貴方の幸せは願えません

アズやっこ

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前編

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私の家に届いた招待状。その招待状を持ち部屋を出る。

作り笑顔も、感情を隠すのもこの半年で上手くなった。

皆が長椅子に座り今か今かとその時を待っている。

私は後ろの席に座り俯いていた。顔を上げれば私の視線の先に貴方が立った。髪を整え、白い服を着て、貴方はそこに立っている。

扉を見つめる貴方。

扉が開き一歩一歩と貴方に向かって歩いている女性も白い服を着て、手には花を持っている。

隠された白い布の下、幸せそうに微笑んで貴方を見つめている。私は幸せよ、そう言わんばかりの彼女を皆が見つめている。

今の私を貴方だけは見ないで。

今の私を貴方だけは探さないで。

私は貴方から目をそらさない。これは貴方への別れの儀式。

貴方の隣に立つのは私だと思っていた。こんな立派な教会じゃなくて街の小さな教会で、同じ白い衣装を着て幸せって微笑み合うの。そんな夢を語った日もあった。

『綺麗だろうな』貴方はそう言った。幸せそうに私を見つめて『幸せになろうな』と口付けをした。

子供は何人欲しいとか、俺はこんな父親になりたいとか、貴方は私との未来を語っていた。

『子供が出来たら父さん達に俺達の事を話そう』そう言って体を繋げた。初めて体を繋げた時はお互い緊張して『上手く出来なくてごめん』貴方はそう言ったけど、私はすごく幸せだったわ。

それから何度私達は体を繋げた?

ねぇ、私は練習台だったの?

『好きだ』と言った言葉も、『愛してる』と言った言葉も嘘だったの?

私は貴方を愛していたわ。本当に貴方を愛していたの。

席を立ち彼女の前に立ち『この人は私のものよ』そう言って貴方の手を取ってここから二人で逃げてもいい?

殺せるものなら殺したい。

彼女に『私のお古だけど貴女にあげるわ』そう言ってもいいのよ?

私を見つめないで、私を探さないでと思っても、貴方はもう私を見つめないし探さない。貴方の目に映っているのは貴方に向かい歩いてくる彼女の姿だけ。

貴方はそのまま彼女を見つめていて。

私が涙を流していてもそれに気づかない。私の涙を拭ってくれた貴方の手はもうない。

今はこのまま、

私は自分の手で自分の涙を拭える。だから今はこのまま涙を流す。

貴方の未練を断ち切る為に。

さよなら、

さよなら、貴方を愛していたわ。

私の初恋で私の初めてを奪った人。

これで最後。今日で最後。貴方の為に流す涙はこのまま枯れるまで流し続ける。

大丈夫。この式が終わるまでに枯れるわ。招待状が送られてきてから半年。その間泣くだけ泣いたもの。

今日は最後に貴方の顔を見に来たの。もう会う事も言葉を交わす事もない貴方。

『お幸せに』

その言葉はまだ言えない。きっと何年経っても言えない。

私は一生貴方の幸せを願えそうにない。

『お元気で』

今の私の精一杯の強がりの言葉を心の中で言った。

皆が二人に注目し声をかけている間、私は目を閉じ真っ直ぐ前を向いている。

二人の姿を見てなるものか。二人に声をかけてなるものか。

私だけは二人の祝福を祝わない。

パタンと扉の閉まる音が聞こえ二人の姿が消えた。


「マリッサ帰りましょ。その前に姉さんと義兄さんに挨拶だけしてくるわ。貴族様の結婚式に私達まで招待してくれたんだもの。少しだけ待っててくれる?」


お父さんとお母さんは伯父さんと伯母さんのもとに歩いて行った。伯父さんと伯母さんは色々な人に囲まれている。

私は教会の外に出てお父さんとお母さんを待っている。

通り過ぎる人達からジロジロと見られ失笑される。

彼女の友人達のような装いではない。それでも私にとっては一張羅。そこにお母さんが刺繍を刺してくれた。

それでも惨めなのは惨め。

私は目を瞑った。

半年前まで幸せだった。招待状が届いてから子供が出来ていますようにと何度も願った。子供が出来ていたなら結婚はしないだろうと、二人で駆け落ちしてもいいとさえ思った。

何も知らなかった。何も聞かされていなかった。

招待状が届いた一週間前もいつものように会っていつものように抱きあった。

『子供、今月こそ出来てるといいね』そう私が言った時、貴方は焦った顔をした。いつもなら私のお腹を撫でて幸せそうに笑うのに。

何度神に願ったか。招待状を受け取ってその願いは強くなった。『絶対に赤ちゃん出来ていて』そう毎日願った。それでも無情にも月のものがきて全て失った。

貴方を繋ぎ止める唯一の希望を。

『あなたは意地悪ね』

意地悪なあなたに私から贈るわ。この気持ちを、今日ここにあなたのもとに置いていく。あなたを信じた時もあった。これがあなたが私に与えた試練なら、私はあなたを恨んでしまいそう。

いつかまたあなたに会える日が来たら、今度は意地悪しないで私の幸せを祝福してほしい。今はまだ想像もできないけど、幸せそうに笑う私の顔をあなたにも見せてあげる。


「マリッサ」


聞き馴染みのある残酷な声。

私はゆっくり目を開けた。



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