妹がいなくなった

アズやっこ

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「私が何を言っても貴方は受け取らない」

「当たり前だ」

「ねぇ、チャーリー、ミリー商会の名声が他国にも広がってるのは知ってるわよね?

【慈善事業を主とし平民を護る】

孤児院の子供達に教育と雇用。平民に職の提供。

それ等は本来、国が率先してやらないといけない事よ。 それを貴方は進んで行ってる。

貴方はミリー商会の代表として国へ功績を上げたの。 皆が見て見ぬ振りする孤児院の子供達。職に就けない平民。 貴方は何十人何百人の命を救った。 飢えない子供達、勉強に、手に職を付けさせ、立場の弱い孤児院の子供達の未来を貴方が救ったの。 職の無い平民に職を与え治安を良くした。 貴方は充分国へ貢献したの。 税や寄付でも国を底から護ってる。

私はチャーリーが作り上げたミリー商会の経営者。経営者としてチャーリーへミリー商会の権利を譲渡し二国のミリー商会の新たな経営者として任命します」

「拒否する」

「拒否権はないの。決定事項だから」

「何でだよ」

「ジム!お願い」


 閉まった扉の前で待機していたジムが扉を開けて入って来て、チャーリーの前に書類を置いた。


「チャーリー、座って」


 チャーリーはしぶしぶソファーに座った。


「チャーリー、この書類はミリー商会の譲渡書類、そしてこの書類は譲渡する旨を書いた書類。私のサインはしてあるわ。後はチャーリーがサインするだけよ」


 ジムはチャーリーの目の前にペンを置いた。


「サインが出来るまで私の話を聞いて。 チャーリーは自分が助けて貰ったって言うけど、私の方が助けられてるの。 名だけの経営者なのに、何一つ協力も努力もしてないのに、商会から年に何度も新品のワンピースを贈ってくれるわ。 見習いのデザイナーやお針子達の練習の為っていつも手紙に書いてあるけど、チャーリーに商店を任せてから新品のワンピースを贈ってくれるわ。 日頃の成果や感謝の気持ちなのかも知れないけど、今迄お古しか着た事が無かったから、自分だけの服を着れた事が嬉しかったの。

それにチャーリーは年に一度私にドレスを贈ってくれるわ。 アンネがデザインしてリンが作って刺繍を刺してチャーリーがお金を出して、私の事を考えて作ってくれた私だけのドレス。

私ね、チャーリーが贈ってくれたドレスも商店から贈られるワンピースも人から贈られたの初めてなの。人から贈り物をされるってとても嬉しくて幸せなんだって初めて知ったわ」

「え?婚約者居ただろ?」

「居たわね。でも元婚約者から何一つ贈り物なんて貰った事ないもの」

「婚約者として最低限のマナーだろ?普通」

「最低限のマナーも出来ない人だったの。と言うより最低限のマナーも私にはしたく無かったのね。きっと。 だからとても嬉しかった。 皆の気持ちが。だから私も贈り物をしたかったのかもしれない。 アンネやリンには立場を、チャーリーには商会を贈りたかったのよ。私の代わりに頑張ってくれた3人に感謝の気持ちとして」

「感謝って、俺達の方が感謝だろ?」

「働く場所を提供したから?」

「そうだ」

「働く場所だけ提供しただけよ? 場所よりも働いてる人の方が感謝されるべきよ。 それなのに私は今迄貰うばかり。何も返せなかった」

「だからって譲渡じゃないだろ?」

「譲渡は元々考えてた事よ? 商会になった時にそうするべきだった。 だけど私が、私の我儘だったの。大事な人達を失うのが嫌だった。怖かった。だから手放せなかった。ごめんなさい」

「そんなの」

「でもね、今でも大事な人達を失うのは怖い。本店にも支店にも大事な人達はいるもの。でも私の我儘で、私だけ幸せになって、大事な人の幸せを見過ごすのも嫌なの」

「大事な人の幸せって誰の事だ」

「貴方よ、チャーリー」

「俺?」

「そう」

「俺は今の生活が楽しいし幸せだ」

「そうなの?」

「ああ」

「そう。でもね、貴方にはもっと幸せになって貰いたいの。恋もして欲しいし、家族とも会って欲しい」

「それで経営者か?」

「そうね。経営者ならこの国へ来る事が出来る」

「俺は平民だ。親には縁を切られた。会いたい家族も居ない」

「私みたいに家族に愛されない者だったら私も気にならなかったわ。でもチャーリーは違う。家族から愛されて育ってきたじゃない。縁を切られたから会えないの? 少なくとも宰相様は後悔してるわ。貴方を責めた事、貴方を見捨てた事。 貴方は婚約者に誠実だった。相手が悪かっただけよ。 もし貴方の相手が他の令嬢だったら、貴方は路を間違え無かった。 婚約者を大事にし愛したわ。だって貴方は真面目な方だもの」

「家族は、父上と母上が会いたいと思ってくれたとしても、俺から会いに行く事は出来ない」

「なら今日も会わないつもり?」

「エミリーヌ嬢に文句と、馬鹿な事はよせと言いに来ただけだ。手紙では埒があかないと思ってな。だから目立たない格好で来た」

「そう」


 私はジムとグレンに目配せした。ジムとグレンは部屋から出て行った。


 
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