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しおりを挟む馬車が見えなくなるまで手を振り続けた私の頬には涙が伝い、止まる事は無かった。
私は見えなくなった馬車が行った先をずっと見つめていた。
「アリシア王女殿下、邸の中に入りましょう」
私は涙を拭い、振り返った。
イザークとケイトが少し離れた所に待っていてくれたわ。
「イザーク、ケイト、ごめんなさい。お待たせしたわね」
「構いません」
「後、私の事はアリシアと呼んで欲しいわ」
「よろしいのですか?」
「ええ。これから一緒に暮らすのよ。それに私はジルベーク様に嫁ぐのだから」
「それでは、アリシアお嬢様、遅くなりましたが昼食に致しましょう」
「そうね」
「食堂とお部屋どちらで食べられますか?」
「まだ、ジルベーク様にご挨拶もしてないから部屋で頂くわ。いいかしら」
「はい。ではお部屋で準備させて頂きます」
私はケイトに部屋まで案内されて、部屋で昼食を食べた。 昼食後、疲れが出たのか寝てしまい、夕食の時間にケイトに起こしてもらったの。夕食を部屋で取り、ジルベーク様が帰って来るのを本を読みながら待っていた。
夜遅くジルベーク様が帰って来たらしく、イザークが部屋に知らせに来てくれ、イザークと共にジルベーク様が待つ書斎まで行ったわ。
トントン
「ジルベーク様、アリシア王女殿下がおみえになりました」
「入ってくれ」
イザークが扉を開けてくれ、私は部屋の中に入った。
机の前に立っている男性、ジルベーク様にカーテシーをしてから、
「ジルベーク様、ご機嫌麗しゅう存じます。お初にお目にかかります、第二王女、アリシアと申します。これからよろしくお願いします」
「アリシア王女殿下、本日は出迎える事が出来ず申し訳なかった。私はジルベーク。こちらこそよろしく頼む。道中大変だっただろう。今日はゆっくり体を休めて、明日ゆっくり話をしよう」
「はい。ジルベーク様もお疲れの所、申し訳ありませんでした。それでは明日。おやすみなさいませ」
私は部屋の外で待っていてくれたケイトと部屋へ向かった。
アリシア王女が出て行った後の書斎でジルベークとイザークは話をしていた。
「イザーク、今日はすまなかった」
「いえいえ。国境付近はどうでしたか?」
「ああ、隣国から来た輩がこちらに入って来ていた」
「そうですか。やはりアリシア王女を狙ってでしょうか」
「まだ分からない。だが、警戒はしないとな。あっちは今、国が荒れてるからな。盗賊の類いかもしれん。今は牢屋で監視中だ」
「そうですか。ですが、今日はキース殿に任せて貴方はこちらに残るべきでした」
「やはりそうか。すまない。何か王女は言っていたか?」
「王女殿下は何も。大事な仕事だから気にしないと。ですが、一人で残る王女殿下の心情もさる事ながら、メイド達が帰る時、皆泣いていました。メイド達は貴方に睨まれようと邪険にされようと、もしこの先、命を落とす事になってもここに残りたいと言っていたと、そうケイトが言っていました。
王女殿下が宥め、メイド達は渋々帰りましたが、馬車が見えなくなっても王女殿下はずっと見つめていました。こちらに着いた時も王女殿下もメイド達も目を真っ赤にして、気丈に振る舞っていました。貴方はメイド一人連れて来るなと言いましたが、それがどういう意味かお分かりですか?」
「どういう意味だ?」
「親元を離れ初めてくる土地で、周りには知り合いはいない。気心の知れたメイドもいない。そんな中に一人残された王女殿下の気持ちが分かりますか?」
「ッ、そうだな」
「当分の間、騎士隊の方はキース殿に頼んで、王女殿下との時間をお作り下さい。頼れるのはもう貴方しかいないんですよ。王女殿下の心に寄り添う努力をして下さい」
「分かってる。だが…」
「ジルベーク様、王女殿下の身も心もお護り下さい。まだ16歳の少女です」
「分かっている」
「王女殿下は当主婦人の部屋に案内しました。明日は朝食を一緒に取り、使用人との顔合わせ、邸の案内をして差し上げるのがよろしいかと」
「分かった」
「では、私はこれで失礼します」
「ああ、遅くまですまない。後、ケイトに頼むと伝えてくれ」
「分かりました」
一人になったジルベークはソファーに腰掛け、溜息をついた。
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