辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
8 / 60

8.

しおりを挟む

ジルベーク様とキース様は気心が知れているみたいで、仲が良いみたい。


「あの、私も馬に乗れた方が良いでしょうか」

「乗れなくても構わないが、乗った事はあるのか?」

「いえ、一度もありません」

「一度も無いのか…。万が一の時はここから逃げてもらう事もあるかも知れないが、逃げる時が初めてだと怖い思いをさせるだろうな。一度乗っておいた方が良いだろう」

「はい。その方が私も安心です」

「ならジルに乗せてもらうと良いよ」

「おい、キース」

「ジルベーク様、お願い出来ますでしょうか」

「構わないが…」

「ではお願いしますね。後、私も一人で乗れる様になりたいのですが…」

「一人では難しいぞ?」

「ですが、お父様に馬を頂いて…。多分ですがこちらで乗れと言う事かと…」

「確かに馬がいたな」

「はい。最悪、騎士隊のどなたかに使って頂いても構いませんので」

「いや、国王陛下から頂いた馬なのだろう?貴女に用意した馬だ。追々練習しよう」

「はい。ですが、もし乗れなかった時はどなたかにお譲りして下さい」

「その時考えよう」

「馬もそうですが、私も剣が扱えた方がよろしいでしょうか」

「は?何を言っている」

「ですが、辺境の地は争いが絶えない地と聞いています。それに、隣国の王子と私の婚約が無くなった今、今以上に争いがおこります」

「だろうな。元々この地が欲しくて侵略しようとしていた所に頼みの綱の婚約が無くなり、あちらは侵略しか選択肢がなくなったからな」

「この地が奪えないと分かれば私を攫ってでも交渉するでしょう。だからこそ私が足手まといになる訳にはいかないのです。多少でも剣が使えたなら抵抗する事も出来ると思うのですが」

「馬鹿な事を言うな! 貴女は我々騎士に護られていれば良いんだ」

「王都の騎士ならば我々王族を護る剣にも盾にもなるでしょう。それが王都の騎士の努めです。ですが辺境の騎士は違います。国境を護るのが辺境の騎士の努めです。私の命を護る為の力ではありません」

「貴女は辺境伯婦人になるんだ。護るべき命に変わりない」

「分かりました。ですが、お願いがあります。この先、武力行使され、戦況が思わしくない場合、領民と領土を護る為にも私を隣国へお渡し下さい」

「何を馬鹿な事を」

「いえ、馬鹿な事ではありません。騎士の命を軽くみている訳ではありませんが、騎士には戦う力があります。又、最悪、戦で命を落したとしても名誉と残された遺族が十分に暮らせるだけの慰安金が貰えます。ですが、領民は戦う術も力もありません。例え、領民が戦で命を落としても残された遺族には見舞金程度しか貰えないのです。 それに、戦地になった土地では作物は育ちません。作物が育つ地になるには何年、何十年と掛かります。この地に住まう領民にとって田や畑は財産であり宝です。今迄は国境付近での争いで済んでいましたが、この先、この地も戦地になるかも知れません。ですから、領民と領地を護る為にも、私を隣国へ引き渡して欲しいのです」

「何を…」

「私はこの国の王女です。隣国に嫁ぎ見せしめの様に殺されるか、この国の民の為に命を落とすか、ならば私はこの国の民の為に命を落としたいと思います」

「貴女が命を落とさずとも…」

「いえ、隣国が武力行使に出たとしたら、国と国、陛下との話し合いが破綻したと言う事です」

「そうだが…。 貴女が犠牲になる必要はないと俺は思う」

「ジル、お前が王女殿下を命懸けで護れば済む話じゃないか」

「キース、簡単に言うな! 俺は前線で戦うんだぞ!」

「だから、その前線でくい止めれば済むって話だろ?領民達まで被害が及ばなければ王女殿下は命を捨てずに済むだろ?」

「キース様、勿論、騎士達に危険が及ぶなら、いつでも引き渡して頂いて結構です」

「いやいや、王女殿下、我々騎士は戦で命を落とす事は覚悟出来ています。命を落とさない為にも日々訓練して鍛えているんです」

「はい。分かっています。私も国の為、民の為に己の命を差し出す覚悟は幼い頃から持っています。ですからその時が来たら、迷わず引き渡して下さい」

「その話は保留だ!まだ戦が起きた訳ではない」

「そうですね」


しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。 だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。 だって婚約者は私なのだから。 いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

処理中です...