辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

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私達は抱きしめ合い、お互いの体温を感じていた。

暫くしてジル様が体を離し、


「シア、これから聞く事にシアの気持ちを正直に話して欲しい」

「はい」

「シアにとって隣国から辺境へ婚姻が変わった訳だが、俺はただの貴族だ、国同士の繋がりがある訳じゃない」

「辺境と言っても同じ国ですものね。初めお父様に聞かさせた時は隣国の次は辺境ですかって思いました。ですが、私、喜んだんです」

「何故だ?この国は一夫一妻制だからか?」

「確かに一番の理由はそうです。例え政略結婚だとしても妻は私だけです」

「確かに妻は一人だが、愛人がいる者もいるだろ?」

「愛人、そうですね。王城で暮らしてると噂話として耳に入ります。貴族同士の婚姻は家同士の繋がりの為に政略結婚がほとんどですもの。お互い愛人を作り仮面夫婦の家もあります。ですが、例え始まりは政略結婚でも愛を育み仲が良い夫婦もいます」

「確かにそうだが」

「この国では愛人を邸に迎え入れて離縁になった場合、多額の慰謝料が発生します。そして愛人を作り原因を作った方には地位も剥奪され平民にさせられます。婚約中はまだ厳しくはないので、高位貴族程幼い頃から婚約、解消を繰り返します。家の為と言っても人と人ですもの、相性が合う合わないは誰にでもあります。長い婚約期間にも意味はあります。その間にお互いを受け入れる事が出来ますもの。愛を育むか諦めるか、諦め結婚したとしても愛人を容認するか、お互い愛人を持つか、自分で自分の気持ちを決められますもの」

「俺達は半年後には結婚だぞ?婚約だって短い。シアは良いのか?」

「この結婚は王命です。もし既にジル様に恋人が居た場合、ジル様と恋人様には申し訳無いのですが、恋人様には諦めて頂くか愛人になって頂くほかありませんでした。その時はその事実を受け入れ、私の気持ちで結婚生活を諦めるつもりでした。ですから、お父様から話を聞いた時、王命を断る事が出来ないジル様がお気の毒だと思いました。反対にジル様はこの結婚はどう思いました?」

「俺は、王命が届いた時、正直、ふざけるなと思った。前に第一王女との婚約の打診が合った時は父上が亡くなって家督を継いだばかりだったからな。婚約なんてする余裕もなかったし。まぁあれは帝国に嫁にやりたくない国王がとりあえず形だけ打診しただけだったけどな。結局それを知った帝国の皇子が奪う様に連れ去ったけど。で、今度は第二王女かよってな」

「そうでしたか」

「今回は王命で届いたから形だけじゃない事くらい分かっていたし、隣国の情報も入っていたしな。まぁ、恋人は居ないし、結婚もいずれはって思ってた所だったからな、受け入れた。俺はシアの方が気の毒と思っていたよ。辺境は何もないしな。それに危険と隣り合わせだ。おまけに俺は見目が良い方じゃない、傷だらけだ。それに、十も歳上だしな。そんな所に嫁ぐ事になって可哀想にって。俺が王命ならシアも王命だろうなって思ってたし」

「辺境が危険と隣り合わせは分かっていた事ですし、私、ちょっと楽しみでした。自然に触れ合える事が出来るのかもと。それに、見目とかは知りませんでしたし、年の差も気になりませんでした。十も歳下だと、ジル様の方がお相手として嫌がると思いました。私はまだ小娘です、ジル様は大人の男性ですもの」

「発展途上なんだろ?」

「確かにそうですが」

「年の差は俺も気にならなかった。貴族なら当たり前だろ?」

「確かにそうですね」

「シアと顔を合わせた時、正直、可愛いなと思った。だからこそこんな俺に嫁ぐのは可哀想と思った」

「可愛いと思って下さったの?」

「当たり前だろ、シアは可愛い」

「嬉しいです。私も初めてお会いして、とても素敵な方だなと思いました」

「本当にか?」

「本当です。だからこそ愛し愛される関係になりたいと思いました」

「まだ会って数日だが、シアをもう手放せない」

「私もジル様の事、もう手放せません。ジル様の優しい手も、この体温も、まだ恥ずかしいですけど、嬉しいのです。このネックレスも触るとジル様をおもい浮かべます」

「だから握ってるのか?」

「恥ずかしいです。でも、不安な時とか握ると安心出来ます。それに触れてると恥ずかしいですけど、心が温まります。ジル様に護られているような、私のお守りです」

「シア」


ジル様は私を抱きしめ、私もジル様を抱きしめました。


「こうして居ると恥ずかしいのですが、とても安心します」

「俺もだ」

「同じですね」

「あぁ。シア、好きだ」

「ジル様、私もジル様の事が好きです」


ジル様はそっと離れて私の口を指で撫で、


「シア、口付けは早いだろうか?」

「恥ずかしいです。私の口からは言えません」

「嫌か?」


私は顔を横に振りました。

ジル様の唇と私の唇が重なりました。触れるだけの口付けでしたが、とても幸せな気持ちになりました。


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