辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
20 / 60

20.

しおりを挟む

ジルベーク視点


シアは可愛い。それは初めて会った時から思っていた。



王命で「第二王女と婚姻せよ」と届いた時は、国王を殴ってやろうかと思った。

約10年前、第一王女が帝国の皇子の一目惚れで、恋仲となった話は辺境にも届いた。 その時、王家から第一王女の婚約と婚姻の打診があったが、家督を継いだばかりの俺にはそんな余裕はないと断った。 その話を聞き付けた皇子が国王を言いくるめ婚約し、王女を連れ去る様に帝国へ帰って行った。


「第一王女の次は第二王女か!」


と、思わず大声で怒鳴っても仕方ない。


「辺境の地は国王の娘を匿う場所じゃないんだ」





俺が収める辺境は隣国と隣り合わせだ。独自の隠密を隣国に潜らせてる。 情報で王子が平民上がりの男爵令嬢と恋仲になっている事は知っていた。


隣国で王子が産まれ、その次の年、こちらも第二王女が産まれた。 隣国の国王が第二王女が産まれて直ぐから婚約の打診を何度もしてる事も、うちの国王が何度も断ってる事も。

そのお陰で辺境は争いが絶えない。隣国が幾度と無く争いを仕掛けてくる。それを俺達がくい止める。隣国が海の航路を作りたいのは知ってるが、腹違いとはいえ兄弟なんだから、まずは兄弟で争って欲しい。「他国と争わず自国で争え」って何度思った事か。


同じ辺境でも大国側と帝国側は友好的な関係だ。何事も無ければ王子と王女の婚姻はいずれ決まっていただろう。そしたらこの辺境も争いが無くなり住みやすくなるんだが。

結果は、王子は王位継承も剥奪され廃嫡。平民になるらしい。王女との婚姻も断絶され、こちらに火の粉が飛んできた。


隣国の国王は王族の血筋の公爵家の息子を王女にあてがおうと画策してるが、その息子、王女より五つ歳上で既に婚姻し子も産まれている。

国王は奥方と離縁させ、王女を娶らせるつもりだが、息子の方は拒否してるらしい。 

当たり前だよな、奥方も居て子も居て、王子の尻拭いで離縁させられ王女を娶るなんて、誰でも嫌だろうからな。 

奥方は愛妾として別の邸で囲えば良いと言われても、既に産まれた子は愛妾の子になり跡継ぎには出来ない。 息子の親の公爵も奥方の親の侯爵も反対して話は平行線のままだ。

王弟にも子が居るが、王弟の子に王女が嫁げば自分の立ち位置が危うくなる。自分の立場を護る為にも王弟の子と婚姻はさせないだろう。

自分勝手な国王だ。




うちの国王も隣国の国王の画策を知り、急いで俺に王命を出した。 俺も辺境伯と言う国王の臣下で貴族だ。王命は絶対だ。断る事など出来ない。 隣国との争いもこれから今以上に深刻になる。その上、王女もだと!

国を護り王女も護り?

俺にどれだけ護らせれば気が済むんだ! 

文句を言いたくなるのも仕方ないだろ。


「王命な以上、王女を娶ってやるよ」


俺は筋肉が付いて大柄だ。傷もある。顔だって格好良い方じゃない。騎士見習いからは顔が怖いと恐れられてる。王女には気の毒だが、知った事か! 

おまけに王女と十も歳が離れてる。まだ成人したばかりの若い王女にとって俺はおじさんだ。

王女なら選びたい放題なのにな。

まぁ、政略結婚だ。形だけの夫婦になるだろうな。



王女が暮らす部屋をイザークに整えてもらい、王女を迎える準備は終わった。明日王女が辺境に着く。初めて見る俺に怖がるだろうな。



王女が邸に着く早朝、国境から鷹が飛んできた。隣国とは陸続きと山続きに面してる。山続きの方は王弟の領地に面していて比較的争いはない。たまに賊がこちら側へ入ってくるが、賊退治だから討伐すれば良いだけだ。鷹の連絡も山側だった。俺が行くまでもない案件だ。キースと数人の騎士で間に合うだろう。だが俺は向かった。

キースには小言を言われたが、俺の意に沿わない婚姻だ。王女だってこんな辺境に嫁ぎたく無かっただろう。俺が出迎えようが、イザークが出迎えようが変わらないだろう。


国境から帰って来たのは夜遅くになった。イザークに出迎えられ、王女が挨拶したいと起きて待ってると言われた。

俺は書斎で王女を待っていた。イザークに連れられ王女が部屋の中に入って来た。


第一印象は、可愛い子だなと思った。

だから余計に俺には不釣り合いだ。形だけ結婚して、隣国が落ち着いたら解放してやろう。王女なら二度目の結婚でも良い所に嫁げるだろう。白い結婚なら尚更だ。例え自分の妻にならなくても護ってみせる。


しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。 だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。 だって婚約者は私なのだから。 いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

処理中です...