妹がいなくなった

アズやっこ

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次の日、マルボール伯爵家に我が家から書類が届いた。


「おい!ジェフは何処に居る!直ぐに連れて来い!」


暫くして、ジェフは執務室へ来た。


「これはどういう事か説明しろ!」


と、書類を机の上に放り投げた。書類を確認し、


「兄上、エミリーヌとの婚約破棄の書類ですが」

「何故婚約破棄なんかした!」

「は?何故って当たり前ではありませんか!妹のサラが居なくなったのに探しにも行かず邸に居たのですよ?俺は兄上に止められて探せないと言うのに!」

「それだけでか?」

「そんな薄情な女なんです。実の妹が居なくなったのに仕事をして、騎士隊に指示を出して報告待ちだなんて言い、冷たい女、こっちから婚約破棄してやりましたよ!」

「お前は馬鹿か?」

「は? 妹が心配で探すのは当たり前です。それを護衛付けて探すより、その護衛が一人で探す方が速いからって。なら一人で探しに行けば良いのに、それさえもしない。あの可愛いサラですよ?エミリーヌなら誘拐すらされないと言うのに。あ~可愛いサラ。何も無ければ良いのですが。俺は心配で寝れませんでした」

「お前は馬鹿か!妹が誘拐か家出か分からない状況で邸の外へ出る事など馬鹿がする事だ! それにエミリーヌ嬢は次期当主だぞ!誘拐するなら妹のサラフィス嬢よりエミリーヌ嬢を誘拐するに決まってるだろ! それを一人で探しに行け?お前は馬鹿か! 

キャメル侯爵家は現当主がろくでなしでエミリーヌ嬢が代わりに当主代理をして仕事をしている。 そんな事誰に聞いても知ってる話だぞ! 当主代理として騎士隊に指示を出し報告を待つのは当たり前だ! それにエミリーヌ嬢は貴族の娘だぞ!護衛も付けずに探し回れる訳がない。 何処の貴族の娘でも、普段の外出でも護衛は必ず付けて行動するくらいお前だって知ってるだろ!」

「ですが、妹の心配くらいはするものでしょう?」

「じゃあ聞くが、エミリーヌ嬢がサラフィス嬢を心配してないと言ったのか?」

「いや、言葉では何とでも言えます。泣きもせず仕事をしてたんですよ?」

「それがどうした。当たり前だろ?当主代理として当主の仕事をしてるエミリーヌ嬢だ。心配でも目を通す書類は毎日山の様にある。おまけに今は国へ出す報告書の準備もあるだろう。やる事は沢山あるんだ。 俺がお前に探すなと言ったのは何故だと思う?」

「え?兄上が俺を心配してだからですよね?」

「心配?まぁそうだな。第二の被害に合わない様にだが、お前がサラフィス嬢を探すのに我が家の騎士隊に連絡して騎士を数人付ける様に指示して、もしお前も誘拐されたら、騎士隊総出で探す様に指示し、街の騎士団、王宮の騎士団に探す協力をお願いして。お前が軽率な行動をしたお陰で何十人と迷惑をかけるんだ。其れ位お前でも分かるだろ」

「え?貴族だから当たり前では?」

「貴族だから軽率な行動は控えるんだよ。エミリーヌ譲は貴族として軽率な行動を控え邸で待機した。当主代理として指示を出し報告を待った。報告を待つ間当主の仕事をしていた。それの何処に問題がある?」

「ですが…」

「泣けば心配してる事になるのか?」

「ですが本当に心配なら泣いて何も手に付かないと思います。現に侯爵も奥方も泣いて部屋に籠もっていました」

「本来ならその籠もって泣いてる侯爵本人が当主として騎士隊に指示を出し報告を待ち、家族には軽率な行動を取らないよう注意し、毎日山の様にくる書類に目を通し急ぎの書類にサインしなければならない。泣いていては何も出来ん。いついかなる時も冷静に判断する。当主とはそういうものだ。俺だとてお前が誘拐されたとしてもエミリーヌ嬢と同じ対応をした。その行動で何故婚約破棄なんだ?理由は?」

「……………」

「答えろ!」

「あの… その……」

「もう良い!お前は当主代理として対応したエミリーヌ嬢を罵倒し、婚約者ではない令嬢に現を抜かした。お前ももう成人している。自分の事だ。自分でどうにかしろ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい。罵倒は…したかも知れません。ですが、現を抜かすなどそれは誤解です」

「だが、可愛いサラなんだろ?可愛いサラが心配で寝れなかったのだろ?違うのか?」

「それは……そう…ですが………。ですが、い、妹としてです」

「婚姻もしてないのに妹な…」

「エミリーヌと婚約していたのですから妹として心配するのは当たり前です」

「ではエミリーヌ嬢に可愛いとか言った事があるのか?」

「エミリーヌに?まさか。エミリーヌの何処が可愛いと言うのです」

「婚約者には可愛いの一言も言わず、妹にもなってもいないサラフィス嬢には可愛いと言う。それを世間では婚約者を蔑ろにしてるって事だぞ?」

「蔑ろなど…」

「ならプレゼントの一つでも贈ったのか?」

「いえ、プレゼントは贈っていませんが、会いには行ってます」

「なら会いに行って何を話す?」

「エミリーヌはいつも仕事をしてますから、俺を不憫に思った心優しいサラが話し相手になってくれます。ですが、エミリーヌが仕事をしてなければ俺だってエミリーヌと話しますよ。でもいつも仕事をしてますから」

「お前は先触れって知ってるか?」

「先触れ?知ってますが婚約者なんですよ?出す必要なんてありません」

「婚約者とて先触れを出すのは礼儀だ。それに相手は当主代理。先触れを出してたら時間も作れるだろうが、急に押しかけて来た奴の時間が取れる訳がなかろう?なぁ?そう思わんか?

はぁ、お前はどうしようもない奴だ。プレゼントは贈らない。急に押しかけて仕事中を邪魔し、そのまま帰れば良いものを妹と愛瀬を楽しむ。それの何処を見れば婚約者を蔑ろにしてないと思える。慰謝料請求が来たらお前が働いて返せ。伯爵家当主として慰謝料を立て替えるつもりはない!分かったな!」

「兄上お願いします。兄上~!」


 ジェフはまさか兄上が自分を見捨てるとは思って居なかった。


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