50 / 63
49
しおりを挟む「嫌ーーーーー!ーーーーー!」
エティーシアの声が聞こえた気がして部屋へ急いで向かう。
バタン
「何の騒ぎだ!」
目の前にはガタガタと震えるお前の姿。
そして、
……………………
「テシー!急いで医師を呼べ!早くしろ!」
テシーが血だらけで横たわっていた。
「誰が、誰が!テシーにこのようなまねを!!」
私は怒気を纏った。
血の付いた剣を持つ騎士を睨む。
「お前!!今すぐ殺してやる!!」
「殿下、お待ち下さいませ。わたくしの護衛ですわ」
「だから何だと言うんだ!」
あれだけ部屋には入るなと、口出しするなと言ってあったのに、勝手に部屋に入り、エティーシアを傷つけ、
テシーを、
テシーを、
殺した。
「早く出て行け!お前が婚約者を辞めようが止めはしない、勝手にしろ。だがな、まだ婚約者でいると言うのなら今後この女に近寄るな!」
婚約者と騎士、メイドが出て行き、
「テシー、すまない。テシー………」
私はテシーを抱きかかえた。
「テシー……………」
幼馴染みであり、妹のように、友のように、いつも私を側で支えてくれていた。
エティーシアの事もずっと気にかけてくれていて、エティーシアが過ごしやすいように、私がどれだけ乱暴に扱ってもテシーだけは優しくエティーシアに接してくれていた。
エティーシアの笑い声を聞けたのもテシーのおかげだ。
エティーシアと一緒に食事を食べるようになれたのもテシーのおかげだ。
そもそも私自身の気持ちを気づかせてくれたのもテシーだ。
テシー
テシー
テシーがいて初めて繋がるものしかここにはない
テシーがいなければ
誰が私を止める
誰が私を叱る
テシーがいなければ
誰がエティーシアの心を護る
誰がエティーシアの気持ちに寄り添う
テシー
テシー
すまない
すまない
すまない………
テシーの死はエティーシアに暗い影を落とした。
毎日贈る花を飾ってくれなくなった。
誰かと会話をする話し声を聞かなくなった。
誰かと会話し笑った声を聞かなくなった。
ベッドの脇にある花瓶にはテシーが活けた花が、もう枯れた花がいつまでも飾ってある。それもいつしかゴミ箱に捨てられていた。
そうか
私は
お前の
大切なものを
全て奪い
殺す
両親を
兄上様を
お兄様を
テシーを
お前から奪い
殺した
そうか
私は
お前の
憎むべき相手
どこまでいっても
優しく抱いても
一緒に食事をしても
会話をしても
私は
お前の
憎むべき相手…
すまない、
すまない、
すまない……
いつものように朝食を一緒にとり私は政務をする為に部屋を出る。
ガタン
大きな音が部屋からして急いで部屋の中に入る。
喉を抑え倒れているエティーシアに駆け寄り、エティーシアを胸に抱く。
「おい!どうした!」
エティーシアはずっと、
「ゔぅ…ゔぅ……ゔぅぅ…………」
喉を押さえ唸っている。
何かが詰まった感じではない。なら答えは一つしかない。
毒だ!
誰が!
誰が!
誰が毒を!
「どうしてだ!なぜだ!誰が毒を盛った!お願いだ死なないでくれ!お願いだ目を開けてくれ!」
「シア!しっかりしろ!」
嫌だ!
嫌だ!
嫌だ!!
エティーシアを
失えば
私は
俺は……
「愛してる」
言葉にはしないと誓った。
それでも、
言葉にしなければ
今、言葉にしなければ
もう一生
伝える事はできないと
最後は私の気持ちを
エティーシアの気持ちではなく
私の気持ちを
私は
取った。
「愛してる。俺は愛してしまったんだ。俺はシアを愛してしまったんだ。
なぁ、俺を残して死ぬな。俺を一人にしないでくれ。お前は俺のだろ?
なぁ、なぁ、シア、俺を残して死ぬな、シア、死ぬな…、お前が死んだら俺はどうすればいい……」
私の頬を涙が伝う。
「シア、来世も必ずお前を愛す。だから来世はお前も俺を愛してくれ。シア愛してる、シア愛してる、シア…シア………」
「……ルー………………………………」
エティーシアの消えそうなか細い声が聞こえた。
ルー
ルーベンのルーなのか?
私の名を
呼んでくれたのか?
なぁ
なぁ
エティーシア
答えてくれ
なぁ………
「毒を盛ったのは誰だ!シアに毒を盛った奴を今直ぐ殺せ!」
私は胸に抱くエティーシアを見つめ、頭を、頬を、優しく撫でる。
エティーシアの手がダランと落ちた。
「シア、シア、シアーーーーー」
シア愛してる。
来世で必ず、
来世では必ず、
憎むべき相手として出会うのではなく愛する人として出会おう。
そして、堂々とお前を愛したい。
神様が本当にいるのなら、
お願いだ、
お願いだ、
来世でもエティーシアと出会わせてくれ。
来世でもエティーシアを愛させてくれ。
お願いだ……
私は死んでもお前を離す事は出来ない
お前を一人にはさせない
私達はいつも一緒だ
お前だけを
お前だけを一人にはさせない
腰にある剣を鞘から抜き、
「シア、待っていろ。シアだけに辛い思いはさせない」
シア愛してる
心臓を一突きした。
11
お気に入りに追加
658
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
年上の夫と私
ハチ助
恋愛
【あらすじ】二ヶ月後に婚礼を控えている伯爵令嬢のブローディアは、生まれてすぐに交わされた婚約17年目にして、一度も顔合わせをした事がない10歳も年の離れた婚約者のノティスから、婚礼準備と花嫁修業を行う目的で屋敷に招かれる。しかし国外外交をメインで担っているノティスは、顔合わせ後はその日の内に隣国へ発たなたなければならず、更に婚礼までの二カ月間は帰国出来ないらしい。やっと初対面を果たした温和な雰囲気の年上な婚約者から、その事を申し訳なさそうに告げられたブローディアだが、その状況を使用人達との関係醸成に集中出来る好機として捉える。同時に17年間、故意ではなかったにしろ、婚約者である自分との面会を先送りして来たノティスをこの二カ月間の成果で、見返してやろうと計画し始めたのだが……。【全24話で完結済】
※1:この話は筆者の別作品『小さな殿下と私』の主人公セレティーナの親友ブローディアが主役のスピンオフ作品になります。
※2:作中に明らかに事後(R18)を彷彿させる展開と会話があります。苦手な方はご注意を!
(作者的にはR15ギリギリという判断です)
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる