上 下
5 / 61

しおりを挟む
 一週間の外出禁止がとけ、今日からまた騎士団へ通える様になった。


「レイ、やっとよ。今日こそ会えるかしら」

「どうでしょう」


 騎士団の練習場近くに馬車が着き、練習場まで歩いていると令嬢の黄色い声援が聞こえ、


「今日も凄いわね」

「そうですね。今日は人数もいつもより多い気がします」

「本当ね」


 私は令嬢の後ろから眺める。


「今日は近衛隊の方々も来てるわよ。やっぱり近衛隊の方々は騎士団の騎士とは違うわね。まず見目が違うわ。美しい人しか居ないもの。それにあの身体付き。細いのに逞しいって素敵よね」


 令嬢の話に耳を傾ける。


「レイ、今日は近衛隊の騎士の方が来てるって。ジークルト様かしら」

「ここからでは見えませんね」

「そうなのよ」


 レイと小声で話していた。


「キャー、ジークルト様よ~。ジークルト様~」

「キャー、素敵ね~」


 令嬢の黄色い声援。


「レイ、ジークルト様って」

「はい。確かに」

「見えないわ」


 令嬢の人数が多くて見えない。


「ジークルト様って未だに独身でしょ?何でも王女殿下の事が幼い頃から好きらしいの。ジークルト様って公爵令息じゃない?王族のご友人として幼い頃から王宮に出入りしてて、王女殿下に一目惚れしたらしいわ」

「王太子殿下とジークルト様は幼馴染みですものね」

「公爵令息って言っても次男だから、王女殿下を娶るには身分が無いし、だからお側で護れる護衛騎士になったって聞いたわ。今では王女殿下付きの近衛隊の副隊長ですもの」

「王女殿下もジークルト様の事を好きらしいけど、身分違いで諦めるしかないけど、諦められないからお側に置いたんでしょ?」

「王女殿下って確か隣国の王子と近々婚約するって噂を聞きましたわ」

「ジークルト様はどうなさるのかしらね」

「王女殿下が隣国へ行っても独身を通すって聞きましたわ。生涯慕う人以外とは婚約しないと話していたと」

「ジークルト様に婚約を打診しても断られ続けるから今ではもう婚約を打診する令嬢が居ないと。それに令息として出席なさる夜会でもダンスは誰一人踊られないとか」

「まあ。王女殿下以外踊らないと言う事かしらね」


 令嬢の話を聞いて、


「レイ、もう帰りましょう」

「お嬢様、ジークルト様を一目見に来たのではないのですか?」

「そうだけど、令嬢の話聞いてたら私なんか相手にされ無いって分かったから、もう良いの」

「お嬢様…」


 ギルとニックの所に行き、馬車が停めてある所まで歩き出した時、


「キャー、ジークルト様がこっちを見たわ」


 私は振り返り、ジークルト様と目が合った。


【 ドクン 】


 自然と涙が溢れ、足早に馬車まで向かい、馬車の中で1人泣いた。


「目が合ったと思ったけど、私なんかと目が合うわけないのよ。でもやっぱり恋だった。恋だと思った瞬間失恋ね」


 暫く泣いて、扉を開けレイを呼んで馬車は邸に向かい走り出した。


「ごめんねレイ」

「いえ」

「失恋ね」

「お嬢様…」

「良いの。恋が出来るって分かっただけ」

「はい…」


 その日、夕食も食べずに部屋のベッドの上で泣いた。

 初恋と分かったと同時に失恋だもの。ジークルト様は何年とこんな思いをしながらお側に居るのよね。王女様の為に鍛えて、慕う思いを声に出す事も出来ずに。お辛いでしょうね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

【完結】なにぶん、貴族の夫婦ですので

ハリエニシダ・レン
恋愛
恋を知らずに嫁いだ令嬢。 夫は優しいけれど、彼には既に他に想う人がいた。 そんな中、長年守ってくれている護衛に想いを寄せられて…。 世の中の慣習に縛られながら、恋や愛や情が絡まりあってもがく男女の物語。 「姫様のオモチャにされたメイドと騎士(R18)」のリチャードの妻が主人公です。そちらにはほぼ出てこなかった人たちがメインの話なので、独立して読める内容になっています。

あなたの一番になれないことは分かっていました

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるヘレナは、幼馴染であり従兄妹の王太子ランベルトにずっと恋心を抱いていた。 しかし、彼女は内気であるため、自分の気持ちを伝えることはできない。 自分が妹のような存在にしか思われていないことも分かっていた。 それでも、ヘレナはランベルトの傍に居られるだけで幸せだった。この時までは――。 ある日突然、ランベルトの婚約が決まった。 それと同時に、ヘレナは第二王子であるブルーノとの婚約が決まってしまう。 ヘレナの親友であるカタリーナはずっとブルーノのことが好きだった。 ※R15は一応保険です。 ※一部暴力的表現があります。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。

華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

処理中です...