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しおりを挟む妊娠が分かってから、嬉しい事が起こりました。お兄様に第一子の男児が産まれました。
「お兄様とお義姉様、それに王子にも会いに行きたかったのですが」
「馬車の移動は今は止めた方が良いと言われただろ」
「そうですが」
「お祝いの品と手紙は贈った。手紙に妊娠した事も書いただろ?義兄上も分かってくれる」
「そうですが甥っ子に会いたかったのです。お姉様の子には一度も会えませんでしたから」
お姉様にも男児と女児がいます。私の甥っ子と姪っ子にずっと会いたいと願い叶わなかったので、お兄様の子に会えるのを楽しみにしていたのです。
「子が産まれて落ち着いたら会いに行こう」
「そうですね」
妊娠してからジル様はますます私を甘やかします。ですがジル様にも可愛いらしい一面を発見しました。
夜になり夫婦の寝室でジル様は私の膝の上に頭を乗せ、愛おしそうにお腹を撫でます。
「俺達の子がここにいるのか。聞いてるか、母様は父様の愛しい女性だからな。お前はお前の愛しい人を探すんだぞ」
毎日毎日そうお腹の子に話しかけます。その姿が私にはとても可愛いらしく見えるのです。
夜中に陣痛が来てジル様が街まで産婆さんを迎えに行き、部屋にはハリス様が来て私を診察します。ケイト、カーラ、アリー、メリーにミア、皆が集まり出産準備をしています。
産婆さんが邸に着いてハリス様は部屋の外へ出て行きました。何かあればハリス様の出番なので隣の部屋で待機しています。
昼過ぎ、元気な男児が産まれました。我が子をこの手に抱いた時、この子の幸せを心から願い、無条件の愛をこの子に注ぎたいと思いました。
ハリス様が赤子を隣の部屋に連れて行き私は目を瞑りました。溢れる涙を拭う手に目を開ければ、
「シアありがとう…」
ジル様の目にも涙が溜まっていました。
ジル様は優しく労るように私の頭を撫で、私を見つめる瞳は愛しいと言っています。
「奥様、可愛い息子さんですよ」
部屋に入って来たのは、
「クレア!どうして!」
「旦那様にお願いをして家族で雇って頂きました」
私はジル様を見れば、
「庭師は必要だしな。それにこれから赤子を育てるのにメイドも必要だ。それに未婚の女性が増えるのはありがたい」
クレアの旦那様は王城の庭師の一人でした。この邸に来てくれる庭師さんはご高齢で腰を痛めているのでそれは分かるのですが…。娘さんまで連れて来るとは…。
「娘はまだメイド見習いなので即戦力にはなりませんが長い目で見ると即戦力になると思います」
「そうね。家族で来たなら私は何も言わないわ。ありがとうクレア」
「私が奥様の側に居たいだけです。そして坊っちゃんのお世話をしたいだけです」
クレアが側にいてくれると私も安心だわ。
「さあ、今は体を休めて下さい。それと私の可愛いお嬢様、おめでとうございます」
「ありがとうクレア」
クレアの目にも涙が浮かんでいます。
クレアが赤子を連れて出て行き、
「ジル様すみません。無理を言ったのではないですか?」
「面白い手紙だったぞ。旦那の庭師の経歴から、自分のシアへの思いから、娘の売り込みまで分厚い手紙が送られてきた」
「クレアったら」
「シアと離れ離れになるのは嫌だと、自分は既婚者だからお側に行けないのは納得がいかないと、シアの子供は自分の子供、育てるのは自分の役目だと、長い恋文を読んだ気持ちだ。シアへの愛がいっぱい詰まった手紙だったぞ」
年月が流れ、
「母様」
「おかえりなさいアーク。皆に迷惑かけなかった?」
嫡男のアークは5歳になり今は騎士隊で剣の稽古をしている。
「かあちゃま」
「ルークは皆の邪魔をしなかった?」
次男のルークは3歳になり、たまにアークに付いて騎士隊へ行く。でも目を離すとうろちょろして騎士達の邪魔をするの。
今も部屋を飛び出し向かった先はケイトの旦那様の所ね。今から土遊びをするのね。
「奥様、俺の愛しい妻を連れて帰りますね」
「キース様ごめんなさい、メリーを引き止めてしまったわ。メリーも身重なのについつい話してしまって」
メリーはキース様と結婚し妊娠したから今はメイドは休職中なの。メリーは初めての妊娠だし休職にしたのだけど家に一人でいるのは暇だと、キース様が帰ってくるまで私の話し相手になってもらっているの。
キース様とメリーの家は邸の裏にジル様が建てた。
「キース様が帰って来たって事はノール様ももう終わりましたよね?」
「終わったぞ」
「奥様、今日のお仕事はありますか?」
「無いわよミア、ご苦労さま」
ミアはノール様に一目惚れして押して押して押しまくっているわ。ミア曰く「ノール様は奥手だから女性が押しまくる方が良いんです。そしたらいつかほだされます」らしいわ。でもたまたまミアと話してるノール様を見たとき、ノール様が笑っていたのでミアの片思いも両思いになるのは近いと思うの。
ミアは慌てて部屋を出て行き、キース様とメリーは手を繋いで部屋を出て行った。手を繋ぐ前に抱きしめキスをしていたのは辺境では当たり前の光景。
アークが覗いてきて、
「どうしたの?」
「母様、俺も父様みたいに剣や盾の刺繍がいい。花なんて女の子の刺繍だ」
ふくれっ面しているアークの頭を撫で、
「花の刺繍には母様からアークへの愛が詰まっているの。
アークはとても魅力的な子よ、優しい心をいつまでも持ち続けて、アークの幸せを願っているわ、愛してる私の可愛いアーク。
母様はアークを思いながら刺繍しているの。それに、剣と盾の刺繍はアークを愛してくれる人に頼みなさい。
アークにもかけがえのない人が現れるわ、その時まで母様の愛を受け取ってね?」
「分かったよ」
アークがふわりと浮いてジル様の肩に乗った。
「父様」
「アークの気持ちは父様が一番分かる。父様も花の刺繍が嫌だった。だが愛する人に自分だけ特別な刺繍を貰うのはいいものだ。かけがえのない存在だから愛おしい。
母様は父様の愛する女性だ。アークはアークの愛する女性に出会う。特別な刺繍はその女性に頼め」
「分かったよ」
ジル様に下ろされたアークは部屋を出て行った。
「シア、調子はどうだ?」
「大丈夫よ」
「腹の子も元気か?」
「元気に動いているわ」
ジル様は私を抱きしめ私の唇にキスをした。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「今日のシアは昨日のシアよりも愛おしい」
「私も昨日のジルより今日のジルが愛おしいわ」
重なる唇に愛しい思いをのせて……。
完結
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るび様
コメントありがとうございます。
完結まで読んで頂き本当に嬉しいです。
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ざまぁもなく、ただただ甘い恋の作品を読んで頂けた事、るび様はじめ読者様に感謝しています。ありがとうございました。
新たに投稿した際にもるび様の目に止まる事を願っています。
ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔
お父様、( ̄∇ ̄;)ジル様に何を言ってるの?
シアが心配なのよね。
とまとさん様
コメントありがとうございます。
心配のあまり牽制する父です😣
甘い恋をお楽しみ頂けると嬉しいです。
お父様、それは体験談からの教訓ですか(爆°∀°笑)
無事に結婚できて良かった良かった!
ぽぐみ様
コメントありがとうございます。
無事結婚出来ました💕
きっと体験談だと思います😆
甘い恋をお楽しみ頂けると嬉しいです。