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しおりを挟む「ジル様が私に悲惨な現状を残忍な姿を見せたくない気持ちは分かります。ですが、私は例え貴方が誰を斬ろうと嫌いになる事はありません。今迄もこれからも国を護るため民を護るために剣を振るい命を奪ったとしても、貴方は騎士です。そして私は騎士の妻。騎士の妻としてそんな旦那様を誇りに思います」
「シア……」
「それに私はジル様の側に居たいのです」
「分かった」
「こちらには馬鹿元王子がいます。役に立たない捨て駒だとは思いますが」
「まあ、捨て駒だろうな。だが、あの馬鹿王子は一応王弟に引き渡す」
「王弟殿下がどう使うかは分かりませんが」
「交渉にも使えないだろ」
「それは言えますね」
「今は国王の返答を待つしかない」
「お父様はどうするおつもりでしょう」
お父様からの返答でこれから忙しくなりそうです。
「今日はお仕事は終わりですか?」
「ああ、庭でお茶でもするか?」
「はい!」
ジル様と手を繋ぎ庭へ出て来て、
「この庭も変わったな」
「ふふっ、始めは殺風景なお庭でしたものね」
「それを言われると…、まあ、殺風景だったな」
「はい。始めてここでお茶をした時は土しかない花壇でした。それから苗を植え今では花が咲いています。
ふふっ、まるで私とジル様のようですね」
「ん?」
「何もない所からお互いを知り、愛を育み今では愛になりました」
「そうだな」
「そして他の花壇にも苗を植えこれから色とりどりの花が咲きます。
まるでこのお庭は家族のようだと思いませんか?」
「家族か…」
「これから子供ができ私達は家族になります。何人子供を産めるか分かりませんが子供達が伸び伸びと育てば良いなと思います。同じ親から産まれても一人一人個性は違いますもの」
「そうだな。子供か…、同じ花の苗を植えても全て同じに育つ訳ではないか」
「はい。早く花を咲かせる苗もあればなかなか咲かない苗もあります。
それに様々な花は辺境の騎士達のようです。苗一本でも花は咲きます。ですが集まり咲き誇れば見て綺麗な花壇になります」
「花束でもそうだな。一本でも綺麗だが少し寂しい。だが数本だと豪華に見える」
「ええ、私達は騎士達に囲まれ一緒に暮らす大きな家族です。
色とりどりの違う花が咲けば花の庭園です。この庭のようだと思いませんか?」
「そうだな」
「ジル様と家族のご武運を心からお祈り申し上げます」
「分かってる」
それからジル様と束の間だけこれから起こる事を忘れ楽しくお話をしながらお茶をした。
次の日私は刺繍を刺しています。
ジル様にお渡しする腰ベルトに付けるお守りを紋章にしようと。お母様のノートを見ながら布に下絵を薄く書き、鷹から刺繍を刺していきます。
途中途中休憩を挟みながら一針一針刺していきます。
愛する人の無事を願い、命を落とさないように怪我をしないようにと、思いを込めて…。
コンコン
「アリシアお嬢様、今いいですか?」
「カーラどうしたの?」
「ケイトからお嬢様がお守りを作っていると聞いて」
「王城の騎士達が奥様に貰ったと腰ベルトにしていたのを真似ただけなの。辺境でももしかしたらそういうのがあるの?」
「辺境ではハンカチを渡しますね。ハンカチを胸ポケットに入れてしまっておくんです。辺境を護る事は妻や子供、愛する人を護る事に繋がりますから」
「それなら私もハンカチにしようかしら」
「両方なさったら良いと思いますよ」
「そうね。それでカーラの用事は何だったの?」
「そうですそうです、妻や恋人がいる者達や親がいる者達は贈ってくれる人がいるのですがノールのように親も恋人もいない者達はどうするのか聞きにきたんです」
「お母様の時はどうしていたの?」
「奥様の時は使用人の女性陣で渡していました」
「それなら皆でやりましょう。ちなみに何人いるの?」
「60人くらいですね」
「60枚…、大変だわ」
「奥様の時はもっといましたよ?」
「そうなの?」
「大奥様の時代は戦続きだったらしいです。親を失う子が多く、その子達が騎士として育ちました。嫁いできた奥様はその子達にも武運をと、親や妻、恋人がいない者達にも贈ろうと」
「お母様の思いはこれからは私が受け継がないといけないわね。ハンカチがいるわね」
「ハンカチなら準備しておきました」
「ありがとう、助かるわ」
「お嬢様は先にジルベーク様のを仕上げて下さい。私やケイト、アリーが先に作り始めますから」
「申し訳ないけどお願いできる?私もジル様のを仕上げたら直ぐに取り掛かるわ」
「分かりました」
アリーはベンの弟さんの奥様なの。女性が少ないから皆にも負担をかける事になるけど…。
まずはジル様のを私は仕上げないと!腰ベルトは明日で完成させたいわね。その後ハンカチに刺繍をして…。
今回戦にはならないとは思うけどそれもお父様の返答次第。それでもこちらに逃げて来た人達を捕らえるのは騎士達、私達は武運を祈る事しかできないもの。
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