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付きまとわれて迷惑です
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侍女の仕事を終え、邸の直ぐ隣にある使用人の宿舎へ戻ります。
「ガネット」
突然声をかけられ、
「どの用なご用でしょう。出来れば声をかけてほしくないのですが」
「どうしてそんな事を言うんだ」
「私と貴方様はもう他人です」
「他人なんて言わないでくれ。俺は今でもガネットを愛してる。俺の妻はガネットだけだ」
「止めて下さい」
「お願いだ、信じてくれ。俺が愛してるのはガネットだけだ」
「貴方様の何を信じろと?」
「確かにガネットに不誠実な事をした。俺はクズ以下だ。それでも俺の気持ちは嘘偽りない」
「貴方様の愛してる程信じられないものはありません。もう待ち伏せはお止めください」
次の日も、
「ガネット」
私は無視して宿舎に入りました。
次の日も次の日も毎日声を掛けられます。
一人で遅めの昼食をしていた時です。
「ガネットちゃん何か疲れた顔してるけど大丈夫?」
「まあ」
「これでも飲みなよ」
「ありがとうございます」
ハルク様は温かいハーブティーをくださいました。
「どうしたの?優しいお兄さんが聞いてあげよう」
「結構です」
「まあ俺も噂で聞いてるんだけどね」
「噂ですか?」
「騎士達の間では有名だよ?傭兵がメイドに手を出してるって」
「はあ、」
「あっ、ちなみに傭兵は君の元旦那ね?そんでもってメイドが君」
「え?私はメイドではありませんよ」
「騎士達には侍女もメイドも分からないよ~。邸で働く女性は全員メイドなんだからさ」
「そうですか」
「君の元旦那、親父さんに剣を折られて騎士剥奪になったのは知ってる?」
「え?知りません!」
「今は傭兵や商人の護衛とか転々としてるらしいよ。この辺境も1年間だけの契約だしね。で、残り少なくなってきたから君に毎日会いに行ってるんだよ?知らなかった?」
「知りませんでした」
「そっか。で、君はどうしたい?」
「どうとは」
「嫌ね、契約を伸ばす事も出来るよ?」
「それには及びません」
「そう言うと思ったよ」
「残り少ないと言うのなら、それからは顔を合わせる事もないので」
「ならこのままにしておくの?」
「何が言いたいのです?」
「嫌ね~、元旦那に文句の一つでも言ってやればいいのにな~って」
「まあそうですね」
「あ!俺の剣貸す?」
「馬鹿な事言わないで下さい。何もしないが一番です」
「ま!それが一番か」
その日の帰りも、
「ガネット聞いてくれ」
私はケイザック様を少し睨み宿舎に入りました。
次の日、
「ガネットお願いだ、聞いてくれ。俺はもう明日には契約が切れる、これが最後なんだ。お願いだガネット、俺の話を聞いてほしい」
「………」
「ガネットお願いだ、最後に話だけ聞いてほしい」
「…………」
「ガネットお願いだ、頼む」
「はぁぁ。分かりました。最後にお話しだけお聞きします」
「本当か?あぁ、ありがとうガネット。ありがとう、本当にありがとう」
「それでお話しとは?」
「今日はもう仕事終わりだよな?」
「ええ」
ケイザック様は私の手を引いて何処かへ連れて行くおつもりです。私は手を離そうとしましたが、余りに強く握られている為に手を離す事が出来ませんでした。
最後に話を聞くと言ったのは私です。それに手紙で勝手に終わらせたのも私です。最後に話を聞くぐらい仕方がない事です。手を離すのを諦めた私は仕方なくケイザック様に引かれるまま辺境の要塞の塀に連れて来られました。
そこからは夕日がさしており、
「綺麗」
思わず声が出てしまいました。
「だろ?ガネットに見せたかったんだ。俺はいつもこの夕日を見てガネットに見せたい、ガネットなら綺麗だと思うだろう、ガネットと一緒に見たいってずっと思ってた」
「………」
私達はただ何も言わず夕日を眺めていました。夕日が少しづつ沈んでいき、段々と薄暗くなっていきます。まるで私の心の中のようです。
「ケイザック様、お話しがないのであれば」
「もう少しだけ待ってくれ」
「分かりました、本当にあと少しだけですよ」
「ガネット見てごらん」
私はケイザック様が指差す方を見ました。
「夕日が落ちて暗くなると段々と家に灯りが灯る」
「ええ」
「あの灯りの中では家族仲良く暮らしている」
「ええ」
「俺達もそうだった」
「………」
「嫌、俺が壊した。俺は毎日ここから一軒一軒灯りが灯るのを見ながら自分がした過ちを後悔した。地位や名誉なんていらなかったんだ。俺はガネットの為に地位や名誉を欲した。ガネットの噂話をさせない為に、噂通りの女性ではないと周りに示す為に」
「私はそんな事望んでいません」
