妹がいなくなった

アズやっこ

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27 チャーリー視点

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「一線を越えた此奴が悪い。弁明も出来ん」

「そうね」

「あちらはお前の顔を見たくないと言ってる。それは平民にしろって事だけではない。この国から出て行けと言ってるんだ。分かるな」

「はい」

「公爵家に支払う慰謝料は支払ってやる。お前も成人してるんだ。自分の責任は自分で負うしかない。お前を勘当し平民にする。そしてお前を国外追放する。これは侯爵家当主として決定事項だ。良いな」

「はい。ありがとうございます。お世話になりました」


 俺は次の日住んでいた侯爵家を出て行った。母上が少しお金を持たせてくれた。母上を泣かせた事、父上の期待に添えなかった事、俺は自分の弱さに、自分のした事の重大さに後悔した。



 平民街へ行き彼女に一緒に隣国へ付いてきて欲しいと言ったら、貴族じゃない俺には価値はないと、貴族の愛人になって楽に暮らせると思っていたのに当てが外れたと、恋人に捨てられた。

 あんなに愛し合っていたのに、貴族でない俺には何の価値もないのだ。婚約者の我儘も我慢出来ず、愛した女性には捨てられ、ただの平民になった俺には生きる価値もない。酒に溺れ、母上から貰ったお金も無くなった。着ていた服もボロボロになり、髪の毛の伸び髭も伸びた。以前の俺を知ってる奴が見ても気付く事もない程俺は変わった。 やさぐれ、酒の匂いに包まれ、地べたで横になり眠る。

 お金が無くては隣国へ行く事も出来ない。ボロボロの服で浮浪者が隣国へ入る事も出来ない。 ただこのまま死ぬのを待つだけ。


「あの、少し良いですか?」

「………………」

「あの、少し」

「煩えな~何だよ。金でも恵んでくれるのか?」

「お金はあげれない」

「なら用はねぇ。あっちへ行けよ!」


 俺は相手を見る事なく答えた。


「グレン、食料とお酒を買って来て」


 俺は薄目を開けて見た。少女と青年がそこに居た。


(良いとこのお嬢さんか? 見たとこ服も良い物は着てない。後ろの青年の方が良い物着てるぞ? でも今指示出したよな? どっかの平民の娘か、商会の娘か、まぁどっちかだろうな)


 青年が戻って来て俺の近くに食料と酒を置いた。俺は直ぐに食べて飲んだ。


「恵んでくれてありがとな。わりぃけどもう行ってくれねぇか」


 少女と青年は帰って行った。

 次の日もその次の日も毎日食料と酒だけ少女と青年は置いて帰って行く。


(何なんだ?あの少女は。何も言わず食料と酒を置いて帰る。 他の浮浪者には目もくれず俺にだけ恵んでくれる。何でだ? まぁ知った事じゃないな)


 数日続き、今日も食料と酒を持って来た。


「いつもわりぃな。嬢ちゃんからの施しで何とか生き長らえてるよ」

「いえ。あの、食べてからでいいので少し話をさせて下さい」

「あん?何だよ!」

「少しだけ話をさせて下さい」

「話したらもう来ねぇか?なら話さねぇぞ。俺の食料と酒が無くなる」

「う~ん。 分かりました。話を聞いてくれても食料とお酒は毎日持って来ます。それなら話をさせてくれますか?」

「絶対だぞ!」

「はい」

「なら聞いてやる」

「ありがとうございます」

(笑ったら可愛いのにな。何で諦めてる様な冷めた様な顔なんてしてるんだ? 子供は笑ってれば良いんだよ。 表情を隠すなんて成人してからすれば良いんだ)


 俺は黙々と食べて飲んだ。


「で?何?」

「はい。違ったらごめんなさい。お兄さん、ブラウニー侯爵の嫡男のチャーリー様ですか?」

「は? 違う!」

「違いますか?」

「違う! そんな奴知らない! 何でそう思った!」

「一度遠くから見た事があって」

「あっちは貴族だろ?俺は平民だ!」

「そうですね。今は平民ですね」

「俺は元から平民だ。それだけなら帰ってくれ」

「分かりました。また明日来ます」

(誰だ?貴族か? 俺の居場所を知られたか? ここに居たら駄目だな)


 俺は移動した。もう会う事はないだろう。
 次の日、


「お兄さんどうして移動したの?」


 突然声を掛けられ驚いた。


「は?何で?何で分かった!」

「ごめんね。お兄さんを監視してたから」

「どうして監視する!」

「それはお兄さんを逃さない為」

「誰に頼まれた」

「誰?どういう事?」

「誰に頼まれたと聞いている」

「誰にも頼まれてないわね。私がお兄さんを探してたからだけだもの」

「どうして探す」

「聞いてくれるの?」

「は?」

「あっ!今日の食料とお酒ね」

「何が目的だ」

「目的ね~。目的はお兄さんが名前を教えてくれたら話す。あ!本当の名前よ?」

「本当の名前だと?」

「そう。本当の名前。産まれた時に名付けられた本当の名前」

「俺には名前などない」

「平民でも名前はあるわ。親が分からない子にだって名前を付けられるわよ。孤児院の方が付けるの。だから名前のない人なんて居ないのよ」

「悪いが帰ってくれ」

「分かった。また明日来るね」

「お願いだ。もう来ないでくれないか。俺に構うな」

「ごめんね。それは出来ない。また明日来るね」


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