心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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ウォルは顔を下げている。シュンと垂れ下がる耳と尻尾。

可愛いなんてずるい

ウォルはいつも私を可愛いと言うけどどっちが可愛いの?


「ふふっ」

「メアリ?」


私の顔を覗き込むように見上げるウォルの顔。


「獣の部分もウォルの一部でしょ?」

「そう、なんだが…」

「だから檻の中なのね…。でも何でだろ、それほど驚かないのよね。子供の頃はもっと敵意剥き出しだったじゃない?他の子達と仲良くしてると怒ってどっかへ行っちゃうし、男の子と話してたら私の手を引いてその場から離れたでしょ?その時を知ってるからかな」

「嫌じゃ、ないのか?」

「それが嫌じゃなかったの。ウォルの好きが形として見えて私は嬉しかったの。私だけじゃないウォルも私を好きなんだって。だってそれって嫉妬でしょ?

子供の頃のウォルは今みたいに厳つくなかったじゃない?毛もふわふわしてて他の男の子達より優しくて女の子達は皆ウォルを見てたわ。私はいつも私のウォルなのにって嫉妬してたのよ?」

「そうなのか?」


ウォルは嬉しそうに耳を立たせ尻尾が左右に揺れている。

今の私達の関係は婚約者なのは変わらない。それでも恋人というよりも子供の頃に戻ったような関係。

ウォルを拒絶できず他の男性を愛する事ができないのなら、残された選択は一つ…。

もう一度だけ、もう一度ウォルを信じる事から始めようと思う。ウォルの魂の番が他国の獣人でもう会う事がないなら、お互いの心を離せないなら、お互い愛する気持ちが消えないのなら、もう一度だけウォルを信じてみようと思う。

怖いと思っていた獣の部分も聞いてみたら怖いというより嬉しいと思った。

愛くるしい少年時代から成長し、女性が近寄りがたい青年になった時、私は安心したの。ウォルの優しさも愛も私が独占している事が嬉しかった。

愛が重たいのは私もよ

だから許せなかった。私の手を離した事が、一瞬でも私を忘れた事が、

だって私はウォルが側に居てくれたから令嬢達や令息達の言葉も態度も耐えてきたんだもの。

どんなに悩んでも考えても最後に行き着く答えは『ウォルを愛してる』その答えしかないの。嫌いになろうとした。でも捨てきれない手放しきれないこの思いが残り続けたの。

なら認めるしかないじゃない。


私はウォルを今でも愛してる



それから少しずつまた積み重ねた。毎日会いにくるウォルを心待ちにし、贈られる花は部屋中に飾った。手紙を何度も読み宝物の箱へしまう。

髪型も服もウォルの目に映るなら可愛く映りたい。どのリボンにしようかどの髪留めにしようか迷い、ウォルが来たら何度も鏡を見て確認し部屋を出る。

玄関で待つウォルの姿を見つけ少し早足で向かう。目が合うとウォルは嬉しそうに尻尾を振り笑顔で私を待ってる。

庭に用意されたお茶とお菓子。

「メアリこのお菓子も美味しいぞ」

ウォルは私のお皿の上に次から次へとお菓子を置いていく。そして私が食べている姿をウォルはにこにこしながら見つめている。ウォルの話に耳を傾けハーブティーを飲む。それから庭をゆっくりと歩く。

前を歩くウォルの大きな背中を私は後ろから眺める。


ウォルの足が止まり


「メアリ、隣に来ないか?俺と並んで歩いてくれないか?」


私はウォルの元まで歩き隣に並びウォルを見上げる。嬉しそうに笑うウォルの顔を見つめ私も笑顔を返す。

それからは隣で歩くようになった。片手分開いてた距離が段々少しずつ近くなりお互いの甲が時々ぶつかる。何度かぶつかりウォルは私の手を繋いだ。繋がれた手の温もりに自然と笑みがこぼれた。

少し恥ずかしく少し安心するような、馴染んだ手の感触。頬を通る優しい風、色とりどりの花、綺麗な夕焼け空、誰と一緒に見るかで変わる景色。

見つめ合う私達をオレンジ色の光が包む。


「幸せだ…」

「うん…」


穏やかに過ぎる時間。

庭を一周しウォルが帰るのを見送る。見つめ合いお互い離せない手。


「メアリ、抱きしめてもいいか?」


私は頷く。大きな体に包まれる。ウォルは私の髪の毛を撫で私の肩に顔を埋めた。耳元から聞こえるウォルの声。


「メアリ好きだ…離したくない…」


懇願するような声に私もウォルの背中に手を回した。

離れたくないのは私も一緒

繋いだ手を離せなかった。今も背中に回した手を下ろせずにいる。もう一度初めから積み重ねようと、でも土台にはすでに積み重ねて育んだ愛がある。お互いを愛する思いがある。お互いの温もりが安心すると知っている。

少しずつ少しずつ近づきお互いの距離を埋め、愛しい気持ちが溢れた。


「ウォル時間だ」


ラルフの声に私達は互いを離した。それでもまた繋がれた手。


「時間だ」

「ああ分かってる」


ウォルは私の手をぎゅっと握り手の甲に口付けした。それから離したくないと抵抗するように指を絡ませる。少しずつ絡ませた指が離れ最後の指先までお互いの存在を感じた。

ウォルは急かされるように馬に跨り


「明日も会いにくる」

「待ってる」


馬でかけて行くウォルの背中を見つめる。門まであと少しの所。


「私も好きよ」


馬が止まりものすごい速さで戻ってきた。

転がるように馬から下りたウォル


「ほん、とう、か?」

「ウォルどうしたの?」

「今言った事、本当か?」

「え?今?聞こえたの!?」

「メアリの声が俺に届かない訳がないだろ。

メアリ、本当に…」


私は頷きウォルを見上げる。


「好きよ、ウォル」


ウォルは私を抱き上げた。


「本当だな?もう取り消せないぞ。ラルフも聞いたよな?」


呆れたようにラルフは手を上げた。

ぎゅっと抱きしめられ


「好きだメアリ、愛してる」


ウォルの尻尾はブンブンと勢いよく揺れている。

その姿に笑え、本人以上に雄弁に語る尻尾を愛しいと思った。



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