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家族の愛

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次の日の朝、公爵邸の玄関では『また顔を出せ』と、お父様とリーストファー様は話しをしている。

私はマーラに抱きしめられ『またお二人でお顔を見せに来て下さいね』『今度はニーナも連れてくるわ』と別れの挨拶をした。

それからお父様に抱きしめられ『帰るのか?ずっとここに居てもいいんだぞ』と言われた。私を愛しいと見つめる瞳に『また遊びに来ます。お父様、私はお父様が大好きです』『ああ、知ってる』そう言ってお父様は私を一度抱きしめ、それから私の頭を撫でた。

『ライアン』と私が呼べば、ライアンは両手を広げ、私はライアンを抱きしめる。『寂しくなります』私はライアンの背中を撫で『私も寂しいわ。ライアン、貴方はいつまでも私の可愛い弟よ?ライアン、大好きよ』『僕も姉上が大好きです』ライアンをギュッと抱きしめた。

最近は『私』と大人振るライアンだけど、私の前では『僕』になる。本当に可愛い弟なの。

最後にお母様が私を抱きしめた。『ミシェル、いつでも顔を見せに帰って来なさい。何かあれば直ぐに頼りなさい。私達はいつでも力を貸すわ。いい?もう貴女は妃じゃないの。一人で我慢する事も、一人で何んでも抱え込む事もしなくていいの。リーストファー君とお互いの心を預けられる夫婦になりなさい。愛してるわミシェル』『私もお母様を愛してます』お母様は私の背中を撫でた。私はお母様に抱きしめられ背中を撫でられるのが大好きなの。私はお母様の胸に顔を埋めた。お母様の温もりは、いつも私の背中を押してくれる。だから私は安心して飛び立てるの。

マーラはリーストファー様を抱きしめている。恥ずかしそうな、どうして良いか分からず固まるリーストファー様を、私は『クスクス』と笑ってしまう。

『伯爵様はもう私の可愛い息子です。何かあれば直ぐにマーラが駆け付けます。

リーストファー、無理はしないで。体には気を付けて。

いいですか?いつもマーラが伯爵様を心配していると心の片隅に置いて下さいませ』『ああ、ありがとうマーラ』リーストファー様はマーラを優しく抱きしめた。リーストファー様の顔は穏やかな顔をしている。

お母様は『リーストファー君、もう貴方も私の愛しい息子なの。何かあれば直ぐに頼りなさい。家族に遠慮はいらないわ』お母様はリーストファー様を抱きしめ背中を撫でている。『はい』と言ったリーストファー様は嬉しそうに笑った。

それを見ていたお父様はリーストファー様を睨んでいたけど、私は見て見ぬ振りをしたわ。

お父様はお母様の腰を抱いて、リーストファー様から離した。そして直ぐにお母様を抱きしめた。リーストファー様の温もりを塗り替えるようにギュッと。そして額に頬に、最後は手の甲に口付けを落とした。

リーストファー様はライアンと話をしている。『今度私にも稽古を付けて下さい』『それはいいが、お義父上に稽古を付けてもらう方が俺より上達するぞ?お義父上の一発は相当なものだったからな』『父上は容赦ないですから。それに一度くらいは父上から一本取りたいです』『そうか、分かった』リーストファー様はライアンの頭を撫でている。『今度伯爵邸に遊びに来い』『必ずですよ?私は本当に行きますよ?』『ライアンに嘘を付いてどうする。待ってるからな』『はい、義兄上』ライアンは嬉しそうに笑い、リーストファー様も可愛いなとライアンを見つめている。

私はその光景を見つめる。

家族の愛に恵まれなかったリーストファー様。辺境の大きな家族は皆を平等に愛した。はたして、一対一でこうして家族の愛を受け取れたのか。

少し離れた所に居る見習い君達は『伯爵様、俺達にもまた稽古を付けて下さいね』と手を振っている。『ああ、いつでも付けてやる』と、リーストファー様も手を振り返している。


「では、もう帰りますね。お父様、お母様、長い間ありがとうございました」


私はお父様とお母様に頭を下げた。


「お義父上、お義母上、長い間俺までお世話になりました」


リーストファー様も頭を下げた。


「娘と息子の世話をするのは当たり前だ。これからは度々帰って来い。今度は酒でも飲もう」


お父様はリーストファー様の下げてる頭を撫でている。


「はい、今度は必ず」


お父様に頭を撫でられていて、俯いたまま答えたリーストファー様。その声は嬉しそうな声をしていた。

お父様が手を退け、リーストファー様は顔を上げた。

突然お母様に抱きしめられた。直ぐ真横にはリーストファー様の顔。


「いつでも帰って来なさい。ここはもう二人の家でもあるのよ?」

「はい、お母様」

「はい、お義母上」

「気を付けて帰るのよ?」


お母様が離れ、私達は馬車に乗り込んだ。馬車の中から私達は手を振る。馬車の外から皆が手を振る。

ゆっくりゆっくりと、別れを惜しむように、馬車は動き出した。

公爵邸を出た馬車の中では、隣に座るリーストファー様が私の肩を抱き寄せた。私は自然とリーストファー様の肩に頭を預け、そのまま身を預けた。

お互い寂しい思いを分かち合うように…。



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