5 / 60
5.
しおりを挟む馬車が見えなくなるまで手を振り続けた私の頬には涙が伝い、止まる事は無かった。
私は見えなくなった馬車が行った先をずっと見つめていた。
「アリシア王女殿下、邸の中に入りましょう」
私は涙を拭い、振り返った。
イザークとケイトが少し離れた所に待っていてくれたわ。
「イザーク、ケイト、ごめんなさい。お待たせしたわね」
「構いません」
「後、私の事はアリシアと呼んで欲しいわ」
「よろしいのですか?」
「ええ。これから一緒に暮らすのよ。それに私はジルベーク様に嫁ぐのだから」
「それでは、アリシアお嬢様、遅くなりましたが昼食に致しましょう」
「そうね」
「食堂とお部屋どちらで食べられますか?」
「まだ、ジルベーク様にご挨拶もしてないから部屋で頂くわ。いいかしら」
「はい。ではお部屋で準備させて頂きます」
私はケイトに部屋まで案内されて、部屋で昼食を食べた。 昼食後、疲れが出たのか寝てしまい、夕食の時間にケイトに起こしてもらったの。夕食を部屋で取り、ジルベーク様が帰って来るのを本を読みながら待っていた。
夜遅くジルベーク様が帰って来たらしく、イザークが部屋に知らせに来てくれ、イザークと共にジルベーク様が待つ書斎まで行ったわ。
トントン
「ジルベーク様、アリシア王女殿下がおみえになりました」
「入ってくれ」
イザークが扉を開けてくれ、私は部屋の中に入った。
机の前に立っている男性、ジルベーク様にカーテシーをしてから、
「ジルベーク様、ご機嫌麗しゅう存じます。お初にお目にかかります、第二王女、アリシアと申します。これからよろしくお願いします」
「アリシア王女殿下、本日は出迎える事が出来ず申し訳なかった。私はジルベーク。こちらこそよろしく頼む。道中大変だっただろう。今日はゆっくり体を休めて、明日ゆっくり話をしよう」
「はい。ジルベーク様もお疲れの所、申し訳ありませんでした。それでは明日。おやすみなさいませ」
私は部屋の外で待っていてくれたケイトと部屋へ向かった。
アリシア王女が出て行った後の書斎でジルベークとイザークは話をしていた。
「イザーク、今日はすまなかった」
「いえいえ。国境付近はどうでしたか?」
「ああ、隣国から来た輩がこちらに入って来ていた」
「そうですか。やはりアリシア王女を狙ってでしょうか」
「まだ分からない。だが、警戒はしないとな。あっちは今、国が荒れてるからな。盗賊の類いかもしれん。今は牢屋で監視中だ」
「そうですか。ですが、今日はキース殿に任せて貴方はこちらに残るべきでした」
「やはりそうか。すまない。何か王女は言っていたか?」
「王女殿下は何も。大事な仕事だから気にしないと。ですが、一人で残る王女殿下の心情もさる事ながら、メイド達が帰る時、皆泣いていました。メイド達は貴方に睨まれようと邪険にされようと、もしこの先、命を落とす事になってもここに残りたいと言っていたと、そうケイトが言っていました。
王女殿下が宥め、メイド達は渋々帰りましたが、馬車が見えなくなっても王女殿下はずっと見つめていました。こちらに着いた時も王女殿下もメイド達も目を真っ赤にして、気丈に振る舞っていました。貴方はメイド一人連れて来るなと言いましたが、それがどういう意味かお分かりですか?」
「どういう意味だ?」
「親元を離れ初めてくる土地で、周りには知り合いはいない。気心の知れたメイドもいない。そんな中に一人残された王女殿下の気持ちが分かりますか?」
「ッ、そうだな」
「当分の間、騎士隊の方はキース殿に頼んで、王女殿下との時間をお作り下さい。頼れるのはもう貴方しかいないんですよ。王女殿下の心に寄り添う努力をして下さい」
「分かってる。だが…」
「ジルベーク様、王女殿下の身も心もお護り下さい。まだ16歳の少女です」
「分かっている」
「王女殿下は当主婦人の部屋に案内しました。明日は朝食を一緒に取り、使用人との顔合わせ、邸の案内をして差し上げるのがよろしいかと」
「分かった」
「では、私はこれで失礼します」
「ああ、遅くまですまない。後、ケイトに頼むと伝えてくれ」
「分かりました」
一人になったジルベークはソファーに腰掛け、溜息をついた。
80
お気に入りに追加
2,141
あなたにおすすめの小説
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている
黎
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる