妹がいなくなった

アズやっこ

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「貴方達は知らないわね…」

「母上?」

「今この話はタブーなの。だけどいずれ貴方がキャメル侯爵家へ婿に入るなら覚えておきなさい」

「はい」

「エミリーヌちゃんには辛い話よ?聞きたくないならキティと席を外しなさい?聞いて楽しい話じゃないの」

「聞かない方が良いですか?」

「そうね。母様は聞いてほしくないって思うわ。 だけどもし聞く気があるなら辛くなった時は直ぐに言って。ね?」

「はい」


 チャーリーが私の手を繋いでくれた。


「二人共心構えをしっかり持って聞いてね?」

「「はい」」

「エミリーヌちゃんのお祖父様、前侯爵様はね、とても情の深い方なの。今でもそうだけど、昔、前侯爵様が若かりし頃は今以上に情に厚くて深い人だったらしいわ。私もまだ産まれてない頃の話だから、お母様に聞いた話なのだけど。

前侯爵様には弟さんがいらしたの。とても手のかかる弟さんだったらしいわ。学園の頃から遊びに出掛け、それこそ平民の恋人が何人いたか分からない程。飽きたら捨てを繰り返して何人もの女性と身体を繋げた。婚約者になりたい令嬢なんて居ないから余計に歯止めが効かなかったみたいね。

前侯爵様は成人して直ぐに当主になられた方でね、周りからは弟さんを平民にして縁を切れと何度も言われたらしいわ。 成人してない者でも陛下と貴族が認めれば特例だけど認められるから。

学園に通ってた頃から女性を自分の欲を発散する為だけの道具の様に自分勝手で扱ってたし、同級生の令息を唆して投資話をちらつかせて投資させてたらしいの。 勿論自分も投資して騙されてお金を奪われてたらしいけど、唆された令息も騙されお金を奪われた。それも数人が被害にあった。 だから陛下も貴族も特例を認め、直ぐに貴族から抹消したかった。

だけど前侯爵様は頑なに頷く事は無かったそうよ。どんなに手のかかる弟でも、皆に迷惑かけようとも血の繋がったたった一人の弟だからって。 前侯爵様は被害にあった令息の家にお金を返し頭を下げ続けた。弟さんに捨てられた平民の女性達にも慰謝料としてお金を渡した。

弟さんが成人して余計に手が掛かる様になったらしいわ。女性関係は勿論の事、投資には尽く失敗し負債を抱える。そして夜な夜な街へ出掛けて派手に遊びまくる。お酒を飲み、喧嘩騒ぎを繰り返したそうよ。 朝まで飲んで邸に戻ってくるなんて日常茶飯事。お金が無くなればお兄様の前侯爵様に貰う。そしてまた遊びに街へくり出す。

それでも前侯爵様は弟さんを見捨てなかった。手を差し伸べる者が居なくなれば弟は生きていけないってね。 お金は自分が稼げば良い、だから弟が生きていてくれれば良いってね。

前侯爵様は家族にだけ情が深い人では無かったの。資金繰りに厳しい貴族を助けたり、領地経営で悩んでる当主に手を貸したり案をだしたり、天候や戦で国が食糧難になれば自領の小麦を寄付したわ。それにね、エディーナちゃんのお父様、サフェム様が国のお金に手を出す前に、貴族に寄付のお願いをなされたの。だけどどこの家も多額に寄付は出来ないわ。各々生活があるもの。その時も前侯爵様は多額の寄付をサフェム様に渡したの。それでも足りなくて結果国のお金に手を出すしか無かったのだけど。

エミリーヌちゃん、ごめんなさいね。あの人がサフェム様の事も嬉しくて私に話してくれたの。だけど口止めされてたわ。それなのに、ごめんなさい」


 私は顔を左右に振った。


「前侯爵様はね、家族だけでなく貴族、ううん違うわね。この国をとても大事に大切に思い、この国に尽くしてきた人だと思うの。 前侯爵様程とても情に厚く深い人は居ないわ。 助けられた貴族が家がどれだけあると思う?貴族を助ける事で平民を助ける事に繋がるの。

手のかかる弟さんの事は勿論の事、弟さんが迷惑をかけ投資に失敗した令息の負債を負うことで、他家の貴族に自分の知恵を貸し手助ける事で、国の危機に資産を差し出す事で皆の信用と信頼を得たとても凄い方なの」

「ローラ母様、」

「どうしたの?」

「私、お祖父様の弟さんとお会いした事なくて。と言うか居た事も知りませんでした」

「そうね。ある事件がおきたの」

「ある事件?」

「そう。とても辛く悲しい事。それでも聞く?」

「はい」


 チャーリーの片方の手で私の肩を抱き寄せ、片方の手で私の手を握った。


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