢れてるって事?だからお父様は私を子供と思えなかったの?そうなの?)

「なら何故婚姻前に身体を繋げようとしたんです。繋げれば子が出来るくらい知っていたでしょ」

(そうよ。婚姻する前に宿した子を不浄って思うのなら身体を繋げなければ良かったのよ。何故身体を繋げたのよ)

「それは……」

(子が出来ると知っていたけど、自分は関係ないとでも思ったの? 婚約中にお父様がお母様と身体を繋げなければ、繋げなければ私は出来なかったのよ…)

「此奴がエミリーを娘と認めなかったのは分かった。お前は何故エミリーをサラと同じ様に可愛がらなかった」

「それは……エミリーヌを産んでようやく体調が戻った時にまた子が出来て。悪阻も酷くて自分でエミリーヌを見れませんでした。子がお腹の中にいるので抱く事もお乳をあげる事も出来ず、サラが産まれたら赤子のサラを育てました。 サラには自分でお乳をあげ、おしめを変え、抱きあやし、旦那様もサラを可愛い可愛いと」

(私はお母様に育てられなかったの? 子を宿したから? サラはお乳をあげて抱いたのに? 私は産み落としただけ?)

「お前は俺のせいだと言うのか!」

「違います。私もサラが可愛いかった。ようやく赤子を自分の手で育てれて嬉しかったのです。自分のお乳をあげ育て上げたサラをサラだけが自分の子に思えて愛情をかけました」

(結局同じ母から産まれても産み落としただけの子と自分でお乳をあげ抱きあやした子とは違うのね。お母様に取ってもサラだけが自分の子なのね)

「サラが産まれた時、エミリーもまだ赤子だった。自分が産んだ子だろ。 お乳をあげたから、おしめを変えたからでエミリーを愛せなかったならエミリーが少し大きくなってから子を作れば良かった。エミリーが腹に出来た時に分かっていたはずだ。子が出来る行為をすれば子が出来ると。何故お前等は学習せん」

(お祖父様もう良いわ。どうして愛されなかったのか、どうして可愛いがられなかったのか分かったから。お祖父様、もう良いの……)

「ですがエミリーヌはお義母様が面倒みていました。だから私はサラを育てたのです」

「ヘレンはお前がまた懐妊して体調が悪いからお前の代わりに赤子のエミリーの面倒を見た。赤子は一人では育たない。誰かが手を掛け面倒見なくてはいけないからだ。可愛い孫だ。それにエミリーは侯爵家の大事な跡取りだ。お前の代わりに出産するまでの間エミリーを育てた。サラが産まれお前がエミリーも面倒を見ると思ったがお前はサラしか育てなかった。だからヘレンはお前の代わりにエミリーを育てた。お前はエミリーを捨てたんだ」

(お祖母様が私を育ててくれたの?赤子の私をお祖母様が? 泣いたら抱きあやし、おしめを変えたり? ありがとうお祖母様。ありがとう)

「お義父様それは違います。私はエミリーヌを捨ててなどいません。私だってエミリーヌを育てたかった。ですがサラの方がエミリーヌより手が掛かります。エミリーヌにはお義母様もメイドも居た。だから私は仕方なく」

「お前は自分が被害者か?ヘレンやメイドがお前からエミリーを奪ったのか? お前が育てようとしなかったからだ。お前がサラばかり可愛いがりエミリーを可愛いがらなかったからだ。 それを捨てたって言うんだ。 被害者はエミリーだ。お前ではない。 お前はエミリーが幼児になっても結局可愛いがらなかった。サラばかり可愛いがり、サラばかり物を買った。違うか」

「確かにサラばかり可愛いがりました。赤子の時から自分で育てた子です。可愛いに決まってます。ですが、エミリーヌは私に懐く事もなく、私が育てた子ではありません。愛情がどこに湧くと…」

(自分が育てた子だからサラには愛情が湧いて、自分が育てなかった子だから私には愛情が湧かなかった……。ふっ、そりゃそうよね。接した分だけ情が湧くのが人だわ。接してないんだもの。情なんて湧かない。他人と同じ。お腹を痛めて産んだ子なのに他人と同じ……残酷ね…………)


 グレンが突然私を抱きかかえ歩き出した。


「ぐ、グレン?」

「もうお前は聞くな。 お前には悪いがあんなクソみたいな親、居ない方がマシだ。 愛情は俺がこれからも注ぐ。俺はお前の兄貴だ。お前には元々親は居ない。俺と二人だけの家族だ。これまでも二人で寄り添って力を合わせてきただろ?」

「うん。グレンが居たから、側に居てくれたから頑張れた」

「エミー、お前の家族は俺だけでは不満か?」

「不満じゃない。グレンだけで良い。これからもグレンだけで良い」


 書斎から離れる時、お祖父様の怒鳴る大きな声が聞こえた。


「もう良い!黙れ! エミリーヌはお前等の子ではない。儂とヘレンの子だ。儂とヘレンの子はエミリーヌただ一人」


「グレン聞こえた?私はお祖父様とお祖母様の子なんだって。私もお祖父様とお祖母様の子が良い」

「なら俺とエミーには爺さんと婆さんが居る家族だ」

「うん。お祖父様とお祖母様、グレンと私。大事な家族…」

「だからエミーが傷付く必要はない。俺も爺さんも婆さんもエミーを愛してる」

「うん…。私も皆を愛してる」


 抱きかかえられてる状態でグレンは私の額に口付けた。


「エミー、俺の可愛い妹。愛してる」

「うん。私もグレンの事愛してる。これからも側に居てね。私のお兄様」

「当たり前だ。妹を護るのは兄貴の役目だ。それは誰にも譲る気はない」

「うん」


 私はグレンにギュッと抱きついた。

 いつも私を助け護ってくれる。心を軽くしてくれたり、気持ちを気付かせてくれたり、私を私の心を護ってくれる。


「ありがとう」


 私はグレンの耳元で伝えた。


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