辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

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ジルベーク様とキース様は気心が知れているみたいで、仲が良いみたい。


「あの、私も馬に乗れた方が良いでしょうか」

「乗れなくても構わないが、乗った事はあるのか?」

「いえ、一度もありません」

「一度も無いのか…。万が一の時はここから逃げてもらう事もあるかも知れないが、逃げる時が初めてだと怖い思いをさせるだろうな。一度乗っておいた方が良いだろう」

「はい。その方が私も安心です」

「ならジルに乗せてもらうと良いよ」

「おい、キース」

「ジルベーク様、お願い出来ますでしょうか」

「構わないが…」

「ではお願いしますね。後、私も一人で乗れる様になりたいのですが…」

「一人では難しいぞ?」

「ですが、お父様に馬を頂いて…。多分ですがこちらで乗れと言う事かと…」

「確かに馬がいたな」

「はい。最悪、騎士隊のどなたかに使って頂いても構いませんので」

「いや、国王陛下から頂いた馬なのだろう?貴女に用意した馬だ。追々練習しよう」

「はい。ですが、もし乗れなかった時はどなたかにお譲りして下さい」

「その時考えよう」

「馬もそうですが、私も剣が扱えた方がよろしいでしょうか」

「は?何を言っている」

「ですが、辺境の地は争いが絶えない地と聞いています。それに、隣国の王子と私の婚約が無くなった今、今以上に争いがおこります」

「だろうな。元々この地が欲しくて侵略しようとしていた所に頼みの綱の婚約が無くなり、あちらは侵略しか選択肢がなくなったからな」

「この地が奪えないと分かれば私を攫ってでも交渉するでしょう。だからこそ私が足手まといになる訳にはいかないのです。多少でも剣が使えたなら抵抗する事も出来ると思うのですが」

「馬鹿な事を言うな! 貴女は我々騎士に護られていれば良いんだ」

「王都の騎士ならば我々王族を護る剣にも盾にもなるでしょう。それが王都の騎士の努めです。ですが辺境の騎士は違います。国境を護るのが辺境の騎士の努めです。私の命を護る為の力ではありません」

「貴女は辺境伯婦人になるんだ。護るべき命に変わりない」

「分かりました。ですが、お願いがあります。この先、武力行使され、戦況が思わしくない場合、領民と領土を護る為にも私を隣国へお渡し下さい」

「何を馬鹿な事を」

「いえ、馬鹿な事ではありません。騎士の命を軽くみている訳ではありませんが、騎士には戦う力があります。又、最悪、戦で命を落したとしても名誉と残された遺族が十分に暮らせるだけの慰安金が貰えます。ですが、領民は戦う術も力もありません。例え、領民が戦で命を落としても残された遺族には見舞金程度しか貰えないのです。 それに、戦地になった土地では作物は育ちません。作物が育つ地になるには何年、何十年と掛かります。この地に住まう領民にとって田や畑は財産であり宝です。今迄は国境付近での争いで済んでいましたが、この先、この地も戦地になるかも知れません。ですから、領民と領地を護る為にも、私を隣国へ引き渡して欲しいのです」

「何を…」

「私はこの国の王女です。隣国に嫁ぎ見せしめの様に殺されるか、この国の民の為に命を落とすか、ならば私はこの国の民の為に命を落としたいと思います」

「貴女が命を落とさずとも…」

「いえ、隣国が武力行使に出たとしたら、国と国、陛下との話し合いが破綻したと言う事です」

「そうだが…。 貴女が犠牲になる必要はないと俺は思う」

「ジル、お前が王女殿下を命懸けで護れば済む話じゃないか」

「キース、簡単に言うな! 俺は前線で戦うんだぞ!」

「だから、その前線でくい止めれば済むって話だろ?領民達まで被害が及ばなければ王女殿下は命を捨てずに済むだろ?」

「キース様、勿論、騎士達に危険が及ぶなら、いつでも引き渡して頂いて結構です」

「いやいや、王女殿下、我々騎士は戦で命を落とす事は覚悟出来ています。命を落とさない為にも日々訓練して鍛えているんです」

「はい。分かっています。私も国の為、民の為に己の命を差し出す覚悟は幼い頃から持っています。ですからその時が来たら、迷わず引き渡して下さい」

「その話は保留だ!まだ戦が起きた訳ではない」

「そうですね」


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