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しおりを挟む夕食後、
「ジル」
「ああ、行くか」
キース様が立ち上がり、
「シア、すまない。今から作戦を詰める」
「分かりました」
「シアも聞くか?」
「良いのですか?」
「おい!ジル!」
「シアなら大丈夫だ」
「ジルが良いなら良いけど」
3人で執務室へ移動し、ソファーに座る。
一枚の絵が机の上に置いてあり、
「シアに簡単に説明する。海側から王弟が王城を目指す。で、帝国側から帝国が王城を目指す。王弟はもう王城近くに陣を構えているし帝国も国境を越えた」
「帝国はもう国境を越えたのですか?」
「ああ、帝国の辺境の騎士隊が既に入り込んでいる」
「平民としてですか?」
「帝国とは行き来が簡単だ。特に平民は調べられる事はない」
「確かにそうですね。隣国と帝国は平民の行き来が多いので」
「帝国は皇太子が指揮をとってる」
「お義兄様がですか?皇帝ではなくて?」
「皇帝より皇太子の方が策士だぞ?」
「え?」
「皇太子の軍も国境に陣を構えた。でだ、逃げ道を塞がれた平民はこの国へ逃れてくる。それを5部隊で対応するが、1部隊は王弟への物資の支援にあてるから実際は4部隊だ」
「少なくありませんか?」
「少ないな」
「王城か帝国側の辺境に協力を頼んだ方が…」
「帝国側の辺境は帝国へ逃れる者達の対応にあたってもらう。皇太子の軍が王城を目指した時、帝国側の辺境が手薄になるからな」
「そうですね。既に辺境の騎士隊が隣国へ潜入しているなら辺境は手薄です。今はお義兄様がいますが」
「王城の騎士達は国王を護ってもらわないといけない。ただ、もう少ししたら大国側の辺境の騎士隊が応援に来てくれる」
「大国側ですか」
「大国の国王が軍を連れて身重の娘の見舞いに来るらしい」
「軍を連れて、ですか?」
「国王が動けば軍も動く、らしいぞ」
「ふふっ、大国の国王陛下らしいです」
「この国は中立と言っている以上軍を動かす事はできない」
「そうですね。軍を動かせば敵と見なされます」
「だがそこに大国から軍を連れて来る国王を辺境の軍が監視の為に動いてもおかしくはない」
「ええ」
「そこで監視の為に王城に着いた辺境の騎士隊に国王から隣国から逃げてきた民の保護の応援を頼んだならどうだ?」
「保護なら中立です。それにたまたま王城へ来た騎士隊なので軍を動かした事にはなりません」
「中立国にもし攻めて来たとして、大国の国王がこの国にいる時に攻めれば大国にも戦を仕掛けた事になる」
「隣国の国王陛下は袋の鼠状態になります」
「自ら白旗をあげれば良いがそんな事はしないだろう」
「でしょうね、賢い王ならこんな事になっていません」
「シアは皆に愛されてるな」
「どうしてです?」
「帝国の皇太子が動いたのは義理の妹が傷つけられたからだ。そして大国の国王が動いたのは娘に頼まれたからだ。義理の妹を傷つけた暴君も元王子も許せないとな。
そして中立と言っているが秘密裏に王弟に手を貸しているのは国王だ」
「え?お父様?」
「第二王子を護る為にと言って王妃に口添えをした。王宮の内から手引きするようにな。国王の交代を求める公爵を筆頭に侯爵に連絡を取り、王弟を王宮へ手引きした後、第二王子と王妃を匿うように願い出た。だから王妃は王弟に手を貸す事を決めた」
「シアは皆から愛されてるな」
「はい、そのようです」
「隣国が落ち着いたら王城へ行くか」
「ジル様もですか?」
「報告がてらな」
「はい、一緒に行きましょう」
ジル様に手を握られ、私とジル様は見つめ合い、ジル様の唇が私の唇と重なった。
ジル様に抱きしめられ、私はジル様の胸の中でジル様に包まれた。
「あのさ、二人の世界に入るのは良いけど、俺も居るけどね?」
「あ!」
「王女様忘れてたでしょ」
「はい、すみません」
キース様がいる事をすっかり忘れていました。
「で、話を戻すよ」
「はい、お願いします」
「大国側の辺境の騎士隊が来るまでは俺達でどうにかしないといけない。まぁ、王城から明日には出発出来るとしてそれでも10日はかかる」
私が来た時は観光しながら休憩も取りつつゆっくり来たから1ヶ月かかったけど、騎馬なら10日しかかからないのね。
「俺達が明日国境へ向けて出発して数日で仕掛けると思う」
「今は睨み合いだからな」
「帝国の辺境の騎士達の武装も済んだみたいだし頃合いだね」
「国境の牢屋はどうだ」
「牢屋だけでは足りなくなる」
「だろうな」
「野営用のテントに女性と子供を入れるけど」
「子供か…男児は牢屋にいれたいが」
「子供ですよ?」
「違う国だが子供に暗殺させようとした事があったんだ。昔だけどな」
「子供に?」
「どうしても子供には警戒心が薄くなる」
「そうですね、まさかと思いますもの」
「そこを逆手に取った。まぁ子供だから失敗したが」
「子供にそんな事させるなんて」
「だがそれも作戦だ。まさかと思う事があり得るのが戦だからな」
「用心するに越したことはないと言う事ですね」
「ああ」
「なら野営は女性と女児だけ。後は赤子や幼児は大丈夫だな」
「それはな」
「後、大事な事なんだけど、どうしても全員捕らえるのはできないと思う。大国側の辺境の騎士隊が間に合えば違うけど」
「まあそうだな」
「民の大半は王弟の領地へ行ったけど、大半はこっちへ来ると思う。抜け道は作らせないから捕らえるのにこぼれた人達がここに来る」
「ここは大丈夫だ。こっちの心配はいらない」
「分かった。なるべく国境で捕らえるから」
「頼むぞ」
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