伯爵令嬢の恋

アズやっこ

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 クロード視点





「会いたいよ、クロード」
「クロードが側にいなくて寂しいよ」

 俺もお前に会いたかった。お前が側にいなくて寂しいよ。

「会いに来てよ」

 会いに来たかったよ。

「側にいてよ」

 側にいたいよ。

「抱きしめてよ」

 抱きしめたいよ。

「大好きよ、クロード」


「本当か?」


 俺は思わず聞いた。


「本当に俺が好きなのか?」

「好きよ、悪い?嫌ってる相手に好かれるなんてクロードも可哀想よね」

 何で俺がお前を嫌うんだよ。

「私の顔なんて見たくないのに」

 お前の顔、毎日見たい。


「ローラ」

 俺は声をかけた。

「ローラ」

 俺はもう一度声をかけた。

「フローラ」


 こいつ俺が居るって気付いてないな。

 なら、

 俺はローラを後ろから抱きしめた。

 ローラは俺が何を言っても聞く耳を持たない。こうなるとこいつは頑固になるんだよな。おまけに自分で自分の答えを納得しようとする。

 俺は、


「黙れ」


 と言って、ローラの唇に唇を重ねた。

 ローラは抵抗してくるが、ローラの抵抗なんて俺には何の抵抗にもなってない。

 俺は何度もキスする。

 俺はローラの肩に顔を埋め、


「ローラ好きだ」


 と、思わず声が出た。

 もっと格好良く好きだと言いたかった。

 それでも思わず出た声が俺の心の声だ。

 お前が好きだ。

 ずっと好きだった。

 平民の俺が、

 親に捨てられた俺が、

 好きになってはいけない相手。

 雲の上の存在。

 俺の思いが通じる相手じゃない。

 それでも恋い焦がれ愛してしまった。


 ローラと草を抜きながら話す。

 俺は穢れた人間だ。正直、それを聞くのが怖い。汚いと、触られるのも嫌だと、側に寄るなと、言われるのを聞くのが怖い。

 だがローラは「なら終わり」で許してくれた。その心の広さに俺が今迄どれだけ助けられ救われてきたかお前は知らないだろ?今だってその言葉で俺は救われた。ローラにこれからも触れて良いと、側に居て良いと、お前にまた俺は救われた。


 ローラが俺に抱きついてきた。


「私の事、嫌ってないのよね?」


 と、聞いてきた。

 俺の気持ち分かっただろ?お前が好きだと分かっただろ?俺達は両思いなんじゃないのか?

 だから俺は抱きしめ返し、


「ああ、好きだ」


 と言った。

 フレッドに殴られるけど、俺はローラをもう手放せない。フレッドには悪いが大事な妹を平民にする。


 俺はローラにキスをした。


「愛してる」


 と言った。ローラも「私も」って言ってくれた。

 嬉しい、俺は幸せだ。

 もう一度ローラにキスをした。確かめる様に、気持ちが伝わる様に、何度もローラの唇を奪った。


「お前等!!」


 フレッドの声にローラを俺の後ろに隠した。


「殴られるのは覚悟の上だ!」

「当たり前だろ!」


 と、容赦ないクロードの拳が俺の頬を殴った。

 正直、二、三発は覚悟していた。当たり前だ。大事な妹を平民にするんだ。おまけに貴族の令嬢が平民の男とそれも使用人と恋に落ちるなんて醜態だ、汚点になる。これから伯爵家を継ぐフレッドにしてみれば俺は悪魔か外道かどちらかだろう。

 それでもフレッドは俺の気持ちを知ってるからか許してくれた。本当この兄妹は心が広すぎる。お前達に俺は何度助けて貰え何度救われたか。

 俺は何を返せば良い?

 お前達に俺が返せるものはあるのか?


 フレッドは俺に婿になって貴族になれって言った。そんな事許される訳がない。それでもフレッドは本気のようだ。

 幼い頃から一緒に過ごし一緒に育ってきた。俺の一つ年上のフレッドは兄であり、友であり、親友だ。

 お前の望みなら貴族でも何でもなってやる。お前の望みならお前の補佐でも、執事でも、付き人でも、護衛でも、何でもなってやる。



 フレッドの後を付いて行き、旦那様と奥様がいるサロンに着いた。

 フレッドと旦那様の話し合いはいつしか怒鳴り合いになった。俺は怯えるローラを抱きしめ少しでも聞こえないように体の中に包み込む。

 震えるローラをこれ以上ここに居させる訳にはいかないと、


「フレッド!止めろ!」


 と、叫んだ。

 フレッドは怒鳴り合うのを止め、親子の縁を切った。ローラはいい、俺が幸せにする。でもお前は…。


 俺はローラの手を引きフレッドの後を付いて行く。

 馬車に乗り込むとアニーが既に乗っていて、馬車の中でフレッドの話を聞く。

 フレッドはローラを本当に大事にしている。親とローラ、どちらかを取るなら迷わずローラを取る、そういう男だ。

 それでも親を簡単に切り捨てる奴じゃない事も俺は知ってる。この結果に一番心を痛めてるのはフレッドだと思う。

 それでもローラを護る為の決断だ。


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