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各々の役割
しおりを挟むお婆さんが持たせてくれたバスケットと収穫した野菜を持ち女性の家に向かった。
私達はお婆さんが作ってくれた昼食を食べている。
「僕も一緒にここで食べていい?」
『待ちなさいフィン』と母親は大きな声で男の子を呼んでいる。
「お母さんに聞いてからよ?お母さんは貴方を守りたいの。それは分かるわね?
私達は貴方にもお母さんにも手を上げないわ。でも世の中には理不尽に手を上げる人もいるの。子供だからと容赦しない人も、生まれた国で差別する人もいる。
だから貴方の目で見てこの人なら大丈夫と確信するまで警戒はしないといけないの。お母さんはまだ私達を大丈夫だとは思えないの。だから貴方を止めるのよ?そのお母さんの気持ちも分かってあげて?」
「でも僕、お姉ちゃんもここにいるみんなも大丈夫だと思ってるよ?」
「なら貴方がどうして大丈夫だと思ったのかお母さんに伝えてみたら?お母さんが納得するまで何度も伝えるの」
「うん分かった。だって父さんが言ったんだ。本当に強い人は人を見下さない人だって。同じ目線で話してくれる人だって。だから僕も強くなりたい。父さんみたいに僕も国を守りたい」
「まぁ素敵。でも今はお母さんを守らないと。さぁ未来の騎士様、お母さんを安心させてあげて?」
「分かった」
男の子は母親のもとに歩いて行った。
エーネ国を守りたいのかバーチェル国を守りたいのか、それは大人になった彼が決めること。いずれ敵になったとしても騎士を志したいと願うのならその夢の為に私達は環境を作るだけ。
でもその前にお腹いっぱい食べないと。
「ここが終わったら次へ行くか」
リーストファー様は立ち上がり体を伸ばしている。『もうひと頑張りするか』と鍬を手にし、また耕しはじめた。私とニーナは抜いた草を一箇所に集めている。
「ただいま戻りました」
「ご苦労さま」
空になったバスケットにリックが買ってきてくれたパンを入れる。
余った半分を母親に渡した。そしてキャンディーの瓶を男の子に渡した。
「一度に沢山食べたら駄目よ?どうしてもお腹が空いた時に一粒食べるのよ?」
「うん分かった」
男の子は嬉しそうに笑った。
「感謝なんてしませんよ」
「ええ、私達に感謝なんてしなくていいわ。私達には領民を守る義務があるの。
でも、お爺さんとスープを作ってくれたお婆さんには感謝をしてほしい。彼等も貴女と同じ領民なのに私達に手を貸してくれた方々だから」
母親はお爺さんに何度も頭を下げていた。
飢えの中でのスープは今まで食べた中でも一番美味しかっただろう。
「姫さん、シャルクが言っていたんだが、パンを毎度買いに行くくらいなら、材料を買ってここで誰かが焼いた方が早いんじゃないかって。それと、領地に居る間皆の飯を俺か旦那が作ってもいいけど、それよりは料理人を雇ってもいいんじゃないかって」
「そうね。今後はリーストファー様とリックが作れない時もあるものね…。掛け持ち出来る人を探してもいいのかもしれないわね。私達も常に領地に居る訳ではないし、領地に滞在中だけこちらを手伝ってくれる人が居ると私達も助かるわ。でもそんな人いるかしら…」
私達はいずれ王都に戻る。年に数回はこちらに来たとしても、私達が滞在中は私達に雇われ、私達が王都に帰れば働いている所で働く。そんなこちら側に都合のいい話が通る訳がない。
それでもその都度別の料理人を雇うのは安全面を考えれば賢明ではない。出来れば同じ人を雇えたら私達も安心して任せられる。
今の所私達の代わりに領地をまとめる領主代理人はいない。だと材料の調達はその雇う料理人任せになる。毎度変わっていたら毎度リックなりシャルクなりこちらに先に来てその手配から始めないといけない。
「なかなか難しいわね…」
この領地が栄えているのならその分人も多い。領主代理人、補佐役、騎士団、領地をまとめる人達の三食を任せられる。
残った領民だけでこの領地を回せるとは思っていない。いずれこの領地にもエーネ国の民を迎え入れる。その時わだかまりがなくなるようにしたい。領民同士で対立していては意味がない。
だから今のうちに領民達には各々役割を持ってほしい。畑の事はお爺さんに聞く、こんな風に。
「あの」
その声に振り返った。
「私、パン焼けます…。ただ私達が食べる質素なパンですが」
「本当に?」
私が勢いよく女性に近寄ったから女性は一歩後ろへ下がった。
「もしかして料理を作るのも好きなんてそんな都合のいい話はないわよね」
「貴女方が食べるような凝った料理は作れませんが、家庭料理程度で良ければ、作るのは好きです」
「本当に?」
またまた私が勢いよく女性に近寄ったから女性はもう一歩後ろへ下がった。
「姫さん怖いって」
リックは私の腕を引っ張り女性と離した。
「これは相談なんだけど、貴女私達に雇われるのはお嫌?
今ね、私達料理人を探しているの。そんな凝った料理じゃなくていいの。私達が食べるだけだもの、家庭料理でいいの。貴女が作りたいものを作ってくれていいのよ?材料だって自分で手配してくれてもいいし、欲しい材料を紙に書いてくれればそれをこちらで手配するわ。
ただ、雇うとなると毎度私達がこの家には来れないわ。私達が暮らす家で作ってほしいの。でもそこで暮せって言っている訳じゃないのよ?通ってくれればいいの。温めるだけとかなら私でも出来るわ。三食分を作ってくれると助かるんだけど、どうかしら。
あっ、でも料理人はちょっとって思うなら、出来ればパンだけはお願いしたいの。駄目、かしら?」
「パンだけなら…」
「ありがとう」
私は嬉しくて抱きつこうとした。でも抱きつく相手は目の前の母親ではなくリックだったけど。
リックは勢いよく母親に向かう私の腕を引っ張り自分に引き寄せた。体は前へ向かい急に後ろへ引っ張られ、私はリックへ体当たりをする形になった。
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