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しおりを挟む「お父様…」
「綺麗だ、アリシア」
玄関で待っていたのは叔父様ではなくお父様でした。
「どうしてお父様が?」
「隣国の帰りだ」
隣国では王弟殿下が国王陛下になり戴冠式が行われ周辺諸国が招待されているのは知っていました。それでもまだ隣国でのお祝いパーティーも残っているはずです…。
「ですが、まだお祝いパーティーがありますよね?」
「出席はしたし新国王陛下との会談も終わった。後は国内だけで祝うパーティーだ。それに娘の婚姻式なんだ、父である私がエスコートしなくて誰がするんだ」
「エスコート…、してくれるのですか?」
「当たり前だ。アリシアは私の大事な娘だ」
「お父様、ありがとうございます」
お父様にエスコートされ馬車へ乗り込む。邸から騎士隊へ向けて馬車がゆっくりと動き出した。
「アリシアも結婚か……寂しくなるな…」
「お父様が出した王命ですよ?」
「そうだが、帰ってくるか?」
「私はジル様の側から離れません。ジル様の妻になれるのを心待ちにしていたんですから」
「娘が誰かに奪われるのはエミリアの時に痛感した。大事に育てた可愛い娘を手放すのは辛い。だがいつまでも私の庇護下に置いておけないのも分かっている。子は巣立つものだ。そして親は巣立ちを見守るものだ。
アリシア、幸せになれ。それが私からの願いだ」
「はい、お父様」
「まだ幼いと思っていたんだがな…時が経つのは早いもんだな…」
「お父様、私もう16歳ですよ?」
「まだ16歳だ!もう少し側に居てほしかった…」
「お父様、同じ国なのでいつでも会えます。これからは王と臣下にはなりますが、私はお父様の娘です。それは臣下になっても変わりません」
「そうか、そうだな」
お父様の笑った顔、久しぶりに見た気がする。まだ小さい頃はよく笑った顔を私に向けていた。それがいつしか仏頂面になって…、
「懐かしい…」
「何がだ?」
「お父様の笑った顔です。小さい頃お父様の笑った顔が大好きでした。それに暇を見つけては私を抱っこする為だけに会いに来てましたよね?」
「アリシアは末っ子だったからな、エミリアはもう抱っこをするような年でも無かったし抱っこをすると怒られた。でもアリシアは私の顔を見るなり抱っこ抱っこと言ってな、抱っこをすると満面の笑みで喜んだ。私が笑っていたならアリシアの笑みにつられたんだろうな。
アリシアすまなかった。アリシアだけに下命した。辛い思いをさせた」
「やめてください。もし隣国へ嫁いだとしても私なりに楽しんでいたと思います。ですが、今では王命を出したのがジル様で良かったと心からそう思います。だからお父様に感謝しています」
「辺境伯の剣の腕を買っている。それに仲間思いで心根の優しい男だからな、大事な娘を任せるには適任だと思った。それに前辺境伯も妻に一途な男だった。その息子なら息子も一途な男だと思ったんだ」
「ふふっ、ジル様は一途な男性です。私の最高の旦那様ですから」
「それなら安心だ」
馬車が止まり、外から扉が開かれた。
お父様が先に降り、私はお父様の手に手を重ねた。
「アリシア、私の愛しい娘、私の娘に産まれてきてくれてありがとう」
お父様はそう言うと少し寂しそうに笑った。
馬車を降り、ジル様の元まで歩きジル様に私を託した時、私は王女ではなくなる。王族と貴族、親子であっても公の場では親子として過ごす事はもう出来ない。今までのように話したり近くに行ったりする事は出来ない。王と臣下には目には見えない一線があるから。
王女として、娘として、最後にしたい事。
馬車から降りた私はお父様に抱きついた。
「お父様、ありがとう。私もお父様の娘に産まれてきて良かった」
お父様は力強く私を抱きしめた。少し震えているお父様…。
「アリシア……」
お父様の寂しそうな声、
私を離したお父様はまたいつもの仏頂面に戻り、私をエスコートしジル様の元へと歩き出した。
一歩一歩とジル様との距離は縮まる。お父様と進む一歩一歩は王族への別れの一歩一歩となる。
ジル様へと向かう道を作るのは辺境の騎士達、大勢の家族に見守られながら私はジル様へ嫁ぎます。
ジル様と目が合い微笑みあう。
ジル様まであと数歩、お母様の顔が見えました。涙ぐむお母様を見ると私まで涙が出ます。
一歩一歩とジル様に近づき、お父様がジル様に私を託した。
その瞬間、私は王女ではなくジル様の妻になり辺境伯夫人としてこれからを生きる。
私はジル様と一緒に歩き神父様の前まで歩きます。
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