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しおりを挟む国境へ向けて2部隊が出発しました。
出発する時に奥様や恋人、ご両親が辺境に来て各々ハンカチや渡したい物を渡し別れを惜しんでいました。
私は誰からもハンカチを受け取らない騎士に手渡しで渡しました。
「ご武運を」
「あ、ありがとうございます」
皆様私から受け取るのを恐縮されるみたいで…。年配の方も受け取ったらそそくさと何処かへ行かれました。もう少しお話を、と思っていたのですが…。
それになぜか後ろにいるジル様をチラチラと見ていました。なぜでしょう…?
出発を見届け、
「シア行くぞ」
ジル様に手を繋がれ歩いて邸に帰ります。
初めて騎士隊の方へ来たのですが、とても広くて驚きました。宿舎も何棟もあり、練習場も広く、何箇所かあるそうです。
騎士隊の詰所?なのでしょうか、本部も大きな建物で学園の校舎みたいでした。学園には通えませんでしたが、式典がある時に一度連れて行ってもらいました。お姉様もお兄様もお義姉様は1年だけですが通っていたので私も通えると思っていたのですが…、そこは少し残念です。
ですが、辺境へ来てジル様とお会いして学園の事などすっかり忘れるくらい辺境での生活に満足しています。
2部隊が国境へ到着すると2部隊が帰って来て準備を整えまた向かい、最後の1部隊が帰って来て準備を整えまた向かうそうです。
こちらに残る1部隊はボル様が団長の第四部隊です。邸に泊まり込む事を考慮して私と面識があるからだそうです。ゼフ様の部隊は若手が多いから経験を積ませる為に国境へ行かせると言っていました。
経験は大事ですものね!
こちらに残る第四部隊のノール様にもハンカチを渡しました。
「ノール様はこちらに残り私の警護や邸の警備ですが、こちらを。ご武運を」
「…………ども」
「ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「…………あ、はい」
ノール様はハンカチを受け取りそそくさと何処かへ行かれました。
勿論ジル様には一番始めにお渡ししましたよ?
「ジル様、こちらを」
「ハンカチは分かるが、これは?」
「こちらは腰ベルトに付けて頂けると。王城の騎士達が付けていたので聞いたら妻に貰ったお守りみたいなものだと言っていたのでお作りしたのですが、辺境ではハンカチなのですね」
「そうだな」
「ジル様のご武運をお祈り申し上げます」
「ありがとう。早速付けさせて貰う」
横で歩くジル様の腰ベルトには私が贈ったお守りが付けてありました。
「ふふっ」
「どうした?」
「嬉しいものですね」
「ん?」
「贈ったものを付けてもらえるのは嬉しいものです」
「ハンカチも持っているぞ」
ジル様は胸ポケットに入っていたハンカチを取り出した。
「このハンカチ、シアの色だな」
「はい」
「シアが側にいるみたいだ。それに紋章まで大変だっただろ」
「ジル様を思い刺していたので大変ではありませんでしたよ?」
あれからハンカチにも紋章を刺繍したの。次の日はちょっと寝不足になったけど、疲れよりも幸せの方が上回ったから大変とも思わなかったわ。ジル様が私の色を持ってくれる事が嬉しいもの。
そうそう、あの馬鹿元王子は今回国境へ向かった部隊が連れて行ったそうです。
「シア、邸に数人騎士達がいるが大丈夫か?声をかけられたりしてないか?」
「それが皆様声をかけるどころか私の顔を見るとそそくさと何処かへ行かれるので私は大丈夫です。ノール様には毎日申し訳ないのですが」
今は毎日ノール様が私の護衛に付いてくれている。
「ボルは騎士隊の方を見て貰っているからな」
「午前中はケイト達とハンカチの刺繍を刺して、午後は一人で刺繍をしたり読書をしたりしているので護衛が必要なのか分かりませんが」
「万が一だ」
「そうですが、申し訳なくて…」
私は部屋にずっと居るし、ノール様も扉の所で立っているだけ。一度話しかけてみたけどノール様から話しかけるなオーラが凄くてそれっきり話しかけていない。
きっと稽古をしたいんだろうな、とは思っているんだけど…。
「今日は驚きました。皆様他の方が居ても気にしないで口付けをするのですね」
そうなんです。奥様と口付けをする方や恋人と口付けする方、目に入り私の方が照れてしまいました。
「あれか、恒例といえば恒例だな。皆気にしない。見て見ぬ振りだな」
「そうなのですね。だからジル様も気にしないのですね」
「俺はシアとしたいだけだ」
チュッ
「ジル様!外です!」
「誰も見てないし誰も気にしない。もし見ても仲が良いんだなで終わる」
「確かに皆様仲が良いと思いました」
「だろ?戦になれば今度いつ会えるか、もしかしたら会えないかもしれない。だから今伝える事は伝えるし、人前だろうとキスもする」
「だから皆様気にしないのですね」
「休みの時にしか会えないしな。国境から帰って来た時の方が凄いぞ?」
「今日よりもですか?」
「ああ」
今日よりも凄いって…、でも仲が良いのは良い事だものね。
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