55 / 60
55.
しおりを挟む「………どうですか。思い出しましたか?宰相閣下」
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
33
お気に入りに追加
2,141
あなたにおすすめの小説
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている
黎
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる