辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

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早朝王妃様を乗せた馬車が騎士隊の本部に着いた。

私もジル様と一緒に騎士隊へ来ました。

騎士達は慌ただしく動いていて、医師も街から応援に来ていました。


王妃様が運ばれた病室に入り、


「母様ー、母様ー、死なないで、母様ーーー」


王妃様から離れないこの子はきっと第二王子。まだ6歳の第二王子からしてみれば重傷のお母様から離れたくないのは分かる。


「第二王子、処置の邪魔になるので少し離れましょう」

「嫌だよ!母様と離れたくないよ!」

「第二王子、処置が遅れれば助かる命も助かりません」


ジル様は第二王子に説明しているけど、第二王子は、


「嫌だー!母様から離れないー!」


第二王子が側から離れないから処置が思うように進まない。


「第二王子殿下、はじめまして、私はバウリーガン王国第二王女アリシアです。

医師の邪魔をしてはいけません。今は命を助けるのが第一優先です。それは分かりますね?」

「君がアリシア第二王女なの?」

「はい、そうですが」

「アリシアが僕と一緒にいてくれる?」

「分かりました。では少し離れた所で待っていましょう」

「分かった」


第二王子が離れ王妃様の処置が始まった。


「隊長、子供に見せるものではないのでカーテンを閉めます」

「ああ、よろしく頼むぞ」


数人の医師が王妃様に付き処置をしている。カーテン越しでも分かる血の匂い、床に散らばる血を含んだガーゼが山のようになっている。


私の手を握る第二王子の手にギュッと力が入る。

そうよね、まだ6歳だもの、お母様が恋しいしわよね。それに私もだけどこんな場面は経験した事がない。


ジル様は私達の前にいて処置を見守っている。


「隊長!この薬の許可を頂きたいのですが」

「ん?許可か?分かった。どの薬だ?」


医師から小さい紙を受け取ったジル様の顔が険しくなり、


「分かった」

「ではよろしくお願いします」

「ああ、お前達は全力で救え」

「はい」


ジル様はずっと険しい顔をしています。


「ジル様、思わしくないのですか?」

「ああ、思ったより悪かった」

「そんな!」

「それに今は分が悪い」

「王妃様は助かりますか?」

「ああ、全力を尽くす」


ジル様が振り返り、私と第二王子を見る。


「シア、通用しない、この意味が分かるか?」

「通用しない、ですか?」


それは馬鹿元王子しか通用しないと言った事かしら。


「分かりますが」

「なら良い」


ジル様は第二王子の前に立ち、


「王妃を刺したのはお前だな」

「どうして?僕はまだ子供だよ?」

「王妃がお前に刺されたと言った」

「アリシア、この人怖いよ…」


第二王子は私の後ろに隠れ、顔を覗かせてジル様に向ける。


「どうして刺した、実の母親だろ」

「はぁぁ、バレちゃったら仕方がないか。母様が悪いんだ。母様が叔父さんを手引きするから一緒に逃げようって言うから。

だから父様に言ったんだ。そしたら父様が母様を刺して叔父さんに助けを求めろ、そしたら国境からこの国の辺境に送られる。そしたらそこに第二王女がいるから連れてこいって。

でもね、僕、母様刺した時すごく楽しかったんだ。何回も刺しちゃったから死んじゃうかと思って焦っちゃった。死んだらここに来れなくなるでしょ?」

「お前!」

「だって僕が次の王になれたのになれなくなるなんておかしいでしょ?

それに父様は暴君だの愚王だの言われてるけど民が僕達の為に犠牲になるのは当たり前だと思わない?愚民に生きる価値があるの?

死ぬまで文句も言わず働けば良かったものを、文句なんか言うから。僕の国に住まわせて貰ってるのにその事を全く分かってない。だから馬鹿な民なんかいらないでしょ?」


私は平気な顔で話している第二王子に問いかけた。


「本当にそう思ってるの?」

「当たり前だよ。兄様は優しすぎたんだ。女性関係にはだらしなかったけど民にはいつも感謝していた。だから僕は兄様は馬鹿で能無しだと思っていたんだ。あんな馬鹿が王になったら国は終わる。だから兄様の好きそうな馬鹿な女を近づけたんだ。

僕が王になる為にね」

「廃嫡させるようにわざと仕向けたの?」

「うん!兄様は馬鹿だからまんまと引っ掛かってくれたよ!」


馬鹿は認めるわ。でも…、

この子本当に6歳なの?

あの馬鹿元王子の方が民を思っていたなんて…。


「これからどうするつもりだ」

「これからか…どうしようかな?」


屈託のない笑顔はまだ6歳の子供の顔。でもその笑顔の裏の顔は人を人と思わない殺戮者。

民が死んでも心を痛めない。

そうよね、

母親を刺しても心を痛めてないのだもの…。



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