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しおりを挟む「お前は私の顔を知らないのか。私の名はエリオット」
「エリオット…」
エリオット?男性は私を知っているようだけど、私は知らない。
「お前の婚約者だ」
婚約者…、エリオット第一王子、元だけどあの馬鹿王子なのね。姿絵はあったけど見る気もなかったし会ったこともないのに知らないわよ。
「エリオット王子がなぜここにいるのですか?確か男爵令嬢と真実の愛で結ばれたはずですよね?男爵令嬢はどうしたのです?」
「そんなの廃嫡されたら捨てられたに決まっているだろ」
捨てられたの?それって真実の愛なの?
もしジル様が平民になるって言ったら私も平民になるわ。辺境伯はジル様に付いてる付属であってジル様はジル様なのよ?辺境伯でも平民でも私はジル様の側に居たいんだもの。
「男爵令嬢と上手くいかなかったとしてもそれは私には関係ないですよね?それにエリオット王子は元王子、王女の私に用事があるとは思いませんが」
「父上がお前を連れてこれば王子に戻してくれると、父上と約束した。だからお前を連れて帰る」
廃嫡した王子を戻せるのかしら?もし戻してもまた同じ事繰り返すと思うけど…。王子としての心構えもない人を王子に戻して何の得があるの?それにそれを民が許すのかしら。
「私がここに居る事をどこで知ったのです」
「王都で話しているのを聞いた」
「王都までどのように来たのです」
「帝国側から入り行商に王都まで送ってもらった」
帝国側は異国民を受け入れるから確かに入りやすいわね。行商ならこの国へも入りやすいし。馬鹿王子と思っていたけど頭は使えたのね。
「それで私を連れて帰ってどうするのです」
「お前は私の婚約者だ。私と婚姻する」
「婚約はなくなりました。国と国を結ぶ婚約を先に手放したのはそちらです」
「あれは、私も騙されたんだ」
「それでもそれはそちらの事情です。それに私はもう婚約しています。後数ヶ月で婚姻します」
「だから手荒な真似をしたんだろ」
確かに。私は邸から出ないし、辺境の騎士が大勢いる所に誰も来たくないわよね。馬鹿じゃないかぎり。
「婚約中ならまだ間に合う」
「間に合う?」
「先に私が子を作れば良い。そしたらお前は私に嫁ぐしかなくなる。お前の婚約者も他の男に体を穢され、他の男の子を宿した女など捨てるに決まっている。それにお前の父上も私に嫁がせるしか選択がないだろ」
「隊長を馬鹿にするな!隊長はそんな些細な事気にしない!」
ゼフ様…。ゼフ様は私の横に立った。
「その通りだ!誰に穢されようと誰の子を宿そうとシアには変わりない!俺はアリシアを愛している」
ジル様が私の前に立ち、
「私は王子だぞ!お前のような騎士が気安く話せる相手ではない」
「元だがな。それにお前もう平民だろ?」
「煩い!」
「お前こんな所に居るよりお父上の所に戻った方がいいんじゃないか?」
「戻るにしても一人では戻れない。必ず王女を連れて帰る。そうしないと私は王子には戻れない。私は王女と婚姻して王になる」
「隣国で騒ぎを起こして王になれると本当に思っているのか?」
「なれる!」
この馬鹿王子、やっぱり馬鹿だったのね。騒ぎを起こして王になれる訳がないじゃない。捕まれば捕虜、最悪殺されても文句は言えない。今現在人質とっている訳だし。
ジル様と話している馬鹿王子の後ろにノール様が回り、
「お前の考えはよく分かった。交渉しないか?お前が王になるのに必要な王女と今人質になっている女性を交換しよう。どうだ?」
「分かった。早く王女を渡せ」
「おいおい、それだと交渉にならないだろ?こういう場合は同時に渡すのが筋だ。エリオット王子なら知っているかと思ったんだが、俺の見込み違いだったか?」
「し、知ってる!」
「それなら同時に歩かせよう。もしエリオット王子が嘘をついたなら、分かるよな」
「わ、分かってる」
ジル様の殺気が纏った。
「シア、ゆっくりだ、いいな」
ジル様の小声の指示が聞こえ私は頷いた。
「さあ、こちらは王女を渡す」
ジル様が一度私の手を握り、軽く背中を叩いた。
心配するな
そう言われた気がした。
私はジル様を信じているし、例え捕まってもジル様は必ず助けてくれる。
私はゆっくりとエリオット元王子の元へ歩き出した。
私が歩き出したのを見たエリオット元王子はケイトを開放した。
その瞬間、
私はとても優しく逞しい体に包まれ抱きしめられた。
ケイトはボル様が、エリオット元王子はノール様が取り押さえてる。
「嘘をついたのはお前じゃないか!」
「お前は馬鹿か?ここは辺境だぞ?それに周りには騎士しかいない所で人質を離せば捕まえて下さいと言っているのと同じだ」
「何だとー!」
「人質は最後まで手元に置いておくものだ」
「クソーー!」
この人は馬鹿なの?人質がいなければ捕まえやすいに決まっているじゃない。多少手荒に捕まえてもいつも鍛えてる騎士には勝てないもの。
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