伯爵令嬢の恋

アズやっこ

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 クロードを男性と見てから私は少しおかしい。こんな時は草むしりね!

ブチ、ブチ

 草が抜ける爽快さ。良いわ!無心になれてなお良いわ!


「お嬢様」

「何?」

「もうそろそろ止めては」

「どうして?」

「もうすぐ夕刻です」

「そんなに?」

「はい」


 それでも私は目の前の草をむしる。


「ローラ」


 私の肩がビクッと揺れる。


「ローラ、こっち向け」

「何で」


 私は地面を見つめたまま。


「ローラ」

「草むしってるの。分からない?」

「まあいいよ。そのまま聞け」

「何?」

「俺さ、この邸辞めて街の騎士団に入ろうと思ってる」


 私は驚いて顔を上げた。


「何で!」

「まあ、給料いいし」

「そ、そうだけど」

「それに一人分減れば誰かが辞めなくてもいいだろ?」

「ど、どう言う事?」

「おっさんが旦那様に言われたらしい」

「辞めろって?」

「それに近い話だけどな」

「お兄様は?」

「若は知らないと思う」

「お母様が無駄使いするからじゃない!」

「惚れた弱みだな」

「そんなの誰も関係ないじゃない!」

「それでも旦那様には奥様が全てだ」

「お父様もお父様よ!屑石掴まされて挙げ句財産全部失くなって…」

「旦那様のせいじゃないだろ?」

「お父様の見る目が無かったからでしょ!」

「そうかも知れないけど、今更それを言っても仕方ないだろ」

「それで使用人を辞めさせないといけなくなったのよ?今迄何人辞めさせたと思うの?これでもギリギリなのよ? お母様の散財を無くせば辞める事ないじゃない!私言ってくるわ!お父様に文句言ってくる!」

「止めろ」

「どうしてよ」

「ならお前は金持ちの家に嫁げって言われるぞ」

「それでクロが辞めなくていいなら喜んで嫁ぐわよ」

「止めてくれよ。俺はそんなの望んでいない」

「クロは家族なのよ?幼い頃から一緒に育ったじゃない。家族を放り出すの?嫌よ」

「ローラ、俺はローラの家族じゃない」

「どうしてそんな事言うの?家族じゃない」

「旦那様の惚れた弱み、俺も分かるんだ。旦那様は奥様に苦労をさせたくない、今迄通りの生活を送ってほしい、ただそれだけだ」

「そんなの、お金ないんだから生活は変わるわよ」

「それでも旦那様は奥様に格好いい姿だけを見せたいんだよ。格好悪い所は惚れた女には見せたくない、男ってそう言う生き物なんだよ」

「そんなの分からないよ」

「ローラ、俺はローラが好きでもない男と結婚するくらいなら俺は喜んで辞めるよ」

「嫌よ」

「ローラには幸せになってほしいんだ」

「私は今も幸せよ?お金がなくても毎日クロと一緒にいれて楽しいもの」

「ローラ」

「嫌よ」

「ローラ、分かってくれ」

「嫌。分かりたくない!」

「フローラ!」

「な、何?」

「もう俺を解放してくれ」

「え?」

「若とフローラには感謝してる。拾って貰った恩義は返したつもりだ。もう俺を解放してくれないか」

「な、なん、で…」

「もうフローラの側にいたくないんだ」

「どうして?どうしてよ」

「フローラの側にいるのが辛い」

「どうして? なら悪い所は直すわ。クロが嫌がる所を直すから」

「そう言う事じゃないだ!」

「どうして離れて行くの?」

「もうフローラの我儘に振り回されるのは嫌なんだ」

「なら我儘直す」

「俺はフローラの奴隷じゃない」

「そんな事思った事ない」

「俺はフローラの兄貴じゃない」

「そうだけど一緒に育ってきたじゃない」

「俺はフローラの家族になりたい訳じゃない」

「そうだけど、」

「俺はフローラが昔から嫌いだった。何もかも手に出来るのにもかかわらず俺の全てを奪っていく」

「奪ったつもりはないわ」

「俺の自由を奪った」

「そ、そんな事、」

「目の前で親に甘える姿を見せつけた」

「そ、そん、」

「綺麗な服を着て美味しい物食べて」

「そ、」

「食べないからと俺に施しをした」

「………」

「俺がどれだけ惨めになったと思う」

「………」

「もう俺を自由にしてくれ」

「………」


 クロードは私の目の前から去って行った。


「ごめんな、ローラ。俺を恨んでくれ」


 クロードの囁いた声は私には届かなかった。


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