妹がいなくなった

７９

「ですからお父様の代わりに国で認められた次期当主の私が当主の仕事をしていました」

「何を勝手な事をしたんだ」

「次期当主が当主の代わりに当主の仕事をする事は認められてる事です。次期当主の私が当主の印を押しても何も問題はありません」

「俺は代わりにやれとお前に言ったか？言ってない。それなのにお前は勝手にやった。勝手に当主の印を押せば犯罪だ。お前は罪人だ」

「次期当主である私が印を押しても犯罪ではありません。では当主が邸を留守にした時に急ぎの書簡が国から来たらどうします？当主が帰ってくるまで待ってほしいと国へ届けるんですか？そしたら家の信用は無くなります。　その為に次期当主を国へ届け出してるんです。当主が留守の間の当主の代わりになる為に。

お父様はサラが次期当主だと言いますが、当主として仕事をしないお父様の代わりにサラは何をしましたか？」

「サラフィスは学生だったんだ。無理に決まってるだろ。それくらいも分からんのか」

「では私がお父様の代わりに当主の仕事をしだしたのは何歳からだと思います？　１０歳です。まだ子供の頃から私はお父様の代わりに当主の仕事をしています」

「嘘を付くな！」

「本当です。私がお祖父様から当主の仕事を教えて貰い、ジムに手伝って貰いながら始めたのは１０歳です。その時の侯爵家はどの様な状態か知ってますか？　当主の仕事をしなければ決済が出来ません。小麦を他家やお店に卸しても請求しなければ支払いが滞る。それでも数年はお祖父様が蓄え残してくれたお金で賄えましたが、底をつけば没落します。

私がお祖父様から言われた時、侯爵家は没落寸前でした」

「そんな馬鹿な」

「お金を貯めなければ、使えば無くなるんです。勝手に貯まるお金は僅かです。こちらが請求をしなくても振り込んでくれる家分しか貯まりません。

サラが学生だからと言う理由で何もしなくても良いのなら、私は子供の頃から学生の間もずっと侯爵家の為だけに働いてきました。

それでも自分が当主だと？サラが次期当主だと？」

「当たり前だ。　それにお前が侯爵家の為に尽くすのは当たり前だ。ただで住まわし、ただで食わせてやったんだ。反対に有り難く思うのはお前の方だ。　侯爵家の為に尽くさせてありがとうございますってな」

「私は侯爵家の第一子です。侯爵家で住む事も食事をする事も庇護下で護られる子供の権利です」

「俺の子供はサラフィスだけだ」

「お父様が私を嫌っている事は知っています。ですが…」

「あ～お前なんか嫌いだ。顔も見たくない。お前を見てると胸くそ悪くなる。どうして俺がお前を育てないといけない。どうしてお前の面倒を見ないといけない」


　グレンが私の耳を塞いだ。

　私は耳を塞いだ手の上に自分の手を重ねた。

　下にあったグレンの手が退かされ私の手の上に重ねられた。

　私はグレンを見上げた。

　グレンが耳元で何か言っている。

　私は首を傾けた。

　重なる手の隙間からグレンの声が聞こえる。


「エミー部屋から出るぞ」


　私は無理矢理ジムに立たされた。


バタン！！


　勢いよく開く扉からお祖父様が入って来た。

　お祖父様は私に近寄る。

　グレンと重なった手を外され、


「エミリー、遅くなってすまない。後は儂に任せてエミリーは部屋を出なさい」

「お祖父様…」


　お祖父様は私の顔を見た。


「エミリー、頬はどうした。誰がやった」

「頬？」


　私はお祖父様が触れた頬を自分で触れた。

　熱を持ち熱く腫れているのが分かった。

　あの時お父様に頬を叩かれたと気付いた。


「エミリー、外に出てなさい」

「私も一緒に…」

「良く頑張った。後は儂に任せなさい」

「でも…」

「グレン、エミリーを直ぐに外に連れて行け」

「はい」


　グレンはソファーを周り私の手を掴んで引っ張っていく。


「ぐ、グレン？待って……」

「行くぞ」

「ねぇ待って……」


　グレンに引っ張られながら部屋の外に出たら扉が閉められた。閉められた扉から声が漏れる。

　グレンに抱き締められ、


「部屋から離れよう」

「大丈夫。ここでちゃんと聞きたい」

「駄目だ。俺が認めない」

「グレンお願い。グレンが側に居てくれるなら私は大丈夫」

「少しだけたぞ？　俺が駄目だと判断したら抱き上げてでも連れて行く。分かったな？」

「分かってる。グレン、このまま抱き締めてて良い？」

「良いぞ」


　私はグレンにギュッと抱き付いた。叩かれた頬がジンジンズキズキと痛み出した。身体が震え出し、


「震えてる。大丈夫か？」

「うん。グレンの体温でようやく息が吐けたから……」


　扉の向こうではお祖父様の怒鳴り声。お父様の怒鳴り声が聞こえる。