伯爵令嬢の恋

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
15 / 23

15

しおりを挟む
 お兄様が男爵になり、私はアニーと掃除をしたり庭をいじったり、伯爵家にいた時と変わらない生活をしている。

 お兄様に学園に入るかと聞かれたけど、丁重にお断りした。お金が勿体ないのではなく、ただ行きたくないだけ。元々お茶会や夜会は得意な方でもないし、友達も別に欲しい訳じゃない。気の合う友達は欲しいけど、令嬢達のマウントの取り合いは疲れるだけだし。

 クロードは騎士団を辞めお兄様の補佐として毎日頑張っている。私の婿になる為だって言ってるけど、毎日書類と格闘している。

 お兄様は領地へ行って帰って来ないから、クロが書類と格闘しているんだけど…。私も多少は手伝えるから手伝ってるけど、執事を雇った方が良いと心から思う。

 夫婦の寝室は鍵がかけられた。お兄様が領地へ行く時に鍵をかけ持って行った。結婚式をした日に渡して貰えるらしい。それでも廊下から入ってこれるから意味ないと思う。夜になるとアニーは1階にある使用人部屋で寝るし、2階は私とクロだけ。自由に行き来が出来るから中で繋がっていなくても関係ない。

 昨日も夜になってクロは私の部屋に来た。クロ曰く「好きな女と一緒に住んでいて部屋に来ない男はいない」らしい。「一応結婚するまでは手は出さない。だけど一緒に寝るくらいの褒美が欲しい」って毎日一緒に寝ている。それだけ頭を使って書類と格闘するのは大変なんだって。まあその気持ちは分かる。


 お父様とお母様はあれからどうなったかと言えば、伯爵家は没落した。お金は無い、稼ぐ事もしない、領地は荒れ放題の痩せ細った土地、散財する嫁、嫁に何も言えない夫、跡継ぎもいない、まあ没落するわよね。

 伯父様に助けを求めたらしいけど「一切関与せず」と言われたらしい。お母様は侯爵家に帰ると言って帰ったらしいけど門前払いをされてお父様の元に帰ってきたみたい。

 お父様が投資に失敗し貧乏になった時に「お金がないから今迄の生活は出来ない」とお母様にはっきりと言えていたら、「着ないドレスや宝石は買わない」と止めていたら、「贅沢はするな」と叱っていたら、今も家族で暮らせていたと思う。お父様が招いた事だけど家族で協力すれば貧乏ながら細々と暮らせていけた。それも今更だ。

 惚れた弱み?そんなのでお金は貯まらない。

 見栄?そんなのとうに無くなった。

 お父様はいい格好しいで、お母様は過去の栄光に縋りつき、結局自分で自分の首を絞めてただけ。現実から目を背けて夢の中で生きてきたつけを今払っただけ。


 一度、お兄様を訪ねて家に来たけど「親でも子でも無い」と追い返した。お父様は「薄情者」とか「親不孝が」と怒鳴り散らしていたけど、お兄様は選択肢をお父様に尋ねた。お父様が「親子の縁を切る」と選択した。今更文句を言っても遅いという事が何故分からないのか…。まあ、分からないから来るのよね。

 お父様とお母様は伯爵家から逃げる様に出て行った、それも使用人を残して…。今は何処にいるのか何をしているのか私は知らない。別に聞くつもりもない。きっとお兄様か伯父様は知ってると思うけど…。

 私はきっとお父様が言う様に薄情者で親不孝なのよ。二人が居ない生活が快適だと思うし、毎日楽しいの!



 一年前のあの日、お兄様とクロードと思い出の詰まった邸を出た。思い出の詰まった邸は人手に渡りもう中に入る事は出来ない。それでも皆の心の中で覚えているから思い出は無くならない。

 私は隣で歩くお兄様を見て、私達が進む前にいるクロードを見る。

 小さな教会でごく僅かな人達に見守られクロードと結婚した。


 結婚式が終わり、ささやかな宴も終わり、私は大きなベッドに座っている。部屋にあるお風呂は使っていてもこのベッドで寝た事は一度もない。夫婦になり初めて使うベッドに落ち着かない。


ガチャリ


 鍵を開け、扉が開かれガウンを羽織ったクロードが入って来た。

 私が座るベッドに乗り、私を抱きしめる。


「はぁぁ、長かった………。ようやくローラを抱ける」


 私とクロードの唇が重なり「愛してる」と耳元で囁かれ、そのままベッドに寝かされ初夜を迎えた。



 幼い時、お兄様と街へ出掛け倒れてるクロードを見つけ声をかけた。あの日がすべての始まりで、兄妹の様に育ちいつも側にいてくれた。夫婦になりこれからも側にいてくれる。

 あの日、倒れてる子供は別の所にもいた。行き交う人達は知らぬ顔でそこに誰もいないかの様に通り過ぎていた。私もその一人。お兄様と手を繋ぎお父様の後を付いて歩いていた。それでも目に止まった一人の少年に向けてお兄様の手を振りほどき走って行った。


「お兄ちゃん大丈夫?ローラの家に一緒に帰りましょ?」


 それが私とクロードの始まりの日…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

処理中です...