辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

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ジル様が部屋に戻り、


「ジル様、キース様がこちらにお戻りになったという事は、隣国は…」

「王弟が国王を捕らえた」

「そうですか。それで国王は」

「民の前で公開処刑が執行される。今は牢に繋がれている」

「第二王子はどうなりました?」

「第二王子は王弟へ引き渡した。傷も浅かったからな。手当てだけしてあれから直ぐに国境へ連れて行き王弟の使いの者に状況を説明した。国王と一緒に公開処刑が執行される。

王妃を刺し、他国の王女を刺したんだ。子供だからと罪は無くならない」

「それは仕方がありません。私はともかく実の母親を刺した罪は償わないといけません。

あの馬鹿元王子はどうなりました?」

「…………殺された」

「誰に!」

「国王にだ」

「父親が息子をですか?」

「交渉へ向かわせたが……、発見した時には無残な亡骸だったらしい…」

「そうですか……。王妃様は今はどうしていますか?」

「王妃はまだ病室にいる。体調次第だが隣国が落ち着いたら隣国へ移す。離宮での幽閉になるが命は護られる」

「そうですか」

「処刑が終われば王弟が国王になる」

「そうなれば辺境も争いは減りますね」

「ああ」

「騎士達は皆様ご無事でしたか?」

「ああ、皆無事だ。大国側の辺境の騎士達も手を貸してくれたからな」

「間に合ったのですね。それで隣国の民はどうなりましたか?」

「傷を負った者以外は隣国へ帰った。傷を負った者も隣国の医師達が落ち着いたら帰す。それまでは国境で治療する事になった」

「それが良いと思います」

「ああ」


ジル様が険しい顔をしていたので、


「どうしました?」

「俺はシアを護れなかった。そんな俺に夫になる資格はあるのか?」

「ジル様は私を第二王子から護ってくれたではありませんか」

「シアが刺されては意味がないだろ」

「あら、ジル様は傷のある女性はお嫌ですか?」

「何を言ってる!俺の方が傷だらけだ、そんな事気にしない!」

「では私もジル様とお揃いの傷が持てたのですね」

「傷なんか持ってどうする」

「ジル様の傷は戦いついた傷です。そして今ジル様は私の隣にいる。それは生きてる証拠です。生きる為についた傷は誇りではありませんか。戦った誇りではありませんか。私もこの傷は戦った誇りです。第二王子の要求に屈しなかった証拠です。

ジル様は第二王子から私を護って下さいました。第二王子を私から引き離してくれました。私はジル様に護られたからこうしてここに居るのです。

それに今更夫にならないって言われても私はジル様の側から離れません。ジル様が突き放しても私はこの辺境から出て行きませんから」

「シア…」

「私はジル様を愛しています。私の旦那様はジル様しかいません。

ジル様、私の旦那様になって頂けますか?」

「良いのか?」

「私はジル様しか嫌です」

「シア、愛してる」

「私もジル様を愛しています」


ジル様の唇が私の唇と重なりました。

それからジル様は私を優しく包みこむように抱きしめてくれました。



私は王妃様の病室へ向かい、


「申し訳ありません。息子達が貴女を傷つけた事、何とお詫びすれば…」


まだ傷が完全に塞がっていない王妃様が頭を下げている。


「エリオット王子とは縁が無かっただけです。それにエリオット王子が真実の愛を見つけたおかげで私も真実の愛をみつけました。王子の方は真実の愛では無かったようですが、私は愛を育んでいます。だから気にしないで下さい。

第二王子は私よりも王妃様の方がお辛いのではありませんか?」

「あの子の人を人と思わない所は父親に似てしまったようです。エリオットが廃嫡されなければ…ですがそれも今更です。

それに私も王弟殿下に手を貸そうとした段階でこの命は捨てました。あの男が見逃すはずがありませんから…」


王妃様に伝えた事は第二王子を王弟に引き渡した事だけです。国王と第二王子の処刑を伝えるのは隣国の使者が来てから使者が伝えるそうです。それとエリオット元王子の事も…。

この国へ来て行った事も王弟殿下に引き渡された事も父親に無残に殺された事も…。

未だに廃嫡されてどこかで生きていると思っている王妃様が事実を知った時、王妃様に寄り添ってくれる人が居る事を願うばかりです。


「まずはお体を直す事に専念して下さい。王妃様、生きてこそです。生きてさえいれば悔いる事もやり直す事も出来ます。助かった命を大切にして下さい。王妃様を救う為に全力で戦った者達が居るという事を忘れないで下さい」

「分かっているわ。隣国の私を捨て置いても誰にも咎められないのに、それでも助けてくれたのだから」


王妃様が事実を知った時、貴女の命を懸命に救った者達が居ると、貴女に生きてほしいと願う者達が居たと思い出してほしい。



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