「ああ。ガネットは望んでない、俺が望んだだけだ。ガネットが内助の功で助け俺を支えてくれたから俺が地位を得られたと、ガネットのお陰なのだと、俺が望んだんだ」
「ガネット」
突然声をかけられ、
「どの用なご用でしょう。出来れば声をかけてほしくないのですが」
「どうしてそんな事を言うんだ」
「私と貴方様はもう他人です」
「他人なんて言わないでくれ。俺は今でもガネットを愛してる。俺の妻はガネットだけだ」
「止めて下さい」
「お願いだ、信じてくれ。俺が愛してるのはガネットだけだ」
「貴方様の何を信じろと?」
「確かにガネットに不誠実な事をした。俺はクズ以下だ。それでも俺の気持ちは嘘偽りない」
「貴方様の愛してる程信じられないものはありません。もう待ち伏せはお止めください」
次の日も、
「ガネット」
私は無視して宿舎に入りました。
次の日も次の日も毎日声を掛けられます。
一人で遅めの昼食をしていた時です。
「ガネットちゃん何か疲れた顔してるけど大丈夫?」
「まあ」
「これでも飲みなよ」
「ありがとうございます」
ハルク様は温かいハーブティーをくださいました。
「どうしたの?優しいお兄さんが聞いてあげよう」
「結構です」
「まあ俺も噂で聞いてるんだけどね」
「噂ですか?」
「騎士達の間では有名だよ?傭兵がメイドに手を出してるって」
「はあ、」
「あっ、ちなみに傭兵は君の元旦那ね?そんでもってメイドが君」
「え?私はメイドではありませんよ」
「騎士達には侍女もメイドも分からないよ~。邸で働く女性は全員メイドなんだからさ」
「そうですか」
「君の元旦那、親父さんに剣を折られて騎士剥奪になったのは知ってる?」
「え?知りません!」
「今は傭兵や商人の護衛とか転々としてるらしいよ。この辺境も1年間だけの契約だしね。で、残り少なくなってきたから君に毎日会いに行ってるんだよ?知らなかった?」
「知りませんでした」
「そっか。で、君はどうしたい?」
「どうとは」
「嫌ね、契約を伸ばす事も出来るよ?」
「それには及びません」
「そう言うと思ったよ」
「残り少ないと言うのなら、それからは顔を合わせる事もないので」
「ならこのままにしておくの?」
「何が言いたいのです?」
「嫌ね~、元旦那に文句の一つでも言ってやればいいのにな~って」
「まあそうですね」
「あ!俺の剣貸す?」
「馬鹿な事言わないで下さい。何もしないが一番です」
「ま!それが一番か」
その日の帰りも、
「ガネット聞いてくれ」
私はケイザック様を少し睨み宿舎に入りました。
次の日、
「ガネットお願いだ、聞いてくれ。俺はもう明日には契約が切れる、これが最後なんだ。お願いだガネット、俺の話を聞いてほしい」
「………」
「ガネットお願いだ、最後に話だけ聞いてほしい」
「…………」
「ガネットお願いだ、頼む」
「はぁぁ。分かりました。最後にお話しだけお聞きします」
「本当か?あぁ、ありがとうガネット。ありがとう、本当にありがとう」
「それでお話しとは?」
「今日はもう仕事終わりだよな?」
「ええ」
ケイザック様は私の手を引いて何処かへ連れて行くおつもりです。私は手を離そうとしましたが、余りに強く握られている為に手を離す事が出来ませんでした。
最後に話を聞くと言ったのは私です。それに手紙で勝手に終わらせたのも私です。最後に話を聞くぐらい仕方がない事です。手を離すのを諦めた私は仕方なくケイザック様に引かれるまま辺境の要塞の塀に連れて来られました。
そこからは夕日がさしており、
「綺麗」
思わず声が出てしまいました。
「だろ?ガネットに見せたかったんだ。俺はいつもこの夕日を見てガネットに見せたい、ガネットなら綺麗だと思うだろう、ガネットと一緒に見たいってずっと思ってた」
「………」
私達はただ何も言わず夕日を眺めていました。夕日が少しづつ沈んでいき、段々と薄暗くなっていきます。まるで私の心の中のようです。
「ケイザック様、お話しがないのであれば」
「もう少しだけ待ってくれ」
「分かりました、本当にあと少しだけですよ」
「ガネット見てごらん」
私はケイザック様が指差す方を見ました。
「夕日が落ちて暗くなると段々と家に灯りが灯る」
「ええ」
「あの灯りの中では家族仲良く暮らしている」
「ええ」
「俺達もそうだった」
「………」
「嫌、俺が壊した。俺は毎日ここから一軒一軒灯りが灯るのを見ながら自分がした過ちを後悔した。地位や名誉なんていらなかったんだ。俺はガネットの為に地位や名誉を欲した。ガネットの噂話をさせない為に、噂通りの女性ではないと周りに示す為に」
「私はそんな事望んでいません」
「ああ。ガネットは望んでない、俺が望んだだけだ。ガネットが内助の功で助け俺を支えてくれたから俺が地位を得られたと、ガネットのお陰なのだと、俺が望んだんだ」
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